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2021年度 大学入試共通テスト(第二日程) 生物 所感と解説

―――初めに―――
・この記事は,2021年1月31日に実施された,大学入試共通テスト第二日程の生物の所感や解説を,心赴くままに書いたものです。
・問題は適宜ダウンロードしてください
―――――――――

第1問

問1 タンパク質の立体構造に関する問題ですね。選択肢が,第一日程よりは少し工夫されています。
 「鍵と鍵穴の関係」と言われるように,ある酵素(鍵)は,それと対応する物質(鍵穴)にのみ作用します。これを酵素の基質特異性といい,ある鍵がどの鍵穴に入るかは,鍵の形―すなわち酵素の成分であるタンパク質の立体構造に依存します(①○)。その他の選択肢の瑕疵は以下の通り。
 ② アミノ酸の並び方は,二次構造ではなく一次構造です。
 ③ αヘリックスやβシート構造は,ジスルフィド結合ではなく水素結合によってつくられます。アミノ酸のアミノ基のHとカルボキシ基のOが引き合うわけですね。
 ④ 複数のポリペプチドが立体的に組み合わさったものは,三次構造ではなく四次構造です。

問2 進化のメカニズムを整理しておきましょう。進化については過去記事の中でも触れましたが,ここでも少しだけ。
 進化(世代を経て集団内の遺伝子頻度が変化すること)が起こるには,集団内に遺伝的変異があることが前提です。その変異が生存や繁殖に有利/不利をもたらす場合は自然選択によって,そして有利/不利をもたらさない場合は遺伝的浮動によって,集団内でその変異に関わる遺伝子の頻度が変化します。もちろん,有利/不利をもたらすか否かはイチゼロで語れないところもありますし,大学受験生の皆さんは大学で「ほぼ中立説」というものを勉強するかと思います。ここでは説明しません,楽しみはとっておいてください。④は,「生存に不利な表現型」に「自然選択が働かない」と言っているので誤りです。

問3 パズル問題ですね。パパインなんて酵素やその作用点を覚える必要はありません。記号選択式の設問は,出題ミスでもない限りは記号のどれかは答えなんですよ。地道に一つ一つ確認して問題文の内容に合うものを選べばいいのです。
 問題文を読めば,パパインで抗体を処理すると,A. 3つの断片に分かれ,B. そのうち2つの断片は互いに全く同一であり,C. その2つの断片は抗原とよく結合することが分かります。(g)で切断してみれば,ジスルフィド結合でくっついたH鎖の下半分1つと,「抗原と実際に結びつく領域」を維持したH鎖とL鎖の複合体2つの計3つの断片が生じます(Aクリア)。この複合体どうしは互いに全く同一で(Bクリア),抗原と結びつく領域を維持しているので(Cクリア),切断箇所は(g)が妥当でしょう。

