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「日本語うまいね」は、褒め言葉の皮を被ったマウントでした。


わたしには、あるアジアの国出身の友達がいる。

大学で、というか今までで、一番親しい友人だ。

ヤンちゃんとしよう。


大学一年生のとき、他学部の菜々子という子と、3人で親しくなった。感覚的には、私とヤンちゃんが菜々子に好かれた、という方が近い。

わたしとヤンちゃんは同じ学部だから毎日一緒にいたけど、
二年次以降キャンパスの違う菜々子とは、半年に一回、菜々子に誘われて3人でご飯に行くくらいに疎遠になった。


その日は、ひさびさの3人でのご飯会だった。

そこでグランピングの話になった。菜々子は来週行くらしい。

私が「私もチルしたい!」

というと、ヤンちゃんも、「私も!チルしたーい」と賛同した。

お、やっぱり?私たちは趣味が合う。

今度ヤンちゃんに具体的に提案してみよう、とワクワクしていた。

その時、

菜々子が

「ヤンちゃん、チルって言葉知ってるの?

成長したねー」

と言った。


私は「イラっ」とした。

ヤンちゃんも不愉快なんじゃないかと咄嗟に感じた。

なんでそう思ったのかは整理がつかないまま、
とりあえず場を収めなきゃと

不愉快さはなるべく顔に出さないように、

ヤンちゃんを傷つけないように、

「ヤンちゃんはインスタ大好きだから、そういう単語詳しいよね!」と下手なフォローしてみた。



普段わたしは、不愉快だったことには蓋をする。

終わったことはさよならバイバイ、だ。


でも今回は、自分のフォローが果たして本当に必要だったのか気になって、2人と別れた後、考えていた。


菜々子のあの発言は、褒め言葉だったのに、なんで不愉快だったんだろう。


それを考えるには、ヤンちゃんのバックグラウンドを知る必要がある。

彼女は、

2歳で家族と日本に来てから、中学生まではその国の子達だけが通う学校にいた。だから母語はその国の言葉だ。

なのに高校受験で都内の有名な高校に進んで、大学はわたしと同じ医学部だ。

確かに、敬語の使い方に困ったり、単語が思い浮かばないこともあるけど、
第一言語かと思うくらい日本語はめちゃくちゃ上手い。

しかも、医学部に現役で合格するだけでもそこそこ勉強ができなきゃいけないのに、それを外国語でやってのけたぐらいだから、

頭がめちゃくちゃいい。

私だったらアメリカの医学部になんて入れてない。


「そんなことないよー」って彼女は真顔で言うだろうけど、

思いやりがあって、頭の回転が速くて、自分の考えを持っていて、尊敬している。

そう、菜々子のあの発言には、
そのリスペクトが感じられなかったんだ。

さらに言えば、「チル」は英語だ。

ヤンちゃんは英語圏に住んだ経験がないのに、英語が上手い。
3年間海外に住んでたわたしと変わらないと思う。

長期休暇は基本アメリカやヨーロッパで過ごしている。

チルなんて知ってて当たり前だ。


そんなヤンちゃんのことをよく知らずに、
自分が日本語話者だというだけで「成長したね」と、上から見ているような発言だったから、
片腹痛いと同時に不愉快だったんだと思う。

日本人である菜々子が、努力せずに手に入れた日本語というもので、
努力して手に入れた人にマウントを取っているのは、痛々しい以外の何物でもない。

怖いのは、本人はただ褒めただけのつもりかもしれないってところだ。
ヤンちゃんが褒められて喜ぶとでも思っていたのかもしれない。


ヤンちゃんは実際どう感じただろう。
あんまり他人に興味ない子だから、どうでもいいって思ってる可能性が高いけど(そういうところが好きではある)、

もしわたしが、2歳からアメリカにいたのに、
ネイティブの同級生に「You know chill? You English is very good!」って言われたら、まあまあブチギレると思う。


ここから、気をつけようと思ったことは2つ。

相手のバックグラウンドを知らずにむやみに褒めないようにしよう、ということと、

第二言語として日本語や英語を勉強している人に偉そうに教えたり、知らないことを馬鹿にしない、ということ。


気をつけないと、写真家に「写真上手いですね」とか、
ドナルド・キーンさんに「日本語上手いですね」とか言いかねない。

クワバラクワバラ。


人に教えるって、結構気持ちがいい。
わたしは自分に自信がない分マウントをとりがちだけど、日本語っていう自分の努力でもなんでもないもので偉そうにするのは最高にダサいから、気をつけなきゃ。

言葉の間違いって、可愛らしくて笑っちゃうことがあるけど、間違ったことを言って笑われた方は、恥ずかしくて次から言い出しにくくなる。

今までも気にしてはいたけど、
これからヤンちゃんや、ほかの外国人にわからない日本語を聞かれても、
ドヤらずに、笑わずに、平然と教えるられるような人になりたいなあ。













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