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再開、海外旅行 8

この日は夜、土ボタルを見に行くツアーに参加する。ホテルのピックアップが夕方6時15分、ちょうど日が暮れる頃だ。このツアーには何と19人も参加するのだと言う。しかもそのうち10名くらいは、J T Bの添乗員付きのツアー客であるようだ。今でもこういう昔ながらのツアーが行われているんだ、と他人事みたいに思う。でもよく考えたら、私自身、かつてこのツアーを申し込む前にキャンセルしたツアーは、確か添乗員付きの至れり尽せりツアーだったと思う。今回、添乗員付きツアーの参加者は、揃いも揃って年配だ。逆に、私たちのように自分でオプショナルツアーを選んで入っている人たちは、ある程度は若かった(完全に若者もいた)。

バスは街中を15分程度走っただけで山道に突入する。多少揺れるから、気持ち悪くなったら早めに言うように、という注意喚起がガイドからなされるが、そこまで曲がりくねった道ではない。ただ、具合が悪い場合も、トイレに行きたい場合も、日本人はギリギリまだ我慢するので早めに、ということらしい。
日も完全に暮れ、バスの中も消灯するので、真っ暗闇の中をバスが走って行くことになる。日本の田舎もそうなのかもしれないが、現地は本当に真っ暗なのだ。そんなところを通っていると、一体何が楽しくて、夜中にジャングル探検なんてしようとしてるんだろう、と悲しくなってくる。やろうとしていることが普通じゃない。しかも、足元を照らす小さな懐中電灯だけで真っ暗な中、歩くのだと言う。さらに、自然に影響を与えないように、赤い光が出るように加工された懐中電灯を持つのだそうだ。赤い光は夜行性の動物たちに影響を与えないことが検証されているから、とのことだった。
このツアーはエコツアーで、エコツアーというのはひとことで言うと、環境に十分配慮して行われるツアーだという。だから、生物の生態系に悪影響を与えるようなツアーではだめなのだ。10人の集団に対して、1人のエコガイドがつくらしく、この日は若い女性のガイドと、年配のドライバー兼ガイドの2人体制だ。

市街地から1時間程度バスが走ったところにある、世界遺産のスプリングブルック国立公園内でバスを降りる。この日は満天の星が出ているので、それが少し明るいが、辺りは真っ暗だ。電灯一つない。日本だったらこんな中、探検をするツアーなんてやらないのではないか、という気がした。もし人を観光させるなら、良くも悪くもまず駐車場からして、明るい電灯を灯すことだろう。スプリングブルック国立公園内の、ナチュラルブリッジというこの地で、土ボタルが観察できるところに向かうのだという。
観察現場へ向かう遊歩道に立ち入ろうとしたほんの入り口のところで、2センチくらいの大きなアリがいるので気をつけるように、とガイドさんの指示が飛ぶ。見ると確かに巨大なアリがいる。噛まれるととてつもなく痛いのだそうだ。いきなり自然の洗礼だ。
やはり真っ暗な中、こんなところに来るのはどうかしている、と私は思う。しかも土ボタルというネーミングは上手いが、その実、土ボタルは蚊の一種の幼虫で、ミミズ状のものなのだ。光るミミズ、なんて言ったら誰もツアーに参加しないので、このツアー会社の社員が、それを土ボタル、と名付けたのだそうだ。非常に優秀なネーミングではないか。しかし、そんなものを私は、本当に見たいのだろうか?
そんなふうに思っているうちに、じきに土ボタルがいる箇所に遭遇する。小さな1ミリくらいの無数の青いような、緑のような光が、土壁に埋まっていて思いのほか綺麗だ。こんなに簡単に土ボタルを見られるのか、と感心する。
森の中は音もいっぱいで、音の一番の正体は、コウモリなのだそうだ。コウモリが無数に飛び交っているのを想像すると恐ろしいが、超音波を発しているので決して人にぶつかることはないと言うので、気にしないことにする。それよりほか仕方ないではないか。

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