問4 多くの受験生にとって初見のグラフだったと思います。初見のグラフであっても,グラフはグラフなので,読み方はさほど難しくありません。基本は,横軸の値に対する縦軸の値を読む(場合によっては,縦軸の値に対する横軸の値を読む)―これだけです。
 選択肢に目を通す前に,少しだけグラフを吟味してみましょう。同義置換とは?アミノ酸配列が変化しない塩基の置換ですよね。非同義置換は?アミノ酸配列が変化する塩基の置換です。さて問題文より,遺伝子Yが抗原と結合しない可変部領域Yを支配しているのに対し,遺伝子Xは抗原と結合する可変部領域Xを支配していますから,遺伝子XはB細胞における遺伝子再編成による抗体の多様性に寄与する遺伝子とみていいでしょう。グラフを見ても,遺伝子Xの非同義置換の割合は,遺伝子Yのそれよりも高く,アミノ酸配列の変化は領域Yよりも領域Xの方が多いことが分かります。多様な可変部をもつことは多様な抗原に対応できることを意味することを考えても,抗原結合部位の非同義置換の割合がある程度高まることは生存に有利にはたらきそうです。一方の遺伝子Yの非同義置換の割合は非常に低いので,領域Yは機能的制約が強いことが伺えます。つまりこの設問は,タンパク質の多様性と機能的制約という,一見二律背反に見える両者が,抗体において両立していることをテーマにしています。超面白い。
 …とまぁ,グラフを見てこれくらいぱっと思いつけば楽勝なんですが,思いつかなくても選択肢を見て考えていけばいいのです。さぁ選択肢を見てみましょう。
 ① 「アミノ酸配列の変化の割合」というのは,つまり「非同義置換の割合」のことですから,縦軸を読みます。領域Xの方が領域Yよりも縦軸の値は高いところにありますから,「領域の違いにかかわらず,アミノ酸配列の変化の割合は同じ」とは言えません。バツ。
 ② 「領域Xでは(略)アミノ酸配列に多くの変化がみられる」が正しいことは,先程から述べているとおりです。この選択肢のクセモノなところは,その(略)の部分すなわち「進化的に中立であると仮定した場合と比べ」という点。「進化的に中立である」とはどういうことか?それは,「その領域に起こる遺伝的な変化が生存に有利でも不利でもない」ということ。そして,「その領域に起こる遺伝的な変化が生存に有利でも不利でもない」ということは,「同義置換も非同義置換も同じくらい起こりそう」ということです。
 どうしてそうなるんでしょう?ある領域の機能的制約が大きければ,その領域に起こった変異は概ね生存に不利です。この場合,その領域の非同義置換の割合はぐっと下がります(同義置換>非同義置換)。一方,抗体の抗原結合部位に多様性があることでこそ多くの病原体に対抗できるように,アミノ酸配列のバリエーションが個体の生存に有利にはたらく場合,その領域の非同義置換の割合はぐっと上がることが予想できます(同義置換<非同義置換)。では,その領域の変異が有利でも不利でもなければ,同義置換だろうと非同義置換だろうと,起こっても起こらなくとも差し支えありません。同義置換>非同義置換でも,同義置換<非同義置換でもないのなら,同義置換=非同義置換でしょう。
 というわけで,「進化的に中立であると仮定した場合」は,「同義置換=非同義置換」と読み変えることができます。領域Xは「同義置換<非同義置換」なので,進化的に中立である場合に比べてアミノ酸配列には多くの変化が見られるでしょう。マル。
 ③ ②で長々と述べた通り,領域Yは機能的制約が大きいので中立たりえません。バツ。
 ④ 定常部の話なんてしてません。バツ。

問5 基本的な知識問題ですね。DNAは構成要素であるヌクレオチドにリン酸基をもち,水溶液中では水素イオンを電離するので負に帯電します。そのため,電気泳動では陽極に引き寄せられます。寒天(多糖類)のゲル中では,分子量が小さい=短いほど,寒天の繊維の隙間をくぐり抜けやすいので,移動速度は速くなります。図3では,バンド(b)が陽極側にあるので,(b)の方が一定時間の間で長い距離を移動したことが分かりますね。

問6 図3を素直に読み取りましょう。ハイマツ(雄)×キタゴヨウ(雌)の雑種の葉緑体DNAの電気泳動像は,ハイマツのそれと一致しています。ということは,この雑種の葉緑体は雄のハイマツ由来であることが分かります。雌雄を入れ替えても同じことが言えるので,ハイマツとキタゴヨウがつくる雑種では,葉緑体は花粉親(雄親)由来であることが分かりますね。他方,ハイマツ(雄)×キタゴヨウ(雌)の雑種のミトコンドリアDNAの電気泳動像は,キタゴヨウのそれと一致しています。ということは,この雑種のミトコンドリアは雌のキタゴヨウ由来であることが分かります。雌雄を入れ替えても同じことが言えるので,ハイマツとキタゴヨウがつくる雑種では,ミトコンドリアは種子親(雌親)由来であることが分かります。葉緑体DNAとミトコンドリアDNAの両方の結果を併せて,①が正解と分かります。
 …しれっとすごく興味深い現象がテーマになっていることにお気づきでしょうか。ふつう,葉緑体とミトコンドリアは母性遺伝―つまり,雌親に由来します。しかし非常に面白いことに,ハイマツとキタゴヨウの間で起こる交配では,葉緑体が父性遺伝します。花粉の中にも,葉緑体のもとになる色素体(プラスチド)は含まれうるものですが,多くは花粉形成の過程で消失します。ハイマツとキタゴヨウは,花粉の色素体が消失しないし,かつ卵細胞中の色素体は葉緑体に分化しないということなんでしょう。へーえ。

