― 「ところかまわずナスかじり」第五十六話 アゴヒゲをたくわえている人からアゴヒゲを取る方法 ―

 アゴヒゲというのはカビの一種である。
 カビは菌類の一種であり、通常は地表や植物の表面などに生えてくる。浴室や台所など、湿気の多い場所に生えるカビや、食物に生えるカビなども我々が日常所見しているところであるが、生体に生えるカビの例も多い。カビには様々な種類がみられるが、アゴヒゲはおそらくクモノスカビの変性したものではないか、というのがロシアのカ研(カビ研究学会)の第一人者であるチョメロフスキー博士の主張するところである。
 
 さて、アゴヒゲが哺乳類人科に寄生する事例は100人に1人程度であり、この比率は国籍や人種を問わず、世界中どこでも不思議に一定している。アゴヒゲに寄生された場合の宿主への健康上の影響であるが、以下の事例が報告されている。

事例A)食事の際に食物がつきやすく、そのため、食後が汚い。
事例B)鏡を見る頻度が高まるため、自意識過剰に陥る。
事例C)『他者より自分は優れている』との錯誤により、嫌われる。

 以上のような事例はほんの一例であるが、その他にも性的な行動により、他者への(特に陰部などへの)感染など、非常に多く報告されている。また、アゴヒゲに繁殖された場合、その多くは自覚症状がなく、自分の実際の毛髪の一種だと錯覚してしまうことも世界中で共通して見られる症状の一つである。この思考パターンがアゴヒゲにより操作されたものであるかどうかに関しては将来の研究が待たれる。
 次にその駆除方法を論じる。

 患者に理論的な説得をしても多くの場合は患者の同意が得られないということはドイツの生物学者であるJ・K・フリードリッヒ博士がWA(World Agohige)学会において豊富な事例とともに紹介している。
 フリードリッヒ博士の到達した結論であるが、患者からの同意を得られず、しかしながら患者の健康を損なう重篤な疾患が所見された場合、患者の意思よりも治療を優先すべきである、ということである。問題はアゴヒゲが本人だけでなく、他者への感染もみられる感染性の疾患であり、いわゆる社会衛生学的な見地から発する博士のこの主張は至極妥当なものだと思われる。  
 同学会内で博士は、アゴヒゲの駆逐に有効な薬剤としてエタノール類を挙げており、その具体的な使用法に関して、実際に博士が患者に行った治療の際の動画などが発表された。それら動画内に於いて博士の行っていた治療法とコツをまとめると以下のようになる。

 1)患者が診察室に入室したらすぐに、患部への80%希釈エタノールの直接散布を行うこと。
 2)患者の執拗な抵抗を考慮し、当然患者には前もって知らせることなく行うこと。
 3)散布直後の患者の中には激しい抵抗を示す例も多い。よって、患部への散布の前にまずは患者の眼球へ散布し、視力を一時的に低下させることによって患者の抵抗を前もって抑制すること。

 以上をもって、アゴヒゲ発症原因およびその対処法についての紹介とする。
 大切なのは、アゴヒゲを生やした患者本人の自覚がなく、その治療にはある種の強制力を伴わざるを得ない、という点である。法制度の見直しもそうであるが、何よりも、患者の身近な人々がまず最初に患者の動向に敏感になる、ということがアゴヒゲの蔓延を抑えるためには必要不可欠となる。ある者がテレビや映画などに出てくるアゴヒゲをじっと見つめるようになった、または、頻繁に顎に手をやるようになった、もしくは、鏡で自身の顎を見る回数が劇的に増えてきた、というような症状を示すようであれば、すぐに最寄りの医療機関に相談するべきである。また、その者が清掃時に除菌剤の使用を極度に嫌がるようになった、もしくは、日光を極度にさけるようになった、という症状が見られた場合などもまた、罹患が疑われる。ただ、その際にはその者がただ単に掃除を嫌がっているだけ、もしくは、気分的なものから外出を控えるようになっただけ、という可能性も考えられる。罹患を確かめる手段の一つとして、一度、その者の就寝時に除菌剤を顎付近に塗布して様子をみることも有効である。もし患者がアゴヒゲに罹患していた場合、患者が除菌剤を極端に嫌がる反応(体を反らせる、しかめつらをする、等々)が見られるはずである。
 
 いかなる疾患に於いてもそうであるが、早期発見、早期治療が最も大切なことであることは言うまでもない。特にアゴヒゲには‟おしゃれだ”という偏見もある。そういった偏見に流されず、冷静にアゴヒゲに対していくことが今、我々に求められていることであろう。

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