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元担当者だが、患者の立場で高額療養費制度について考えてみた

どうもこんばんは、おれんじ*です。

今回は下記の記事でも話題にした、高額療養費制度について書いていきたいと思います。

今回は不妊治療自体の話からは若干それるので、いつものリアルタイムシリーズには含めません。

わたしは5年以上前ですが、国民健康保険の担当者だったことがあります。そのため高額療養費制度については、住民の方に説明ができる程度には今でも詳しいつもりでいます。しかしいざ自分が患者側になって、制度の隙間に落ちてしまい、医療費が全く軽減されないパターンにあてはまってしまうとさすがにショックですね…。あの時、高額療養費が何も戻ってこないとわかって落胆していらっしゃった、あの住民の方やこの住民の方の顔までは思い出されませんが、エピソードが思い出されます…。

…まず、そもそも高額療養費制度とは?

高額療養費とは、同一月(1日から月末まで)にかかった医療費の自己負担額が高額になった場合、一定の金額(自己負担限度額)を超えた分が、あとで払い戻される制度です。 医療費が高額になることが事前にわかっている場合には、「限度額適用認定証」を提示する方法が便利です。

協会けんぽホームページより

…ところでその自己負担限度額っておいくら?

厚労省の資料(出典:高額療養費制度を利用される皆さまへ

まあ見ての通り、めちゃめちゃ細かく区分けされてて分かりにくいっすよね…。

ざっくり説明すると、年齢および収入により限度額は異なります。70歳以上なら上の表、69歳以下なら下の表をご覧ください。左の列の収入(により、左端の適用区分名が付けられます)であれば、右の列の限度額になります。

例えば、わたしのような地方の30代公務員ですと、おおよそ下の表の真ん中の行、適用区分【ウ】に当てはまります。ということで、適用区分【ウ】のひと月あたりの限度額を見てみましょう。右の列を見ると「80,100円+(医療費-267,000)×1%」と書いてあります。

……結 局 な ん ぼ や ね ん???
と、どこかからツッコミが聞こえた気がします(幻聴)。

…例えば、保険適用の医療費が60万円だったとします。わたしたちは保険証を使うことにより医療機関での支払いは3割負担(69歳以下の場合)で済みます。60万円の3割は18万円ですね。3割負担になった時点で、本来の医療費と比べると負担はぐっと減りますが、それでもまだ18万円は高いですよね…。そこで上の計算式に当てはめてみましょう。

80,100円+(【医療費】600,000円-267,000)×1%=83,430円

単純に3割負担だと180,000円だったのに対し、適用区分【ウ】に該当すると、限度額は83,430円とずいぶんお安くなりました(まだ高い、という意見もありそうですが、ここではそれ以上は踏み込みません)
ここで3割負担分の180,000円を支払ってしまった場合、後から限度額との差額である96,570円が払い戻されます。または事前に「限度額適用認定証」を申請し、医療機関に提示しておけば、最初から限度額までの支払いで済みます。
ちなみにもう少し収入が低く、適用区分【エ】や【オ】に該当する場合だと、こんなに面倒な計算は必要なく、シンプルに一律【エ】57,600円/【オ】35,400円が限度額です。

このように数字を仮に当てはめて計算することで、高額療養費制度のありがたさが理解できたのではないでしょうか?

しかし、高額療養費制度には制度の隙間ともいえる、問題点があります。今回のわたしの採卵の事例はまさに高額療養費が何も返ってこない典型的事例だなあ、と思ったので、わたしの事例を使って高額療養費制度の隙間について考えていきましょう(医療機関の特定を避けるため、金額は実際のものではありません)。

わたしは、4月26日に採卵手術を行いました(採卵についての記事はこちら)。手術は日帰り(外来)で行い、保険適用の3割負担の医療費として72,000円支払いました(ちなみに10割の医療費は240,000円です)。
そして5月6日に胚盤胞凍結の結果を聞き、顕微授精→胚培養→胚盤胞凍結分について、保険適用の3割負担分75,000円を支払いました(10割の医療費は250,000円です)。
3割負担の合計は147,000円…と、なかなか大きな負担となっていますね…。それでは適用区分【ウ】のわたしの場合の限度額を計算してみましょう。しかしその前に、説明も長くなってきたので、もう一度高額療養費制度についておさらいしてみましょう。

高額療養費とは、同一月(1日から月末まで)にかかった医療費の自己負担額が高額になった場合、一定の金額(自己負担限度額)を超えた分が、あとで払い戻される制度です。 医療費が高額になることが事前にわかっている場合には、「限度額適用認定証」を提示する方法が便利です。

協会けんぽホームページより引用。太字は筆者による。

…まあこれだけで察することができたら、高額療養費制度への理解度レベルはかなり高いと思います。

要するにわたしは、確かに合計としてみると高額な自己負担をしましたが、その医療費の発生月が4月と5月とに分かれてしまっていました。
まず4月に72,000円、そして5月に75,000円支払った、という扱いにしかならず、それぞれの月ごとにみると、残念ながら限度額を超えていません…。
ということで、今回の場合自己負担額が軽減されることなく、きっちり3割負担を支払うことになりました。

…このケースでも、もし4月に歯医者で3割負担として15,000円払ってたら、限度額超えるんじゃないですか?…と思われる方もいるかと思います。(70歳以上ならいけるんですが、)69歳以下だと残念ながら超えないんですよね…。

厚労省の資料(出典:高額療養費制度を利用される皆さまへ

この表もなかなかテキスト多めですが、上部囲みの中の、※以下をピックアップします。

ただし、69歳以下の方の受診については、2万1千円以上の自己負担のみ合算されます。

つまり、69歳以下の場合、1ヶ所の医療機関でひと月あたりの自己負担が21,000円に満たない場合は高額療養費として合算できない、ということです。

ここからifの話。
今回の採卵~胚盤胞凍結が全て4月中に完了したと仮定すると、適用区分【ウ】での限度額はいくらになるでしょうか。計算してみましょう。

80,100円+(【医療費(※1)】490,000円-267,000)×1%=82,330円

※1:2回分の10割負担医療費の合計(240,000円+250,000円)

はい、見ての通り、かなり自己負担額に差があります。その差はなんと64,670円。診療が同一月内にまとまったか、月をまたいだかによって、大きな負担の差が生まれるのです。

ちなみに、わたしは元担当者ということもあって、診療の日程が決まった時点で支払う前からこうなることは察していました。
だからといって、月経のタイミングに左右される採卵以降のタイミングを、限度額を抑えたいがために全て同一月内にできるよう調整できるかといったら無理な話です(正確にいうと、完全に無理な訳ではないですが…。ピルを使ってかなり前から月経のタイミングを計画的に調整しつつ、不測の事態で月経がズレないことが必要なのでハードルは高いですね)。

不妊治療以外の他の病気でも、緊急入院だとタイミングは選べませんし、計画的に入院するにしても、月をまたぐかどうかなんて患者視点では普通考えないですよね…。
もしこの記事を読まれた方が、今後高額な医療を受けるタイミングを選べる状況に置かれた場合は、この「月またぎ」ルールを思い出してタイミングを選んでみてください。

ということで、高額療養費制度の隙間について、ざっくりお伝えしました。
※この記事では、福祉として医療費の補助を受けられるパターン(こどもであったり、障がいのある方だったり、難病の方だったり)については網羅していませんのでご注意ください。

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