問7 ハイマツはその名の通り裸子植物のマツの仲間です。然らば,それと雑種を形成するキタゴヨウもマツの仲間だということは分かりそうです。義務教育の理科で学習したように,マツの仲間は風媒花で大量の花粉を風で飛ばしますから,「雄性配偶子が運ばれやすい」ということを述べている選択肢①or②が答えになりそうです(雌性配偶子は植物体から離れませんから,運ばれやすいことはなさそうです)。このように,出題されている生き物がいったいどのような生き物なのかが分かれば,問題文から状況をイメージしやすくなりますね。
 表1から,ハイマツどうしの交配によって生じたハイマツ(純ハイマツとします)は標高の高いところに,一方の純キタゴヨウは標高の低いところに生育していることが分かります。このことと併せて,花粉が運ぶSのタイプの遺伝子―すなわち葉緑体のDNAの列を見ると,キタゴヨウの花粉が標高の低いところから標高の高いところへと運ばれてくる様子がイメージできますね。①が妥当でしょう。


第2問 

問1 「種内の相互作用によって引き起こされる現象」ということなので,個体群の成長や,それにともなう密度効果について考えることができればいいでしょう。②のバッタの相変異や,④の最終収量一定の法則は,密度効果の代表例。③は自己間引きという現象で,個体群のうち成長の芳しくないものが種内競争に負けて枯死し,個体群の密度が減少することを言います。…自己という言葉を個体群にあてているのは,個体群を1つの意志のある存在として捉えているようで,個人的にはあんまり好きなネーミングじゃないんですけど。
 残った①が誤りの選択肢。中規模な撹乱によって植物の多様性が高まるのは,中規模攪乱説。撹乱がないと,その環境には種“間”競争に強い樹木のような種ばかりになりがちですし,撹乱が大規模だとそもそも生きとし生けるものがいなくなってしまいます。中規模の攪乱が起こることによって,競争にある程度強い種,撹乱にもある程度強い種…といった様々な強みをもった生物が共存できる―ということで,種“内”競争がテーマのこの設問の中では①が仲間はずれです。

問2 選択肢の①〜④のうち,①〜③は事実として正しいことが書かれています。しかし設問は「実験1〜3の結果から導かれる考察として最も適当なものを選べ」なので,事実として正しいことは,この設問の正解であることの十分条件ではありません(一方,もしこの実験が,先の葉緑体の父性遺伝のように,教科書に書かれた内容の例外的事象の存在を明らかにするものでない限りにおいては,必要条件ではあるでしょう。その意味では,糊粉層はジベレリンではなくアミラーゼを合成するので,④は不適です)。
 実験1と実験2より,デンプンを分解する活性は胚が担っていることが分かります。これと実験3より,デンプンの分解における胚の役割はジベレリン添加によって代替できることが分かるので,③が正解。①と②は,そんなことを示す実験をしていないので不適です。

問3 いっつも思うんですけど,「植物群落内の高さと,その位置における光の強さとの関係」のグラフは,横軸に植物群落内の高さをもってくるほうが分かりやすいと思うんですよね。まぁそんなことはさておき。
 「葉の密度が一番高い」とはどういうことでしょう。葉の密度が高い様子を思い浮かべてみましょうか。薄暗そうですよねぇ。つまり,「葉の密度が一番高い」とは,「そこで最も光の強さが下がる」ということです。群落内の高さが0.8(④)の前後で,光の強さは90から60くらいまで急激に減少しています。正解はここですね。

