見出し画像

デザイナー・大島依提亜×イラストレーター・高橋将貴に聞く、映画ポスターの難しさと面白さ 【プロフェッショナルストーリーズ Vol.9】

映画『おらおらでひとりいぐも』を題材に、それぞれのプロフェッショナルたちを深堀する連載企画が展開中。

第9回のゲストは、グラフィックデザイナーの大島依提亜さんと、イラストレーターの高橋将貴さん。おふたりは、なんと同じ東京造形大学ご出身です。

大島さんは映画ポスターやパンフレットのデザイナーとして『ミッドサマー』(19)など、様々な作品を幅広く手掛けられています。高橋さんは、雑誌「POPEYE」ほか、多数のメディアにイラストを描き下ろしています。

『おらおらでひとりいぐも』の本ポスターに加え、イラストポスターでもコラボレーションを行ったおふたりに、これまでの歩みや創作術、イラストポスター企画の意義について伺いました。

なお、『おらおらでひとりいぐも』公式noteでは、高橋さんに加えてイラストポスターを手掛けられた石黒亜矢子さん・丹地陽子さんにもインタビュー。順次公開となりますので、合わせてお楽しみください。

(聞き手:SYO)

彫刻から、約20年を経て“原点”の絵の道へ

――おふたりとも、東京造形大学の卒業生なんですね。

大島:そうなんですよ! びっくりですよね。ぎりぎり重なってはいないんですが、近いところにいましたね。高橋さんは何学科でした?

高橋:僕は彫刻専攻だったので、デザイン専攻とは授業で一緒にならなかったんです。でも、映画サークルには所属していました。

――高橋さんが彫刻科のご出身だったというのが少々意外だったのですが……。

高橋:小さい頃は絵が好きで絵描きになりたいと思っていて、高校生くらいに美大に行くといいらしいぞ、となり、油絵の予備校に行ったんです。ただどうしても油絵科で描く絵が好きになれなくて……その次に好きだった彫刻にしました。

大島:でも、こう言ってはなんなのですが、今のタッチは油絵に近いですよね(笑)。すごく順当に絵描きになられた気がします。

高橋:昔から絵画的なものに憧れだけがあって……好きなんでしょうね。だからいま、お仕事で描かせていただくようになって、すごくうれしいです。
実は、学校を出た後にいきなり活動するのは無理だと思い、テレビゲームの会社に就職したんです。そこで5年くらい働いて一回フリーになって、すぐ続かずにまた就職して5年ぐらい働いて……30歳を過ぎてからようやくまた絵を描きたいと思って現代美術の方で模索したのですがイラストへの思いも強くなり…。
そのあとポートフォリオを作って、イラストのほうに進み、40歳近くになってから、雑誌でお仕事をもらえるようになりました。だから遅咲きなんです。

――在学時には映画サークルに所属していたと伺いましたが、高橋さんはどんな映画がお好きですか?

高橋:一番好きなのは、『ロボコップ』(87)や『ターミネーター』(84)でしょうか。

大島:描いてもらいたい……(笑)。

高橋:美大出身で映画好きというとミニシアター系やアート映画のほうに流れがちで、自分も大好きなのですが、一番といわれるといま挙げたような映画や『エイリアン』(79)、『ブレードランナー』(82)が好きですね。

大島:あの頃の映画館のポスターというか、名画座の看板的なエッセンスは、高橋さんの作風にも通じますね。

高橋:まさにおっしゃるとおりで、憧れています。


アナログなスタイルで描くための、細やかな工夫

――高橋さんの作品を拝見していると人物をどこかユーモラスに、かつしっかり表情をとらえて描いているものが多いかなと思うのですが、こういったテイストにはどうやってたどり着いたのでしょう?

高橋:もともと人の顔が好きで、顔だけ描いたものが多かったんです。それをポートフォリオにして営業に回っていたので、最初のうちにいただけるお仕事は顔のアップが多かったかもしれません。そこから、「全身も描いて」と言われるようになり、頑張っている感じです。

大島:高橋さんは、完全にアナログで描かれているんですか?

高橋:まずは絵の具で描いてスキャンして、そのあとPhotoshopで色やコントラストは必ず調整してからお送りしています。

大島:そうなんですね。最近ってデジタルで納品されるイラストレーターさんが多いので、アナログなのかデジタルなのかがわからなくなってきているんですよね。ちょっと前だと、高橋さんみたいな作風だと「原画を送りますね」という方も結構いらっしゃったので。

――アナログだと、差し戻しが来たときの対応が大変そうですね……。

高橋:自分の絵はあまり細かい方ではないので、描き直しても平気な時もありますし、多少はPhotoshopで対応できる部分もあります。あと、そういった場合を考えて絵の具の種類をあまり増やしていないんです(笑)。

大島:小さいころから油彩が好きで、学校で配布された12色の絵の具の中でやっているような感覚ということですよね。そう考えると、非常に理想的な形で絵描きさんになられたんですね。

高橋:そういう意味では、シンプルにできているのはすごく楽しいし、やりやすいし嬉しいですね。

写真とイラストを組み合わせた際の“相性の良さ”に驚いた

――今回の『おらおらでひとりいぐも』のイラストポスターもそうですが、高橋さんのイラストは人物のポーズも面白いと感じています。ちょっとひょうきんでユーモラスな“動き”は、どうやって生まれたのでしょう?

