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『図説 オランダの歴史』 改訂新版 ~これを読まずしてオランダ史を語るなかれ、「図説」と専門書のいいとこ取りの良書

2012年時点で日本人による日本語のオランダ史概説としては草分け的存在でした。これ以降オランダ史概説の出版も続々と続いています。本書が出るまで最も重要だった研究書のひとつ『スイス・ベネルクス史』も同じ佐藤先生が書いているので、ここで一緒に扱います。


『図説 オランダの歴史』 改訂新版

上が2019年の改訂新版、下が旧版です。

書誌情報

著者: 佐藤 弘幸
出版社: 河出書房新社/ふくろうの本
サイズ: 単行本
ページ数: 143p
発行年月: 2019年5月(改訂新版)/2012年4月(旧版)

読書メモ

単独のオランダ史概説としては、クセジュの『オランダ史』に続いて2冊め! まさか図説シリーズでやってくれるとは思ってませんでした。河出書房GJ!

この「図説」以降、オランダ史の本もいくつか出ています。が、やはりいちばん最初に読むべき基本の書として挙げたいのはこの一冊。要所を確実に押さえつつ私情をはさまない書き口が心地よく、かといって教科書的に堅苦しくもありません。もっとも、「文学」を求める人には若干ドライに映るかもしれませんが。

図説シリーズならではのカラー図版の多さはいうまでもないですが、かなりめずらしいものも扱ってあります。p.42-43にかけて、「ヘントの和平」現物の写真や、この時期の重要文書の表紙が沢山載っています。

しかしなぜ2012年刊なのか? 第一章の内容からして、ベームステル干拓地(世界遺産)400周年記念だから? …というのは少数派の見方でしょうか。おそらく、近年のフェルメールブームで、オランダ17世紀の文化が多少は日本人の人口にも膾炙してきたからかと思われます。 いずれにしても、一国史でオランダが出てくれたことは、オランダに興味をもってもらう糸口としてもとても重要なことです。裾野が広がるのを期待します。

新版について追記

2019年に改訂新版が発売。目次とページ数は同じです。違う箇所はあとがきにもあるとおり、最終ページの国王の代替わり(出版年の2012年の翌年2013年)に伴う表記や、2012年以降の出来事についての加筆です。表紙も少し変わりましたね。日本の代替わりに合わせた出版でしょうか。

目次

水と戦い、水と共存する国民

デルタ地帯に広がる低湿地
泥炭地の開墾
堤防の建設
テルプに住む人々
風車による干拓

古代ローマからフランク王国へ

ローマ時代と民族大移動期
フランク王国の成立
フリース人の活躍
ノルマン人の侵攻

中世のオランダ

中世オランダの政治勢力
ホラント伯家の擡頭
エノー伯家とバイエルン侯家
ヘルレ伯領
自由農の国フリースラント
ブルゴーニュ家からハプスブルク家へ
"新しい信心"運動とエラスムス

八十年戦争からオランダ共和国の誕生へ

八十年戦争への道
八十年戦争の始まり
ユトレヒト同盟の成立
十二年間休戦
戦争の再開
連邦共和国の仕組み

黄金時代のオランダ

ヨーハン・デ・ウィットの時代
イギリスとの確執
英仏との戦争
名誉革命の輸出

黄金時代の経済と文化

造船業の発展
織物工業の広まり
黄金時代のかげり
東インド会社の誕生
西インド会社
黄金時代のオランダの文化
オランダと日本の貿易
日本にもたらされたオランダの文化

衰退の十八世紀からネーデルラント王国の成立へ

第二次無総督時代
オランイェ家の新たな復活
バターフ共和国の成立
ホラント王国からフランスへの併合

十九世紀以降の近代国家への歩み

商人=国王ウィレム一世
ベルギーの分離独立
自由主義の時代
植民地経営
政党政治の始まり
柱状化社会の出現
世界大戦前のオランダ

二十世紀のオランダ

第一次世界大戦後の動き
第二次世界大戦
日本への宣戦布告と植民地支配の終焉
インドネシア独立戦争
戦後復興とデルタ計画
柱状化社会の溶解
新たな社会への模索


スイス・ベネルクス史 (世界各国史)

書誌情報

著者: 森田 安一 (編集)
出版社: 山川出版社(千代田区)
サイズ: 全集・双書
ページ数: 439p
発行年月: 1998年04月
定価: 3675円

読書メモ

※図説オランダの歴史の出版前に書いた書評です。

オランダの歴史を勉強したい人には、真っ先にお勧めする本です。同じ概説書でも、時代別に区切った概説書よりも、各国史をまずは基本とすべきです。というのも時代別の概説では、オランダ史はだいたい他国が専門である研究者にやっつけで書かれてしまいます。が、各国史タイプの概説書は、基本的にその国の言語に精通し、その国で書かれた資料を使える専門家が書きます。著者のモチベーションからして違うわけです。

もちろん、地名・人名のカナ表記や専門用語の訳語の信頼性も最も高く、「ゼー・ゴイセン」なんてどこの国でも通じないようなトンデモ用語はありません。

第二部 佐藤弘幸「オランダ」 目次詳細

オランダ共和国の成立とその黄金時代

八十年戦争
英・仏の挑戦を受けるオランダ
十七世紀黄金時代の国家・経済・文化

オランダの海外進出と共和国の凋落

アジアへの進出
アメリカ・アフリカへの進出
十八世紀のオランダの凋落

近代国家への歩み

オランダ王国の成立
多極共存型の社会をめざして
二十世紀のオランダ

第三部 河原温「ベルギー・ルクセンブルク」 目次詳細(二章まで)

スペイン=ハプスブルク家の支配

スペイン王の支配と決定的分離の時代
災厄の世紀
近世低地地方南部の経済と文化

オーストリア=ハプスブルク家の支配と独立への道

啓蒙主義的改革
ブラーバント革命とフランスへの併合
ウィーン体制とオランダへの併合
ベルギー独立革命

ところで、過去オランダ史が振るわなかった理由に、この類の本のネーミングもあるような気がします。前のバージョンは『中欧史』でしたし、この本の場合は『ベネルクス史』で、オランダは「ネ」の部分だけですから、いちばんの基本文献に「オランダ」の文字が入っていないということになります。近年増えてきて本当に良かったです。


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