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2021年度 大学入試共通テスト(第二日程) 生物基礎 所感と解説

―――初めに―――
・この記事は,2021年1月31日に実施された,大学入試共通テスト第二日程の生物基礎の所感や解説を,心赴くままに書いたものです。
・問題は適宜ダウンロードしてください。
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第1問 サンゴと褐虫藻の共生に関する問題。そもそもサンゴが動物であることを知っておくと,問題文の読解はスムーズかもしれません。しかし,問題には,「サンゴの胃壁細胞」といった表現やその図もあるので,サンゴが動物であるということを試験の場で知っても差し支えはありません。図1と図2から,図1に褐虫藻が数多く描かれていること,サンゴ細胞と褐虫藻細胞の大きさがあまり変わらないことから,図1のポリプが多細胞からなることも分かりますね。
 知らないから解けないなんて言わせません。書いてあるんだから読み取りましょう。

問1 サンゴは動物であり,動物は真核生物であり,真核生物は真核細胞からできていますから,選択肢の中から真核細胞を候補としてピックアップするのが妥当でしょう。インフルエンザウイルス(①)とT2ファージ(⑤)はウイルス,大腸菌(④)は原核生物ですから除外(T2ファージが大腸菌に乗っかってる図は遺伝の単元で見たことあるでしょう?ということは,ファージは大腸菌よりうんと小さいはず)。カエルの卵(③)は肉眼で見えるくらい大きいので除外。ヒトの坐骨神経(⑥)は長さ1mくらいになるので除外(ウシガエルの解剖なんかすれば,坐骨神経が長いことは分かると思います。坐骨神経をちょっと摘んで力を込めると,足が動きます)。残った酵母(②)が正解。酵母は真核生物で,単細胞性の菌類ですね。
 この手の問題は,それぞれの大きさを数値として覚えてもまぁいいんです。いいんですけど,それぞれがそもそも何なのかが分かっていたら,数値を覚えていなくても概ね答えが出るようになってます。“それぞれがそもそも何なのかが分かる”というのは,つまるところ“包含関係を一つ上げることができる”ということです。「パグって何?」って聞かれたら「犬」って答えるでしょ?「T2ファージって何?」「ウイルスだよな」って自問自答できればいいんですよ。

問2 さっきからさんざんサンゴは動物だということを言っているので,正解は③or④。図2を見れば,褐虫藻は核や葉緑体などの膜構造のある細胞小器官がある真核生物であることが分かるので,「真核細胞を細胞内に取り込んだ」としている③が正解。
 ちなみに⑤の「葉緑体を取り込んで」の部分はミドリウミウシに見られる盗葉緑体現象のことでしょう。ミドリウミウシはエサとして食べた藻類などの細胞から葉緑体を盗み,自らの細胞内に取り込んで光合成をさせることができます。本問では,図2で葉緑体が褐虫藻の外に出ていないので,盗葉緑体をしているかどうかは分かりません(⑤×)。
 なお,⑤の「植物細胞に進化しつつある動物細胞」の部分に関しては,生物基礎の範疇でちゃんと読むのは難しいです。確かに,例えば「過去,例えばミドリウミウシのように多細胞性で盗葉緑体を行う動物が,その後コケやシダなどの植物になった例があるのか?」という問いを立て,「そんなことあるか?」で誤りとしても差し支えないとは思うんです。しかし仮に,「植物細胞」を“藻類”,「動物細胞」を“従属栄養性の単細胞真核生物”に置き換えることが赦されるのであれば,従属栄養性の単細胞真核生物がある種の藻類を取り込んで,自身が別の藻類になった例はあります。この辺の話は「二次共生」といって,高校課程の生物の範囲を逸脱するので,涙を飲んで割愛することにします。
 「そんなことあるか?」が実際にあったりするのが,生物の難し…面白いところ。

問3 同化と異化という言葉の意味をしっかり考えたいところです。図2からサンゴの細胞はミトコンドリアをもつことが分かるので,異化(例えば呼吸)をしないことはないでしょう(②×)。また,サンゴの細胞の中では,各種の酵素となるタンパク質などの複雑な構造を作る窒素同化は行われていますから,同化をしないこともありません(①×)。また,先の問2で,「図2では葉緑体が褐虫藻の外に出ていない」と書きましたし,サンゴの細胞は褐虫藻から葉緑体を取り込んでいることは分かりません(⑤⑥×)。残る③と④の違いは,褐虫藻が有機物を同化しているか異化しているかの違いです。褐虫藻は葉緑体をもち,ということは二酸化炭素から炭水化物を合成する炭素同化を行っているわけですし,会話文の文脈からしても③が妥当でしょう。なお,④の「褐虫藻が異化した有機物」はつまるところ無機物のことでしょうから,「有機物が足りないから無機物も併せて利用する」という文脈になり,何を言っているのかよく分かりません(有機物が足りないなら有機物を補いますよね)。

