見出し画像

「簡素なる国」中村敦夫


 資本主義社会への疑いを持ちながらも、多忙な日常は過ぎていく。国民の多くが忙しなく生き、疑問を持ちながらも進むしかないと考える。
 僕が持ち続けてきた疑問は、生産の拡大はいつか終わり、世界は混沌となるのではないかということ。いや既に上限に達しており、食料格差、エネルギー不足を招いている。近代資本主義経済は、産業革命、科学発展、侵略、戦争、環境破壊、人口増加、独占、標準化、不正、虚偽などによって達成されてきた。戦後弛緩した精神は緊張に目覚めるも、殺戮の現実を直視できないでいる。
 この本は同志社大学院生への講義録である。歴史、政治、経済など、とてもよく整理されている。新しい発見もあり、教えられた。なかでもずっと気になっていた南方熊楠とシューマッハーについては、再読したいと思う。

<読書メモ>
・経済の最大のテーマは生産の更なる拡大となります。その方法論をめぐって、自由主義と社会主義という二つの理論が対立します。つまり、生産手段を誰が所有し、利益の分配を誰が決めるかという点です。しかし、生産拡大という最終目的では両者は同じ穴の狢です。
・青木秀和氏は、その著書『「お金」崩壊』(集英社新書)の中で興味深い指摘をしています。「資本」はこれまで、簡単に「生産手段」と説明されてきましたが、よく考えてみると具体的なイメージが湧きません。青木氏は「資本の本質」をつきつめると、結局、生産品を作るために自然界から引きはがしてきた原料や、エネルギーを使って作り出される有用性のことだというのです。
その「有用性」は、使うはしから<劣化>してゆく。その結果、製品の製造に利用したあとには使えない「廃棄物」が必ず残ります。それを自然に戻し、再び資源が再生されれば、循環型の生態系を保つことができます。
従来「資本」または「所得」と考えられていたものは、「富」ではなく「負債」だったのではないかということです。この事実は1921年のノーベル化学賞を受けたフレデリック・ソディによってすでに定義されていました。
「蓄積した資本は、すべて破壊へと向かう同一のハイウェイの上にある。その蓄積がもたらす自然界への負債は、決して古びたり減耗したりすることなく、ただ一方的に増大する」。

<第1時限>
時代と個人史
・大学中退で俳優に。その後、小説を書いたり、キャスターをやったり。
・いつのまにか政界に入り、新党運動で敗北。
<第2時限>
戦乱の拡大
・反戦運動があっても戦争をやめないのは、最大の経済効果を生むから。
<第3時限>
環境破壊
・人間が生物であることを忘れて、自然環境を破壊し、汚染を広げる愚。
<第4時限>
人口爆発
・1万年間5億人で一定していた世界人口が、過去230年間で13倍に。
<第5時限>
近代経済の崩壊
・金融経済の支配は、世界をカジノ化し、無責任と八百長を蔓延させた。
<第6時限>
日本の権力
・日本の近代は明治から始まったが、その権力構造は、どう推移したか。
<第7時限>
政界の実情
・「政治家が猫で官僚はネズミ」のはずだが、日本では猫がネズミに餌をもらう。
<第8時限>
スモール・イズ・ビューティフル
・シューマッハーは近代経済学の破綻を予言し、仏教経済学を提唱した。
<第9時限>
仏教とエコロジー
・神と自然と人間が共生するインドで、シャカは「少欲知足」を説いた。
<第10時限>
みどりの政治思想
・ヨーロッパでは緑の党が勢力を伸ばしているのに、日本ではなぜ不毛か?
<第11時限>
南方熊楠の生き方
・南方熊楠は西洋科学の限界を見抜いて、東洋哲学の重要さを主張した。
<第12時限>
究極の幸福とは
・画一的なグローバリズムではなく、多様な文化を育むローカリズムへ。
<第13時限>
食は地産地消
・食料の自給自足こそ、戦争を回避し、生活の安定と健康を護る条件だ。
<第14時限>
自然エネルギー
・文化生活の維持は、共同体の自然エネルギー開発で十分可能になる。

#簡素なる国  #中村敦夫 #資本主義 #社会主義 #循環 #読書

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?