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対話が生まれる場としての図書館 in デンマーク 【プロフェッショナルストーリーズ Vol.5】

映画『おらおらでひとりいぐも』を題材に、それぞれのプロフェッショナルたちを深堀する連載企画の第5弾!

第5回のゲストは、さわひろあや さん。

2003年よりデンマーク・コペンハーゲンで暮らす京都出身のさわひろさん。司書資格をデンマークで取得し図書館勤務経験もあるさわひろさんは、二児の母でもあります。子育て、教育、フェミニズム、民主主義(デモクラチ)、デンマーク社会と北欧の絵本をテーマに、日本のメディアでもライターとして活躍されています。

今回は、さわひろさんが17年間暮らすデンマークの人々と、図書館の繋がりについて教えていただきました。

暮らしと密接なデンマークの図書館 

デンマークの公共図書館でカウンター業務をしていた頃、顔なじみになるのはたいてい高齢の利用者さんでした。開館早々に新聞を読みに来る人、予約した大活字本を受け取りに来て、またたくさん予約していく人、図書館のイベントをこまめにチェックし、チケットを購入しに来る人、職員と立ち話をしに来る人。図書館内のカフェでボランティアをする人など様々です。
映画『おらおらでひとりいぐも』に登場する図書館と同じように、デンマークの公共図書館も、定年退職した人や高齢者のための居場所として機能しています。デンマークでは65歳以上の約38%が一人暮らしなので、気軽に立ち寄れる場所として図書館は大きな役割を担っています。

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高齢者向けには、図書館が月に一度本を届ける「図書館が訪ねます」というサービスがあります。様々な事情で自ら図書館に立ち寄れない人々のために、図書館司書が利用者さんの好みや希望を電話でたずね、自宅へ本を届ける仕組みです。ひとり暮らしの高齢者の中には、このサービスが唯一外の世界とつながるきっかけになっている人もいます。
高度にデジタル化が進むデンマークでは、自治体からの手紙も全てデジタルポストに届けられます。これは非常にハードルが高いのですが、公共図書館では、パソコンやスマートフォン、デジタルポストの使い方についても無料で講座が受けられます。ここでも図書館が高齢者のために一役買っているんですね。

図書館で生まれる対話

近年人気のイベントには、読書会があります。デンマークには「読書の会」という団体があり、様々な施設やグループを対象に読み聞かせや読書会を行っていますが、この団体と図書館が共同で開催している高齢者を対象にした読書会もそのひとつです。
ひとりで本を読むだけではなく、地域に暮らす人々と同じ本や詩を読んで、自由に語り合う。すると人々の間に対話が生まれます。図書館は人々にとっての居場所というだけでなく、対話が生まれる場としての役割も担っているのです。これはデンマークの人々が大切にしているデモクラチ(民主主義)、日常の中での対話を大切にする考え方にもつながります。

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昨今は残念ながら、コロナのために多くのイベントが中止になっていますが、それでもオンラインで開催している読書会もあると聞きます。高齢者を対象とした読書会もオンラインで行うことがあるらしく、図書館のパソコン教室で学んだことを活かして、オンライン読書会に参加している人もいるかもしれませんね。
対話が生まれる場としての図書館。それがデンマークの人々に愛される図書館のかたちです。

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映画『おらおらでひとりいぐも』でも、75歳・ひとり暮らしの桃子さんにとって、図書館通いは大切な日常の一部。近所の図書館で本を借り、地球46億年の歴史について熱心にノートを作り、貸出・返却カウンターの方とはお決まりのやり取り。変わらない毎日の一部ですが、桃子さんもどこか楽しそう…?!

『おらおらでひとりいぐも』をご覧になる際には、ぜひ“図書館”にも注目してみてください!

【著者】
さわひろあや
デンマーク在住。デンマークで図書館司書の資格を取得。公共図書館・学校図書館で8年間勤務した経験がある。

映画『おらおらでひとりいぐも』11月6日(金)公開


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