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なぜブランド開発は必要? 差別化と独自性の違いが大きなヒントに

※本シリーズはMarkezineでの連載【マーケティングとブランドのシアワセな関係 〜アフターデジタル時代に向き合うマーケターに向けて】全5回の転載となります。第4回となる今回は、差別化と独自性の違いについて述べるとともに、パーパスやブランド開発の重要性について考えます。

(前回の記事はこちら

差別化が重視されるわけ

マーケターにとって、差別化は重要なワードです。競合他社との違いを消費者に認識してもらうことで、自社にとって少しでも有利な競争環境を生み出すにはどうしたらいいか、常に頭を悩ませているのがマーケターと言ってもいいかもしれません。

マイケル・ポーターは競争戦略において、自社を取り巻く事業環境を分析する視点として、5つの競争要因(ファイブフォース)を提示しています。

ファイブフォースとは、自由競争市場には5つの競争要因(同業他社・新規参入・買い手との交渉力・売り手との交渉力・代替品)が存在しているということです。

そしてそのような環境において企業が取りうる競争戦略の類型として、3つの基本戦略「コストリーダーシップ戦略」「差別化戦略」「集中戦略」を提示しています。

学術的にも、差別化は重要ということです。

差別化とは「他と同じではない」ことをはっきりさせる、ということ。経営者やマーケターが、自社の差別化に必要性を感じる場合、そこには「他と同じようなもの」という前提があることになります。

「他と同じようなもの」と思われれば思われるほど「他に替えがきく」ということになるので、競争が激しくなってしまう。だから「他と同じではない」と訴える。これが差別化の重視される理由でしょう。

the appleとan apple

昔、英語の授業で “the apple” と “an apple” 、定冠詞と不定冠詞の違いを習ったことがあると思います。”the” は定冠詞、つまり後に続く名詞は特定されるので ”the apple” は「このリンゴ」、つまり目の前にある唯一のリンゴを指します。一方、“an” は不定冠詞、つまり後に続く名詞が不特定であることを表すので、”an apple” はリンゴという果物のことを意味します。

買い物でリンゴを買う場合に、こっちのリンゴは形が綺麗だ、とか、このリンゴは真っ赤な色をしているから甘そうだ、とか言いながら品定めをしているとしましょう。この場合、物質としての一つひとつのリンゴは、その形や大きさ、色づきや甘さが、それぞれが明らかに異なっている前提でどのリンゴを選ぶか、を検討しています。

でも、その売り場に掲げてある値札には「リンゴ 〇〇〇円」と書かれてあり、この場合一つひとつの違いは無視して、ここにあるものはまとめてリンゴというカテゴリーであることを表しています。

それぞれが異なるリンゴ 、つまり ”the apple” であっても、人は容易にその違いを無視して、まとめてリンゴという果物、つまり ”an apple” と表現できてしまう。

そして、リンゴと梨をまとめて果物、果物と野菜をまとめて青果、青果と魚介、肉をあわせて食材……見事なほどに人はまとめて「同じようなもの」にする才能に恵まれているわけです。

人間はカテゴライズが得意、だからこそ、差別化ではなく独自化を

「同じようなもの」とみなされたものが「カテゴリー」、「同じようなもの」とみなすことが「カテゴライズ」です。従って差別化するには「カテゴリー」において他との違いを強調するものから、そもそも「カテゴライズ」されないように違いそのものを強調するなど、複数の手法が考えられます。

ただし、いずれの手法にも共通していることは、容易に「同じようなもの」としてしまう人間の習性を、前提として受け入れている、ということです。

一方で ”the apple”、つまり一つひとつのリンゴが異なることを感知するセンサーも、人は持ち合わせています。僕はここに機会を感じています。

人はそれぞれの違いをしっかりと認識する能力を持つ、と同時に、それぞれ異なるものを「同じようなもの」にしてしまう能力も併せ持っている。そう捉えると、何かしらの手法で差別化するのではなく、異なるものとして存在するものを、その状態のまま確立させ独自化を狙うほうが良いと考えます。

” the 〇〇 = a(an) 〇〇 ”。つまり、カテゴリー・イノベーションの状態を目指すことが、ブランド開発です。

「何を言っているんだ」と思われたかもしれません。できるだけわかりやすく伝えるために、僕も利用しているAmazonを例に整理してみましょう。

Amazonが創業した頃、僕の認識は書店のECというものでした。そしてそれがやがて巨大なECという認識となり、今はどうカテゴライズすれば良いのか、もはや僕にはわからない状態です。すなわち ”the Amazon” = “an Amazon”です。

これまでの連載を読んだ方から、Amazonにスターバックス、引用している事例が、海外の大企業ばかりじゃないか、という声が聞こえてきそうです。でももう少しお付き合いください。たとえ大企業でないとしても、その道はあります。

独自化を目指す上で欠かせないパーパス

このところ経営者やマーケターから注目されているパーパスという言葉。企業の「存在意義」や「大義」という意味ですね。

一人ひとりの人間がそれぞれ異なるように、どの企業にも違いがあります。

パーパスとは存在意義のことですから、それを掲げるということは、それぞれが異なる存在であるという前提のもと、独自の存在であることを表明することになります。

つまり、Amazonのような巨大な企業でなくても、パーパスを掲げることで独自化への道は開ける、ということです。

だからこそパーパスが今、脚光を浴びている、私はそう捉えています。

ブランド資産がもたらすもの

独自化を図るために活用できる資産がブランドです。ここで一つ、僕が所属するオプトが独自に行ったブランド調査の分析例をお見せします。

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この図は、47のブランドを評価したもので、各ブランドが生活者にどのような印象を持たれているのかを、分類したものです。

飲料カテゴリーに属するブランドは概ね同じような印象を持たれている一方で、自動車やカフェ、SPAや流通カテゴリーに属するブランドは、印象に差異が生まれている(異なる象限にプロットされる)ことが多いことに気づきます。

生活者からの印象をしっかりと把握し、ブランドが持つ大切な資産として扱える状態にしておくことは、企業の独自性を高めるにあたって有用で、とても重要です。そして上の図は、多くの企業が” the 〇〇 = a(an) 〇〇 ” を目指すことができるという、その可能性を表しているものだと捉えています。

ここまでの僕の考えをまとめます。

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・差別化ではなく、独自化が大切。つまり “an apple” ではなく ”the apple” 。

・”the apple” を成り立たせている要素の集合体がブランド資産。

・独自性を高め “the apple = an apple” となる状態を目指すこと、それがブランド開発。

・その視点において”パーパス”を掲げることは重要であり、有意。

・そして “the apple = an apple” の成り立つ状態こそが、カテゴリー・イノベーションであり、ブランドの確立と言える。

・すべての企業活動はブランド開発であり、その方針を定めて独自性を高めることで、オリジナルな存在になれる。

・その結果、顧客の創造と維持は達成される。

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次回はいよいよ最終回。ブランド開発をプロセスとしてまとめ、お伝えします。それでは。


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