お釣り

お釣り
          デイサービス 生活相談員

私が小学生の頃、町内に小さな駄菓子屋があった。
毎日小学生たちのたまり場になっていたその店は、おじいさんが一人で切り盛りをしていた。強面の人ではあったが、話しかけてみるととても優しい印象だった。
ある時、私がその駄菓子屋でお菓子を選び、小さな手に握りしめた100円を出すと、おじいさんから渡されたおつりが少し多いことに気が付いた。
数十円の事だったが、その時の私にとっては大金。当時お小遣いもろくにもらえなかった私は、そのお釣りをそのまま受け取り、家に帰った。
それからというもの、駄菓子屋に行くと、度々おじいさんはお釣りを間違えるようになった。最初は得をしたと感じていた私だったが、おじいさんの笑顔を見ているうちに罪悪感を感じるようになった。
今思えば、それが認知症状による物忘れなのだとわかるのだが、当時そんなことを知るよしもない私は、結局一度もお金を返すことが出来ないまま、しばらくして駄菓子屋は閉店となり、二度とおじいさんと会うことはなかった。
時が経ち、こうして福祉を志すようになると、あの頃おじいさんが笑顔の裏で苦しんでいたのかもしれないと思うと、なんとも言えない気持ちになる。
おじいさんに謝ることさえもできない私が出来る事は、認知症を正しく学び、一人でも多くの方が暮らしやすい町になるよう、出来る事からサポートしていくことだと考えている。

                          


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