名前

名前
          デイサービス 生活相談員

私は自分の名前が嫌いだ。
少し古風なのもあるが、そういうことではなく、何となく気に入らない。両親曰く、祖父がつけてくれた名前なのだそうで、ご利益があるそうだ。
 そういう話を聞いても、自分の名前が気に入らないことには変わりないのだが。
 その祖父が認知症の診断をされた。ようやく訪れた年始の休みに会いに行くと、私の事を親の名前で呼んできた。自分がつけた名前を忘れるのかと、少し腹が立ったが、それと同時に、会うたび名前で呼んでくれたことを思い出した。あんなに嫌いだった自分の名前を呼んで欲しくなる日が来るとは思わなかった。
 その後も会いに行くと、祖父は私の顔を見て満面の笑顔で迎えてくれる。そして、親の名前で私を呼ぶ。最初こそ気持ちに抵抗があったが、今では、「それでもいいよ、元気なら。」と思うようになった。
オレンジの絆みずなみに所属させて頂いて数年。この団体での学びがあるからこそ、日々の認知症についての考え方や、認知症の診断をされている祖父に対しても、そんなふうに思えるようになってきた。
そして、いつも笑顔の祖父と関わっているうちに、ほんの少し自分の名前が嫌ではなくなってきた。ほんの少しだが。
両親の話では、初孫の私が生まれた時、祖父は本当に喜んでくれたそうだ。
きっと一生懸命に私の名前を考えてくれたのかな、と思えるようになった。
大切な人に名前を呼んでもらえるだけで、人は幸せなのだと知った。
                                      完 

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