【映画】『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』戦争は感動のための道具ではない
1.横溝的世界観の美しさ
序盤からただよう異様な臭気。血塗られた因習ただよう村へやってきた水木とともに、この映画を観る者もその世界へ引きずりこまれていく。
前半はまったく横溝正史世界観なのだけど、実はそこがすごい好き。一族の長の死、権力と跡目を争う人間模様、陰惨かつグロテスクな連続殺人事件、奇妙な探偵と美しい女性。
様式美すら感じるこの展開が、異様なスピード感をもって繰り広げられるのだけど、横溝的骨格がしっかりしているので、安心して物語に身を委ねられる。
2.アクションは世界一じゃない?
その様式美が中盤につれて徐々に妖怪側に傾きはじめると、しだいに「鬼太郎」色が顔を出し、いくつものスピーディーかつすばらしいアクションシーンが登場する。すごいね。このアクションは世界一なんじゃないかと感動した。
正直、ハリウッド大作のアクションは見飽きてしまって、MCUとか観てるとアクションシーンでテンションが下がっていたんだけど、本作中盤のアクションはほんとすばらしい。
ただ終盤のアクションシーンはやや大味。力業《ちからわざ》のような感じだったのでちょっと残念。やっぱり個別の細かいアクションがうまいんだなあ。
3.戦争に向きあった映画
あとから振り返って、2023年は邦画の分岐点だったと言われるかもしれない。第二次大戦を積極的にファンタジーとして消費した年として。
そんな映画はこれまでもあった。だけどいままでとの違いは、戦争経験者が減っていき、第二次大戦がいまの現実とつながった世界であることの実感が薄まり、面白さの要素として積極的に消費されはじめた点だと思う。
そんな年に『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』があったことは救いだ。
この映画は水木の戦争体験を重要な要素として描いている。戦地の地獄、無責任な上官、コマのように死んでいく(殺されていく)人間たち……。
その経験が水木という人間を作っている。彼の中に信念がある。それは、ひとつの命を大事にするということだ。これは彼自身も気づいていないかもしれないが、国よりも組織よりも地位よりも金よりも、彼はひとつの命を大事に思っている。それが彼の決断に結びついている。
この映画は命を捨てることを美化するのではなく、命を守ることを痛切に描いている。だから人の心をうつ。
戦争を物語の一部として消費するのでなく、客に涙を流させるための道具に使うのでもなく、真剣に向きあい、物語として描き出した作品だと思う。
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