問4 図1と図2を交互に見比べながら考える問題です。グラフ読むだけですね。
 ① 図1より,群落内の高さが0のとき,光の強さは5。図2より,光の強さが5のとき,二酸化炭素の吸収速度はマイナス0.1。負の値ですね,不適。
 ② 図1より,群落内の高さが0.1のとき,光の強さは10。図2より,光の強さが10のとき,二酸化炭素の吸収速度は0です。しかし,選択肢には「一日をとおしての二酸化炭素吸収速度」とありますね。つまり,一日のうち光があるときはゼロ,光がないときはマイナスなので,一日をとおしての二酸化炭素吸収速度は負の値になります。これが正解。
 ③ 図1より,群落内の高さが0.3のとき,光の強さは20。図2より,光の強さが20のとき,二酸化炭素の吸収速度は0.2です。同様に図1より,群落内の高さが1のとき,光の強さは100。図2より,光の強さが100のとき,二酸化炭素の吸収速度は1です。1は0.2の5倍なので,0.7倍というのは誤りです。不適。
 ④ 図1より,群落内の高さが0.5のとき,光の強さは30。図2より,光の強さが30のとき,二酸化炭素の吸収速度は0.4です。図2を見ると光飽和点は光の強さが100くらいなので,二酸化炭素吸収速度はまだまだ上がります。不適。

問5 「群落の下層」は,上層にある葉を通った光が届きます。したがって,図3の「葉を通った光の強さ」のスペクトルを読み解きましょう。
 まずは,「赤色光に対する遠赤色光の比率」を知るために,赤色光と遠赤色光の波長はそれぞれ何nmなのかを判断するところから始めましょう(別にどの色が何nmかなんて頑張って覚えなくていいですよ,グラフ読めば分かります。あと,こういう問題解いてたら自然と覚えます)。図3上部より,フィトクロムの吸収スペクトルは,赤色光吸収型の吸光ピークが660nmくらい,遠赤色光吸収型の吸光ピークが730nmくらいですから,赤色光の波長が660nm,遠赤色光の波長が730nmくらいだということが判断できますね。
 さて,図3下部の「葉を通った光の強さ」のスペクトルで,660nmと730nmのところを比べると,圧倒的に730nmの方が光の強さの値が大きいです。つまり,葉を通った光では遠赤色光の比率が高いことが分かります(③or④○)。問題リード文より,フィトクロムは「異なる波長の光を吸収して赤色光吸収型と遠赤色光吸収型との間で相互変換する」ということが書いてありますから,遠赤色光吸収型のフィトクロムは730nmの波長の光をよく吸収し,赤色光吸収型に変化しますから,植物の中のフィトクロムは赤色光吸収型になっているでしょう(③○)。

問6 光発芽種子が赤色光を受容して発芽するという性質は,赤色光が光合成に用いられる光であり,発芽してすぐに安定的に光合成を行うことができることがある程度担保されるということに役立っています。逆に言えば,遠赤色光の比率が高い環境で発芽すると,その場は他の植物の葉で影になっているので,光合成を行うことができません。それは困る―というか,そんなタイミングで発芽するような種子は淘汰されていったのでしょう。
 特にレタスのように小さい種子は,種子の中にたくわえている栄養も少ないですから,発芽後はすぐに光合成できるほうがよさそうです。じゃあ種子を大きくすればいいと言うかもしれませんが,大きな種子は数を作ることができません。たくさんの小さな種子を作ってどれかが生き残る戦略を採るか,少数の大きな種子を作って生存率を高める戦略を採るか―植物の繁殖戦略も,なかなか楽しい分野なのです。
 さて,そういうことですので光発芽種子が避けている環境というのは,発芽した時点で他の植物と光を奪い合う競争に駆り出されるような環境です。③の,「ほかの植物との潜在的な競争が存在する環境」というのがこれに当たるでしょう。


