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『戦闘技術の歴史』<3>近世編/『戦略戦術兵器事典』<3>ヨーロッパ近代編 ~オランダやスウェーデンの軍制改革について最も詳しい日本語図書2冊

『戦闘技術の歴史』は古代編・中世編に次ぐ近世編。日本語版は2010年発売。日本語訳が出たことでおそらく、オランダやスウェーデンの軍制改革が最も詳しく書かれている日本語の専門書はこれになったと思います。ムック本を含めれば『戦略戦術兵器事典3 ヨーロッパ近代編』がいちばん詳しいです。

戦闘技術の歴史<3>近世編

著者(近世編): クリステル・ヨルゲンセン (著), マイケル・F・パヴコヴィック (著), ロブ・S・ライス (著), フレデリック・C・シュネイ (著), クリス・L・スコット (著), 淺野明 (監修), 竹内喜 (翻訳), 徳永優子 (翻訳)
出版社: 創元社
サイズ: 単行本
ページ数: 384p
発行年月: 2010/10/19
定価: 4725円

原著: 英語版
著者(近世編): Christer Jorgensen (著), Michael F. Pavkovic (著), Rob S. Rice (著), Frederick S. Schneid (著), Chris L. Scott (著)
出版社: Thomas Dunne Books
サイズ: 単行本
ページ数: 256p
発行年月: 2006/7/11
出版社定価: $29.95

読書メモ

歩兵・騎兵・指揮と統率・攻城戦・海戦とカテゴリ分けで書かれてあり、そのため、同じネタ(たとえばオランダの軍制改革)も、そのカテゴリごとに著者を変えて何度も登場するので、理解しやすいつくりになっています。逆に国別に系統だって読みたい人や、時系列を追っていきたい人には見づらい部分もあるかもしれません。

英語版の原書と比較して読んでみても、かなり訳そのものは秀逸です。西洋史の専門家が訳しているのではなく、翻訳の専門家が訳をして、それを歴史専門家が監修するというスタイル。歴史専門家の訳は日本語として読みにくく、翻訳専門家の訳は専門知識の理解が不足していることが往々にしてあるので、いいとこ取りのスタイルです。若干怪しい専門用語にはカタカナでルビも振ってあるので、気になる人が調べやすくもなっています。ただし、英語の原書の時点で不正確な記述や事実誤認の部分があり、仕方がないのですが、そこも忠実に訳されています。少なくともオランダに関しては、原書の著者にもオランダ専門家はおらず、その記述内容から英語文献しか参照していないことが明らかなので、この本が「教科書」となってしまうと危険だなあと思うところはあります。

個別の戦闘に関して具体的に記述されており、それぞれにCGが付されています。「ニーウポールトの戦い」のCGは、今まで見た中でもいちばんキレイな部類だと思います。「ニーウポールトの戦い」は、本文中でもかなり細かい戦闘の経過が書かれています。

はげしくおすすめ

オオタさんが書かれているこの本の書評。短評および詳細論評として、かなり詳細且つ正確に論じてあります。歴史学系の論文集に掲載されていても良いくらいの高いレベルです。


戦略戦術兵器事典<3>ヨーロッパ近代編

3ヨーロッパ近代編
出版社: 学習研究社
サイズ: ムックその他
ページ数: 218p
発行年月: 1995年01月
定価: 1800円

読書メモ

見た目ムック本と侮ることなかれ。百聞は一見にしかずを地で行く本たちです。とにかく見事にカラーの図版や絵で表現されています。稜堡式要塞の細かな部位や、陣形のかたちや運用方法も、図や絵で描いてあるので非常にわかりやすい。マウリッツ型隊形とグスタフ型隊形がどう違うか、オランダ式稜堡とフランス式稜堡がどう違うか、というのは図版でないとなかなか理解できないと思います。

個別の戦闘の詳細が載っており、オランダでは「ニーウポールトの戦い」が取り上げられています。説明文の細かいところはツッコミどころ満載の記述ですが、日本語でなおかつ図まであるのは貴重です。ほかには、映画『アラトリステ』にも出てくる「ロクロワの戦い」、三十年戦争では、グスタフ二世アドルフの「ブライテンフェルトの戦い」「リュッツェンの戦い」のオーダーもあります。

と、図版だけ見ていてもとても有用なのですが、とくに「3 ヨーロッパ近代編」内の「History of Modern Armies」「The origin of Modern Army」の各章は、「ナッサウ伯の軍制改革」を初めて日本語で紹介し、この巻の監修者でもある今村先生が直接手がけている部分。広範かつ詳細な内容で、新書並のさらりとした内容を期待して読むと、かなり良い意味で期待を裏切られます。この時代の軍事史を勉強するには必携といえるでしょう。

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