問4 ④が正解。他の選択肢の瑕疵は以下の通りです。
 ①,② 隣接するヌクレオチドどうしは糖とリン酸の間で結合します。ちなみに,向かい合うヌクレオチドどうしは塩基と塩基の間で結合します。「隣接する」「向かい合う」の言葉の指すところをよくイメージしてみましょう。
 ③ 二本のヌクレオチド鎖の塩基配列は相補的です。これは同じという意味ではありません。片方がAなら,もう片方はAではなくT。片方がCなら,もう片方はCではなくGです。
 ⑤ もし間期―特にDNA複製期に染色体が凝縮していたら,そこにDNAポリメラーゼが結合する余地がありません。

問5 「遺伝子ってそもそも何ですか?」という問いに答えられるようにしておきましょうね。遺伝子とはゲノムのうちタンパク質に翻訳される部分のことです。「じゃあゲノムって何ですか?」になると思うんですけど,ゲノムはその生物をその生物たらしめることのできる全塩基配列を指して使う言葉です(二倍体生物では―とか,細かいことは抜きにします赦して)。要するに,全塩基配列(=ゲノム)には,タンパク質に翻訳される部分(=遺伝子)とされない部分(=遺伝子以外)があるということです。

問6 例えば,ある個体における筋肉の細胞と神経の細胞は,ともに1つの受精卵に由来します。受精卵は,筋肉の細胞ではたらく遺伝子や,神経の細胞ではたらく遺伝子などをひっくるめた遺伝情報をもっています。また,受精卵は体細胞分裂―つまり,その前後で遺伝情報の変化しない細胞分裂によってその数を増やすので,体細胞分裂を繰り返して筋肉と神経の細胞になった後でも,その遺伝情報は受精卵のものと変わりません。ではなぜ筋肉は筋肉,神経は神経かと言えば,その遺伝情報の中ではたらいている部分が違うからですよね。筋肉の細胞では,遺伝情報のうち筋肉の細胞ではたらく遺伝子がはたらいているのであって,神経の細胞ではたらく遺伝子ははたらいていないのです。


第2問 尿の計算問題は,どの問題集にも掲載されているような,よくある計算問題です。でも,後半のような心臓の問題は好きですよ,僕好みです。

問1 イヌリンの値を見て濃縮率は120倍と判断し,尿量1mL/分より原尿量120mL/分と即答した貴方。問題集でよく勉強されたのだと思います。では,なぜイヌリンの値を使えばその答えが出るのかは説明できますか?尿素の値を使ってはいけない理由は説明できますか?
 溶液(尿)の濃度は,溶媒(水)の量と溶質の量で決まります。溶質としてのイヌリンは「分解も再吸収もされない」と問題文に書いてあるので,原尿から尿にいたる過程でイヌリンの量は変化しません。イヌリンの量が変化しないということは,尿中のイヌリン濃度の変化は水の量の変化にのみ依存するということですから,水がどれだけ再吸収されたかが分かるというわけです。一方,尿中の尿素の濃度の変化は,水の量の変化と尿素の量の変化の両方に依存するので,尿素の濃度の変化を見ても水がどれだけ再吸収されたかは分かりません。「イヌリンの値を使う」なんて操作を覚えても,何も面白くないですよ。

問2 ナトリウムの再吸収量を考えます。問題文を,「120mLの原尿に質量比で0.3%のナトリウムイオンがあって,いくらか再吸収されて減ったから,1mLの尿中に0.3%分のナトリウムイオンが残っているんだよね」という算数の文章題に直せたら解けますよね。
 血しょう,原尿,尿の密度を1g/mLとするという前提とともに計算して,原尿中のナトリウムイオンは120mL×1g/mL×0.3/100=0.36g=360mg。尿中のナトリウムイオンは1mL×1g/mL×0.3/100=0.003g=3mg。360mgあったナトリウムイオンが,いくらか再吸収されて3mg残ったわけだから,再吸収量はその差の357mg。公式?そんなものは知りません。
 ところで,高校課程の生物の,腎臓の尿生成に関する計算問題は,血漿と原尿と尿の密度をすべて1g/mLとして解くってのがたぶん慣例なんですよね。水に何かを溶かしてるんだから,密度はぴったり1g/mLにはなりえません。だから1g/mLという値は近似なんですけど,そこは確認しましたか?例えば,90gの水に10gの食塩を溶かした100gの食塩水は,濃度10%,体積90mL。そこから水だけ蒸発させて体積を半分の45mLにすると,その濃度は倍の20%ではなく約18%になるわけですけど,イヌリンの濃度変化から濃縮率を計算するのは,これを倍の20%にしている計算と同じですよね。まぁ,一度分かんなくなってみましょう。いずれ分かりますから。

問3 再吸収が促進されるんですから,ナトリウムイオンは細尿管の中から血管の中へと移動します。細尿管はそのまま尿道へ繋がっているので,細尿管の中は体の外です。つまり,細尿管内のナトリウムイオンは体の外へ出たナトリウムイオンであり,再吸収とは一度体外に出した物質を再び体内に戻す行為と言い換えることができます。
 さて,ナトリウムイオンを再吸収された尿中のナトリウムイオン濃度は当然下がります(ア:低く)し,体液のナトリウムイオン濃度は上がります。ここで体液のナトリウムイオン濃度を上げずに維持するためには,溶媒である水の量を増やせばいいので(ウ:増加),水の再吸収を促進させればいいですね(イ:増加)。