第3問 

問1 第2問と同様,グラフを読めば分かる問題ですね。
 小型底生魚が大型魚に比べて大きいのは,図1の3つの尺度のうち年間被食量のみです(⑤or⑥○)。被食量が多いんですから,年間の死亡率は高くなるでしょう(⑥○)。

問2 この手の表の虫食い問題は,虫に食われていないところの数値が,どのように計算されているかを逆算するといいでしょう。
 まずは小型底生魚の年間生産量である1350gから解釈していきます。年間生産量は,問題文中に「同化量−(呼吸量+老廃物排出量)」と定義されていますが,呼吸量も老廃物排出量も図1には与えられていません。与えられていないものはしょうがないので,別の求め方をします。
 そもそも,消費者たる動物の物質収支は,食べたものの量を“収入”とし,そこから消化せずに排泄した分,呼吸で使う分,食べられたりして死んだ分を“支出”として差し引いて,残った分が“利益”として個体数の増加などにまわされる仕組みになっています。この単元では,公式モドキのようなものが教科書にもまとめのような顔して掲載されていますが,そんなもん覚えようとする前にまずは物質収支の意味を一歩引いて捉えましょう。個体群における物質の出入りをイメージできるようになれば,そんなの覚えるまでもありません。
 摂食量から,不消化排出量を引いたものが同化量―要するに消化・吸収した量です(“同化量”なんて記号で覚えるんじゃないですよ。消化・吸収された量だと,簡単な言葉で言い換える努力をしましょう)。吸収した量から,呼吸量―ミトコンドリアで二酸化炭素と水にする量と,老廃物排出量―垢とかの量を引くと,その消費者の集団が不死であれば潜在的にどれだけ大きくなりうるかが分かります。実際はここから被食量―食べられたりして死んだ量を引き算して,個体群が真にどれだけ大きくなるかを表す成長量を求めることができます。要するに,個体群における物質の出入りをイメージできれば,同化量から呼吸量と老廃物排出量を引くと,被食量と成長量の和になることは分かるんですよ。教科書では被食量と死亡量とが分けて書かれていますけど,まぁこの問題では死因の殆どが被食なんでしょうね,たぶん。
 …と考えてもいいですし,もっと単純に,「図1で小型底生魚の成長量(50gくらい)と年間被食量(1300gくらい)を足せば1350gになるな」でもいいです。いずれにせよ,[ウ]ではそれと同じことをすればいいので,大型魚の成長量と年間被食量を足して1300g。[エ]はそれを200gで除して百分率に直し,67.5%。

問3 [オ]は問2で虫食いを埋めた表からすぐに分かります。
 [カ]は図1を見た瞬間にピンときたいところ。大型魚の方が現存量が多いですよね。個体数で考えれば,上位の消費者である大型魚の方が少ないはず。ということは,このサンゴ礁の大型魚は,数は少ないけれど1匹1匹がデカい。なぜか?小型底生魚は数こそ少ないものの,よく増え,よく食べられているから―と,図1を見てここまで判断できるようになりたいですね。
 さて,問題リード文の一行目に「サンゴ礁」とあったんですが,サンゴ礁というワードを観た瞬間にサンゴ礁は脳内にイメージしましたか?それがこの手の問題をスムーズに解く第一歩ですよ。イメージです,イメージ。


第4問 図1を見て,すわヘンレループの対向流増幅系が出題されるか…!と思ったんですがそこまでは出ませんでした。
 …この問題の題材,生物基礎ですよね。共通テストの生物には,生物基礎範囲も入るということでいいんですかね。今後,例えば植生遷移(生物基礎)を種間競争(生物)の文脈で問われることも,ひょっとしたらあるかもしれません。

