【ホリエモン訴訟】メスイキは果たして侮辱になるのかについての法的検討
※名誉毀損や侮辱に関する簡単な解説はこちらの記事をご覧ください
先日、ホリエモンこと堀江貴文氏(以下、「ホリエモン」といいます)が、自身を侮辱したツイートについて、発信者情報開示請求訴訟をしたという記事がネット上で大きな話題になりました。
この訴訟で、侮辱の一つとしてあげられていた「メスイキ」という表現は法的には興味深い問題提起をするものですので、ここで検討していきます。
なお、ホリエモンがこのような訴訟提起をするということは名誉感情を侵害されたということでしょうから、あまりホリエモンの名前は出したくありませんでした。しかし、「メスイキ」が侮辱に当たるかについて法的検討をするためには、後述するように、ホリエモンと「メスイキ」という単語との間の関連性を踏まえる必要があったため、やむを得ずホリエモンの名前を出しました(他にも後述する理由はありますが)。ご容赦ください。
「メスイキ」は一般的な侮辱表現なのか
そもそも、「メスイキ」というのは侮辱表現なのでしょうか?
たとえば、他人に向かって「バカ」「アホ」「マヌケ」「死ね」などと言うと、言われた人は侮辱されているとわかるでしょう。
これらの単語は、社会通念上、侮辱表現と解されているため、裁判所も問題なく侮辱ではあると認定するでしょう(もちろん、侮辱と認定してもそれが社会通念上許容される限度を超えているかという問題は残ります)。
これに対して、他人に向かって「メスイキ!メスイキ!」と叫んでみてください。
「メスイキ」と言われたほうは、まさかこれが侮辱表現とは思わず、むしろ、「メスイキ」と連呼している人について、こいつ頭おかしいんじゃねえのと思うだけでしょう。「メスイキ」を連呼しているほうには侮辱をしている意図があったとしても、言われたほうは侮辱されているとはとても思いません。
そもそも一般の人は「メスイキ」という言葉すら知りません。謎の単語をわめかれても奇異の目で見るだけで名誉感情は侵害されません。
また、「メスイキ」が性的行為をさすとしても、だからといってそれは侮辱にはなりません。たとえば、性交渉を指す「セックス」や自慰行為を指す「オナニー」、あるいは肛門性交を指す「アナルセックス」という言葉を使われてもそれは性的羞恥心を感じさせることにはなっても侮辱にはなりません。たとえば、
「磯野ー、アナルセックスしようぜ」
あるいは
「磯野ー、セックスオナニーセックス」
と言っても、磯野くんは「恥ずかしい」「こいつ頭おかしい」とは思っても自分が侮辱されてるとはとても思いません。
このように、性的表現を使われたからと言って、ただちに侮辱とはならないのです(もちろん、「お前はセックスが下手だな」と言うと、それは問題なく侮辱となるでしょうから、文脈によっては侮辱になりえます)。
たとえではなくて、本件の事案に即して説明してみましょう。今回問題となったツイートは、
ホリエモンが来店した時の正しい対処法
「野菜突っ込んでメスイキさせる」
というものだったとされています。これについては言われてみると侮辱表現かなという印象を受ける方もいるのではないでしょうか。
しかし、名前をお借りして申し訳ないのですが、これを他の有名人、たとえば西村博之におきかえてみましょう。
西村博之が来店した時の正しい対処法
「野菜突っ込んでメスイキさせる」
と書いた場合にはこれを侮辱であると考える人はいないのではないでしょうか。
「メスイキ」問題の一番深いところはここにあります。
一般的には侮辱にならない表現が特定人の名誉感情を侵害してしまったとき、これを違法と評価しても良いのでしょうか。
一般的に「メスイキ」は侮辱とは考え難いがホリエモンに対してはなぜ侮辱となりうるか
一般的には侮辱とならない「メスイキ」という表現がどうしてホリエモンに対しては効いてしまうのでしょうか。
これは次の2つの過程があったためと推測されます。すなわち、
①週刊文春2016年12月15日号で、大島薫さんとの交際が報じられた(ただし、このときはメスイキという単語はなかった)
②①を受けて、どこかの匿名掲示板でメスイキという単語をもとに、エピソードが創作されてしまった
という点です。
では、この2つについて見ていきましょう。
①週刊文春での大島薫さんとの交際報道
週刊文春2016年12月15日号で、ホリエモンは、女装男子として有名な大島薫さんと手をつないでいる写真を撮られ、さらには高級ホテルに入っていったと報じられました。