高橋:今回は基本的な構図は大島さんにアイデアをいただいているのですが、ポーズをあまり上手に描けないぶん、ちょっとほのぼの感というかローファイ感が、自然に生まれるのかもしれませんね。

映画のアート的なオルタナティブポスターということで、その題材が自分の風合いにマッチするかなと思いましたし、安心して描けました。

【イラストポスターラフ】

画像1


大島:高橋さんには今回のイラストポスターと、本ポスターの方でも描いていただいているんですが、写真と組み合わせて使うときにユーモラスだけど写実性がある絵が欲しいと思ったんです。それだったら高橋さんのイラストが合いそうだぞということで、お願いしました。

ただ、普段は写真とはっきり分けるために線画のイラストをお願いすることが多いので、組み合わせるときは結構ドキドキしました。実際合わせてみたらめちゃくちゃ相性が良くて、「おー!」と思いましたね。

高橋:桃子さんという主人公が図書館で図鑑を借りてノートにスケッチするシーンが印象的で、技術は追いついていなくても科学や古代にロマンを感じるというのは、自分の「絵画に憧れがあるけど、そこまでは行けていない」という状態と重なるのでは?と感じましたね。

大島:パンフレットでもイラストをお願いしていて、そこでは図鑑っぽさを前面に押し出していただいているので、楽しみにしていてほしいです。

日本映画でアートポスターを作る難しさ

――大島さんとしては、今回のイラストポスターの制作はいかがでしたか?

大島:今回いただいたお三方のイラストはどれも素晴らしかったんですが、僕がずっと海外の映画のコラボレーションポスターを作っていたこともあって、ポスターにする際にとても苦労したんです。なぜだかわからないけど「日本映画、難しい……!」と思ってしまったんですよね。そこは今後、克服すべきところだなと感じました。

ファンメイドのポスターなどで、海外の方がジブリ映画を描いているのを見たときに、僕たち日本人とはまた違った視点がありますよね。それと同じような形で、日本映画でアートポスターを作るのは、また違った方法論が必要そうだなというのが、今回の発見ですね。

特に、タイトルを英語にしたいって言ったのは僕なんですが、そこに正当性を持たせないといけないこともあり、皆さんのイラストとは関係ない部分で悩みましたね。

高橋さんのイラストポスターに限って言うと、フォントは『博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』(64)のタイトルロールを考案したデザイナー、パブロ・フェロに影響を受けています。

高橋:自分が描いたあと、デザイナーさんのお仕事で結構変わるなというのは日々実感していて、今回はデザインいただいたポスターを見てすごくうれしくて、ありがたかったです。

大島:こちらこそありがとうございます。今回はあえて西洋風に振り切ってしまおうとは想定していたんですが、どこかで邦画らしさを出さなければならないと思い、前もってタイプデザイナーの西塚涼子さんに頼んで、落款を準備しておきました。

それを共通しておけば、西洋風ではあっても日本らしさは担保できるんじゃないかなと考えましたね。クオリティの高い絵をもらったからこそ責任感がすごくて、ポスターとして成立させられるように、試行錯誤は繰り返しました。

【完成版イラストポスター】

高橋将貴さん版P

イラストポスターが果たす意義

高橋:今回、こういった形で映画に関わることができて、すごくうれしかったです。映画って本来、もう映像があるからイラストがあると困るかと思うんですが、逆にイラストを使って映画の世界を表現できる試みというのは、とても貴重だと感じています。

大島:そうですよね。日本のイラストレーターや絵描きさんの質って、めちゃくちゃ高いと僕は思っています。このイラストポスターをやっている理由は、おこがましいけどそれを知らしめたいという思いがあるんですよね。

なので今回、オフィシャルでこういった取り組みをさせていただいて、ありがたかったです。
邦画の場合は日本の配給会社、洋画の場合は配給会社もさることながら本国サイドがOKを出してくれるからこそ、こういう取り組みができるわけですしね。これからも、どんどんやっていきたいなと思います。

===

穏やかな口調が印象的だった、高橋さんと大島さん。ただ、アート談義になると自然と熱がこもっていき、充実した取材内容となりました。

なお、大島さん×イラストレーターさんのインタビュー企画は、今回を皮切りにあと2回続きます。どうぞお楽しみに!

===

大島依提亜(おおしま・いであ)
グラフィックデザイナー。映画のグラフィックを中心に、展覧会広報物、ブックデザインなどを手がける。主な仕事に、映画『かもめ食堂』『百万円と苦虫女』『(500)日のサマー』『シング・ストリート 未来へのうた』『万引き家族』『アメリカン・アニマルズ』『ミッドサマー』『デッド・ドント・ダイ』、展覧会「谷川俊太郎展」「ムーミン展」「高畑勲展」、書籍「鳥たち」吉本ばなな「三の隣は五号室」長嶋有「小箱」小川洋子など。


高橋将貴(たかはし・まさき)
イラストレーター。1973年東京都生まれ。東京造形大学美術学科卒業(彫刻専攻)。SPA東京装画賞第1回・第2回入選。主な仕事にNHKテキスト「将棋講座」表紙画、雑誌UOMOの時事コラム連載挿絵など。
http://takahashimasaki.la.coocan.jp/

映画『おらおらでひとりいぐも』11月6日(金)公開


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?