宇宙連作ふたつ
絶対零度
(「かばん」2012年8月号)
星雲の途方もなさを思うとき血の通う身の惑いなど虚無
また話して、水星軌道のずれのこと。言葉の密度はものたりなくて
埒もない夢想の後の薄明にダークマターがひたひた満ちる
周到に避けた話題を引き戻すきみはもとより恒星でない
永遠に宇宙は冷却し続けてふたりにもある絶対零度
わたくしが滅びるときも降りそそぐ陽射しに頬をあたためていて
寄る辺なく宇宙の闇を漂って結合を待つ素粒子でした
僕たちのなんてことない日常に末裔たちが目を細める日
臨界密度
(「かばん」2015年6月号)
いとしい、と声に出す今このときも僕らを突き抜けるニュートリノ
ホーキング・パラドックスを解き明かし微笑むひとに熱いスープを
次々に完全数が現れて物理学者が見た清い朝
薄い胸重ねあわせてわたしたち臨界密度で釣りあっている
(聞こえます)50光年先の地に鉄の雲から降る鉄の雨
何度でも生まれなおしてこの星へ落ちてあなたに抱きとめられる
ほろほろと膝にパン屑こぼしつつ考えている地球のあだ名
タイタンで海が沸騰しているわ きみの軌道を駆け抜けなさい
※ダークマター・・・光学的には観測できないとされる未知の星間物質。宇宙の成り立ちに密接に関わっていると言われる。
生きているうちに第二歌集を出すために使わせていただきます。