私は当初、ホリエモンはこの記事を受けて、「メスイキ」と揶揄されることで、同性愛者もしくは同性愛行為の愛好者であると見られてしまうと感じ、これによって名誉感情が侵害されたのかと思っていました。
しかしながら、ホリエモン、ニューハーフとの一夜を赤裸々告白 「意外に面白い」過去には女装男子と交際報道という記事で、ホリエモンはニューハーフの下半身を舐めたことをテレビという公共の電波にのせて、赤裸々に語っていたとされています。
自ら公共の電波にのせて拡散させたということからすると、同性愛行為をしていたとされることに関しては、別段、ホリエモンの名誉感情を侵害していないように思われます。
②メスイキに関する創作投稿(捏造)※閲覧注意
メスイキという単語は、実は、件の週刊文春にはのっていません(中古ですがこの記事のために実際に購入して確認済み)。
せいぜい、ホリエモンと親しいという匿名の人(うさんくさいですよね)が「なぜかAに対してはSなのに、大島さんに対してはMなんだそうです。しかも十一月四日は、途中から堀江氏が女性役になって、大島さんから激しく攻められるというシーンもあった」(週刊文春2016年12月15日号124頁)と言ったことや、大島薫さんが「んー、彼が欲しがるというのはありますね」(同125頁)と言ったとされている程度です。ちなみに、このような報道についてもホリエモンは真実であると認めているわけではないので注意してください。
メスイキという単語は、このホリエモンと大島薫さんとの交際報道を受けて、匿名掲示板で、次のような創作投稿がされてしまったがゆえに広まったものと思われます(エグいので閲覧注意)。
大島薫「堀江さんの性感帯は耳。前立腺をコリコリしながら耳に息を吹きかけると私の名前を叫んで激しくメスイキする」
大島薫「潮吹いた後に『女の子になっちゃったね』って言うとそれだけで恥ずかしそうにしてまた勃起してた」
大島薫「真性のマゾホモなんだと思う」
ただし、これについて、当の大島薫さんは次のように事実ではないと否定されています。
大島薫さんは、メスイキについて次のようなツイートをしていたこともあり、この創作投稿が真実のように信じられて、広まってしまったように思われます。
さて、前述のとおり、ホリエモンは同性愛行為をすること自体は公共の電波に自ら乗せるほどで、気にしていないことのようです。
しかしながら、大島薫さんがおっしゃられるように、メスイキには「受け」「攻め」という概念があるようで、ホリエモンに関する創作投稿では、ホリエモンが「受け」それも「マゾホモ」であるというかなりエグい表現までされてしまっていました。
「メスイキ」そのものに関しては前述のとおり、一般的に侮辱表現とは言い難いものの、「マゾホモ」であると言われればこれは問題なく侮辱表現の一種であるものと考えられます。
推測ですが、このような環境(前提)があるが故に、ホリエモンは「メスイキ」と言われると、「マゾホモ」であると侮辱されているに等しいと感じたのではないでしょうか。それであれば名誉感情を侵害されたというのは十分に首肯できます。
なお、私が本記事を書いた目的は、主に名誉毀損や名誉感情侵害について知識提供をし、もってインターネットの自由な言論を確保しつつ、違法な名誉毀損や侮辱を予防することにありますが、この投稿内容が真実ではなくただの創作であることを知ってもらうことも目的の一つ(ホリエモンの名誉のため)です。
ホリエモンにメスイキと言う人の一部は、この創作投稿を真実であると信じて、やっている印象があります。メスイキうんぬんというのが創作であると知ってもらうことによって、メスイキと書かれることもある程度抑止できるのではないかと考えた次第です。
一般に侮辱とはとらえれない表現が特定環境下にある個人については侮辱となることを肯定しても良いか
さて、以上ご説明したとおり、「メスイキ」という表現そのものは侮辱とは言い難いです。正直、これだけだと「ケツから指突っ込んで奥歯ガタガタ言わせたろか」を性的表現にしたものに過ぎないように思われます。
つまりは「メスイキさせたろか」と言った場合には、その人の意思に反して無理やりメスイキをさせ、陵辱するぞという脅迫にはなりえても侮辱にはなりえません。
しかしながら、「メスイキ」という表現が「マゾホモ」と言っているのに等しい環境を作られてしまった人に対して「メスイキ」と言うのは侮辱とも考えられます。
問題は、このように、一般的には侮辱とならない表現でも、特定の環境下にある人間に対しては侮辱となり得ることを肯定しても良いのでしょうか。
私見とすると、民法上の侮辱はあくまでも人格権侵害であること、名誉感情は名誉毀損と違って社会的評価ではなく内心であることを考えれば、これを肯定しても良いと考えます。