問4 心臓の模式図は描けるようになっておきましょうね。右心房には上大静脈と下大静脈のそれぞれから血液が入ってくることをおさえておきましょう。ときどき,上大静脈と下大静脈が,右心房に入る前に一本の血管に合流している模式図が生物基礎の教科書にもあったりしますが,アレは嘘です。

問5 「弁Aが開くとはどういうことか」を考えましょう。弁Aは心房から心室へと血液が流れ込んでくるところの弁です。ですから,弁Aが開くと,心室の容積が増加します。図2では,期間Ⅳが終わって期間Ⅴに入ると同時に心室の容積が増加しはじめているので,このタイミングが弁Aの開くタイミングでしょう。期間Ⅴは一周回って期間Ⅰに戻り,期間Ⅰでも心室の体積が増加しているところがあることから,弁Aが開いていることが分かります。
 なお,期間Ⅱでは弁Aも弁Bも閉じていることが分かります。図2より,期間Ⅱは心室内圧力が高まっているが容積は変化していない期間であると分かります。もしここで弁Aが開いていると,心室内圧力が上がると血液が心室から心房へと逆流し,容積が減少してしまいますね。期間Ⅱは,心室内の血液にぐっと力を込め,弁Bを開放して動脈へと血液を勢いよく送り出すための前段階にあたります。


第3問 Aは植生遷移の問題。良問だと思いますよ。

問1 もし高木が「林冠に達してから光合成を行う」のなら,林冠に達するまではどうやって成長しているんですかね。種子の中の栄養分にも限度があるというものです(ア:種子生産)。また一般に,陰樹は土壌の発達した遷移の後期にあらわれるので,山火事後の明るい裸地にいきなり陰樹は生えません(イ:草本)。さて,大規模な噴火ならいざしらず,山火事程度ではその場の土壌が全部失われることはありませんし,土の中の種子は焼けずに残ります(ウ:二次遷移)。

問2 問題文に「西日本の低地」とあるので,人による森林の利用がストップすれば,そこに成立すると考えられる植生としては照葉樹林が妥当でしょう。この時点で③or④に絞られます。落葉広葉樹の落ち葉を人が回収しないということは,落ち葉はその場所で分解されて他の植物に利用されるということなので,その場の窒素の循環量は増加します(③○)。
 例えば,畑にダイズが実ったとします。このダイズの中の炭水化物中の炭素は,空気中の二酸化炭素に由来しますが,ダイズの中のタンパク質中の窒素は,畑の土の中のアンモニアなどに由来します。つまり,畑の作物を人が収穫するというのは,畑の土の中の栄養を人が作物の形で持ち去るということなので,そのままでは土は痩せていきます。“人間活動による,生態系外への物質の持ち出し”という概念をインストールして,森林からの落ち葉の持ち出しと畑作物の収穫とを,似たようなものとして考えられるようにしてみてください。

問3 日本国内の気温と降水量であれば,よほどの高山(低温)でなく,人による開発が入っていなければ,どこでも森林が成立します。海岸沿いに森林が成立しない原因を,気温と降水量に求めるのは無理があるでしょう(①,②,③×)。土壌形成が進んでいることは森林の成立を促す要因なので,④も×。残った⑤が正解です。貧栄養の砂は有機物を含んでおらず,樹木が生えることのできるような土壌の形成を妨げます。

問4 外来生物の定義を確認しましょう。「意図の有無に関わらず,人間活動によって,本来の生息地でないところに移動させられ,そこに定着した生物」です。
 わざとかどうかは関係ありません。「人間活動によって」というのは,「その生物の本来の移動能力を超えて」ということなので,例えば渡り鳥は外来生物ではありません。その生物が捕食者かどうかも関係ありません(①×)。国境も関係なく,例えば北海道の個体を九州に持ち込めばそれは外来生物です(②×)。移動先の生息地に影響を及ぼさなくても,本来の生息地でないところに持ち込まれたならそれは外来生物です(③,⑤×)。外来生物のうち,移動先の生物に特に大きな影響を及ぼすものを特定外来生物といって区別し,優先的に対策しています。

問5 ②と⑤が正解。それ以外の瑕疵は以下の通り。
 ① グラフを読めばわかります。3分の2ではなく,3分の1。
 ③ オオクチバスが植食性になったかどうかはこのグラフからは分かりません。
 ④ モツゴやタナゴといった在来魚は全滅しかかっており,多様性は減少しています。
 ⑥ 肉食性のオオクチバスが存在している以上,植食性動物が全滅したわけではなさそうなので,栄養段階は減少はしていないでしょう。


感 想

 好き嫌いの話になりますが,第一日程より好きです。語り甲斐がありますね。

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