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「匣の中」を読んで(蘊蓄が語られる小説に興味がある人には、たぶんお勧め)

「奇怪な事件」「みんな探偵みんな容疑者の推理合戦」「理解を超えた結末」そんな奇怪な小説です。1964年の「虚無の供物」1978年「匣の中の失落」、1988年「匣の中」、2007年「天帝のはしたなき果実」・・・。僕の知識が足りず、列挙できる数は少なく申し訳ないが、このような奇怪小説は、もっと世にあって、将来も生まれ続けるだろうと考えている。

 奇怪な事件が起きる。関係者が集まる。その関係者が順番に探偵となり、推理を披露する。その推理を誰かが否定し、違う人が違う推理を披露する。また、誰かが否定して、違う推理が披露される。それが続く。この展開が面白い。多分見どころ。そして、最後にわかったようなわからないような結末が描かれる。正直、推理内容も多く濃く、読み応えはあるが、その分読み切るには体力がいる。そういった類の本と僕は理解している。

 今回紹介する「匣の中」も同じ展開である。推理を披露しているシーンは、難しく理解できない部分も多々あったが、読み応えがあった。正直、蘊蓄に丸め込まれたかなと思う部分があるが、テンポと発想に惹き込まれました。これは、圧倒的な知識のもと、蘊蓄を語る言葉の力に魅せられる感覚を、僕自身が好きだからかなと思っています。推理を披露する部分は、中禅寺秋彦の”憑き物落とし”、御手洗潔の”神的推理” 刀城言耶の”解釈”に通じる爽快感を感じました。ただし、謎の解明には、スッキリしない部分もあります。ちなみに、結末には”そうしたか”という感想を抱きました。

 正直、お勧めはあまりしません。所々没頭したのは事実だが、読んでいて楽しかったか、面白かったかと言われれば、完全肯定は難しいです。言葉の力に圧倒されるという感覚に共感できる方には、おすすめかも。文字量もそれなりにあり、専門用語も多い。いづれにしろ、興味が沸きましたら自己責任で体験してください。
 6/10読了 作者:乾くるみ タイトル:匣の中 出版社:講談社