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日本人にとって、信仰とは何か?(1)

面と向かって「あなたの宗教は何ですか?」と聞かれると、「無宗教です」と答える日本人は少なくないのではなかろうか? 一方で、お守りやおみくじには馴染みがあるし、初詣や墓参りなど「宗教的」行為も決して珍しくない。「無宗教」と答えたにも関わらず、「神仏に対する信心のかけらもないのか!」と詰問されると、「いえ、けっしてそんなことはありません」などとと答えてしまいそうである。そこで手元にある本を読むと、こんなことが書いてある。

日本人は「薄い」仏教徒であり、また「薄い」神道家でもある。深い信仰をもたなくても、日本人の多くは諸行無常的な感覚を持っているし、本居宣長の言う「もののあはれ」を解する心をもっていると言っていいだろう。

中村圭志(2014)『教養としての宗教入門』中公新書

なるほど、日本人は薄くて浅い宗教家らしい(こう言っては悪口に聞こえるが)。
では、「薄い」仏教徒はどのくらいいるのか?まさか100%ではないだろう?
諸行無常的な感覚はどのくらい浸透しているのか?
信仰心を持っている人はどのくらいいるのか?逆に、信仰心のかけらもない人はどのくらいいるのか?

こうしたとめどなく湧き出てくる疑問を解消すべく書いたのがこのノートです。

日本の宗教人口

まずはWikiに頼ります。さすが、それなりに詳しく書いてあります。

「Wikipediaはレポートに引用してはいけません、Wikiの出典にあたりましょう」という鉄則に従い、私も出典を見る。まず面白いのがコレ。

文化庁発行の分厚い宗教年鑑がタダで閲覧できる。各宗教団体の歴史などもまとめられていて、意外にもお勉強に役立つかもしれない。

文化庁(2021)『宗教年鑑 令和3年版』p.18

この宗教年鑑に載っている各宗教団体の信者数を見ると、さも日本が宗教大国であるかのように錯覚する。

グラフ1 文化庁(2021)『宗教年鑑 令和3年版』p.35

そう、日本の信者数を足し合わせると、日本人口の1.4倍超なのである。しかし、これはあくまで宗教団体の主張する「信者」の数であり、個人の自己認識ではない。
このため、個々人の意見を知るにはアンケートを実施する必要があるのだが、幸いNHKの調査結果を見ることができる。

このNHK放送文化研究所のレポート「日本人の宗教的意識や行動はどう変わったか」(2019)では、1998年、2008年、2018年に実施された宗教に関する意識調査の結果を元に、過去20年間の日本人の宗教観の変化が報告されている。「信仰している宗教の割合は変わらないものの、信仰心は薄くなり、神仏を拝む頻度は低くなっている」といったまとめがされていて、これはなかなか見ごたえのあるレポートだ。
なお、この調査は国際比較調査グループISSPが主導しているらしく、こちらのサイトから各国の調査結果が入手できる。以下では、それらのデータを考察に使わせていただくので、この場を借りて御礼申し上げます。

このレポートで紹介されているアンケートを見ると、「ふだん信仰している宗教はありますか」という項目がある。けれども、次のような但し書きがついている。

ただし、冠婚葬祭の時だけの宗教でなく、あくまで、あなたご自身が、ふだん信仰している宗教をお答えください

この但し書きの存在自体が、日本の宗教事情の複雑さを裏書きしているような気がするが、それはさておき、アンケートの結果はこうだった。

グラフ2 日本人の信仰している宗教。Nはサンプル数(以下同じ)。

宗教年鑑の信者数統計どおりなら、仏教と神道が半々くらいになりそうなものだが、「冠婚葬祭を除く」という但し書きの効き目もあったのか、約6割がいわゆる「無宗教」という結果になっている。一方で、何らかの宗教を信仰している人が36%いるのも見逃せない。「日本人は無宗教」などという言説もあるが、それは正確ではないことがよく分かる。

日本人の「信仰心」

また、別の設問では、「あなたには信仰心や信心がありますか。それともありませんか。」というのもある。その結果は次の通り。

グラフ3 日本人の1/4は信心があり、半数は信心がなく、残りは自己認識不足。

結果を見ると、程度はともかく信仰心・信心があるのは25%くらいである。ところが、一つ前に紹介した設問では、何らかの宗教を信仰していると答えた人は36%だった。このことは、何らかの宗教を信仰しているにも関わらず、「信仰心がある」とは答えない人の存在を示唆している。

そこで、何らかの宗教を信仰している人に限って「信仰心」の程度を調べてみると、次の図のようになる。

グラフ4 宗教を信仰していても信心がない人が1/4もいる!?

宗教を信仰していると回答した人の中で、信仰心・信心があると答えたのは約半分だった。しかも、「ある」と答えた人の2/3以上は、「まあある」という、あまり熱心でなさそうな答えである。これはなるほど驚きである。NHKのレポートにも「日本人にとって、宗教を信仰するということは何を意味するのかということを考えさせられる結果である」と書かれている。まるで説教されてるみたいだ。

それでは、逆に「無宗教」と答えたにも関わらず信仰心・信心があると答えた人はどのくらいいるのだろうか。結果を見ると次のようになる。

グラフ5 「信仰している宗教はない」人のうち、信仰心がないのは2/3。

信仰している宗教はないと答えただけのことはあり、信心が「まったくない」と答えた人が1/3はいるが、「ない」と言い切れなかった人(「ある」または「どちらともいえない」)が1/4いることも事実である。

<信仰心がないのに宗教を信仰している>または<信仰心はないわけではないのだが宗教は信仰していない>という人々の存在。これらのパラドックスはどのように説明できるだろうか。

そこで、少々イケズなのかもしれないが、日本人を「何らかの宗教を信仰している人」(36%)と「宗教を信仰していない人」(62%)の2グループに分けて、「信仰組」の信仰のぐらつきと、「無宗教組」の宗教性という観点からの吟味もしてみたいと思う。
(その2につづく)

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