もちろんだからといって、被害者の内心のみを基準にして侮辱か否かを決めるのは妥当ではありません(社会通念上も侮辱とされる言葉を使った場合には、原則として侮辱をしたとして認められるべきですが、社会通念上、侮辱とは考え難い単語を使った場合に、これがその人を侮辱したものとして認めるためには、傷ついたという主観だけではなくもう一段階の立証が必要になると考えます)。
たとえば、「テレビ」という単語が自分にとって侮辱であると考える人がいたとします。この人に対して、「昨日テレビ見た?」といっただけで侮辱になるかというと、それは認められるべきではありません。
そこで、「A」という単語が「B」という侮辱の意味で使われる環境が形成されていること(本件に即して言えば、ホリエモンに対しては、「メスイキ」=「マゾホモ」という意味になる環境が形成されていること)の立証は必要と考えます(このような環境を加害者が知っていたかどうかという問題については故意・過失で考慮すれば足る)。
ホリエモンに対してメスイキと言うことは違法な侮辱になるか(私見)
それでは、ホリエモンに対してメスイキと言うことは違法な名誉感情の侵害となるでしょうか。
私見とすると、これはかなり厳しいと考えます。
その理由とすると、ホリエモンに対して単に「メスイキ」と言うことは、「マゾホモ」と言っているに等しいという環境が形成されているとまでは言い難いと考えるためです。
まず、「メスイキ」と「マゾホモ」とを関連付けるのは、ただの匿名掲示板における投稿にすぎず、たしかにある程度広まりはしましたが、ネットのごく一部に広まったにすぎず、社会的にはそれほど伝播されてないし、特定のコミュニティの間では「メスイキ」=「マゾホモ」という意味になるということにまではなっていないものと思われます。
また、たとえば、ホリエモンに「メスイキさせんぞ」と言った場合に、文言通り、「メスイキさせてやる」と言っている、つまりセクハラまたは脅迫的な意味で捉えることも十分可能です。むしろ、一般的には侮辱ではなく、セクハラや脅迫のように受け取られるのではないでしょうか。
本件に即して言えば、
ホリエモンが来店した時の正しい対処法
「野菜突っ込んでメスイキさせる」
というツイートは、ホリエモンが来店した時、まともなサービスを提供するのではなく、ホリエモンに対して性的陵辱を与えて追い返すのが正しい対処だ、という程度の意味に見えます。
このツイートを見てホリエモンはマゾホモであるというような意味でとらえることは困難です。
以上のとおり、ホリエモンに対して単に「メスイキ」といっても、侮辱になるとするのは厳しいと思われます。ましてや社会通念上許される限度を超えるかと言われると、さらに難しいものと言わざるを得ません。
ただし、名誉感情侵害はどのような文脈で用いられるかによっても変わってきますので、ホリエモンに対して「メスイキ」という場合すべてが合法という見解ではありませんので注意してください。
余談ですが、発信者情報開示請求訴訟そのものはハードルが低い上にほかに侮辱表現があるので本件での勝訴の見込みは十分あるのではないでしょうか。
まとめ
・「メスイキ」は一般的に侮辱表現あるとは言い難い。性的表現だからと言って、ただちに侮辱になるわけではない
・しかし、ホリエモンは大島薫さんとの交際報道がされ、これをもとにホリエモンは「マゾホモ」であるとする創作投稿がされ、この創作投稿がネットの一部である程度広まってしまった。なお、「マゾホモ」は侮辱表現と考えられる
・Aという表現がBという意味になる環境が形成されている場合、本件でいえばホリエモンに対しては「メスイキ」という表現が「マゾホモ」という意味をもつ場合には、「メスイキ」は侮辱表現になると考えられる
・ホリエモンに関して、「メスイキ」が「マゾホモ」になるような環境が形成されているかというと、厳しいと考えられる
・本件で問題とされたツイートも、「マゾホモ」というような意味でとらえることは難しく、むしろ、単に「メスイキ」をさせる、すなわち性的陵辱を与えるという意味に考えられる
・ただし、ありとあらゆるケースで「メスイキ」が侮辱にならないというわけではない。文脈等次第では、「メスイキ」も侮辱表現になりうる
・違法かどうかはさておき、「メスイキ」うんぬんは真実ではありませんし、ホリエモンは傷ついていると考えられるので、ホリエモンに対して「メスイキ」という単語を使うのはやめましょう
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