問1 腎臓の機能は濾過と再吸収です。糖尿病患者の尿に糖が出るのは,血しょうを濾過してできた原尿からの,グルコースの再吸収が間に合わないから。これは知識としてもっておきたいところではあります…が,別にそこまで知らなくても,血液と原尿のグルコース濃度が等しいことを分かっていれば,選択肢を読めば分かる問題でした。血液と原尿のグルコース濃度は同じです(この時点で③,④×)。同じなので,細尿管から血管へとグルコースを移動させるだけの濃度勾配がなく,受動輸送に依る再吸収は成り立ちません(②×)。残った①が正解。
 ちなみに,小腸上皮細胞が腸管内―すなわち体の外にあるグルコースを毛細血管に取り込むしくみと,細尿管上皮細胞が細尿管内―すなわち体の外にあるグルコースを毛細血管に取り込む仕組みは共通しています。腸での消化吸収と,尿の生成とで同じ仕組みがあるの,面白いですよね。

問2 会話文の中で明らかになっていることは,「利尿剤Xを投与すれば,“なぜだか知らんが”NaClの再吸収が阻害される」ということです。この“なぜだか知らんが”の部分を明らかにしていこうというのが,この問題のミソの部分。利尿剤Xが何に効いているのかは分からないのです。この設問文では「Na+を能動輸送するタンパク質Y」が挙げられていますが,この時点でタンパク質Yはあくまで利尿剤Xの作用点の候補であって,本当は未知のタンパク質Wかもしれません。
 ここで,実際にタンパク質Yに利尿剤Xが結合して,NaClの能動輸送が阻害されている様子を,超絶高性能な顕微鏡か何かで観察できれば楽なんですけど,そうはいかないんですよね。数nmくらいのサイズのタンパク質なら,一般に分解能が0.2nmである電子顕微鏡で“視る”ことはできるんですけど,電子顕微鏡での観察は対象を乾燥・固定―早い話が殺さないとできません。しかも,そもそもNa+やCl-は電子顕微鏡でもちゃんと見えません。だから,いろんな角度からいろんな実験をして,「タンパク質Yに利尿剤Xが結合して,NaClの能動輸送が阻害されている」という仮説を支持する結果をかき集めることになります。そうやって仮説の確からしさを上げていく過程こそが科学の大事な一側面であり,この手の問題の意図はそういうところにあるんじゃないかと私は思っています。
 というわけで,選択肢を1つずつ吟味してみましょう。「タンパク質Yで間違いない!」という実験とその結果を選ぶんじゃなくて,「お,それなら確かにタンパク質Yが利尿薬Xの作用点の可能性があるね」くらいのテンションで読むのがいいです。
 ① 電子伝達系阻害剤を作用させると,細胞内のATP生産効率がガタ落ちします。ATP生産効率がガタ落ちすると,ATPを利用した能動輸送の効率もガタ落ちします。ここで,タンパク質Yは能動輸送を行うということなので,電子伝達系阻害剤は,タンパク質Yの能動輸送を停止させるかもしれません。もし利尿剤Xがタンパク質Yの阻害を行うと仮定すれば,利尿剤Xがあろうとなかろうと,Na+濃度の変化は起こりません。したがって,この仮定はスジは通ります。逆に,もし電子伝達系阻害剤を作用させても,利尿剤Xを加えてNa+濃度の変化が起こるのであれば,利尿剤Xはタンパク質Yではない何か別の要素に作用していると考えることができます。
 ② DNA合成阻害剤を作用させると,体細胞分裂が阻害されます。体細胞分裂が阻害されるとタンパク質Yが機能しなくなる―というのは,こじつけるにしてもちょっと距離が遠いので,ちょっと何を言っているのか分かりません。これが不適当でしょう。
 ③ 繰り返しになりますが,会話文の段階では,“利尿剤Xは利尿作用を示し,その作用機序はNaCl再吸収の阻害である”ことが分かっています。しかし,そのNaCl再吸収の阻害が,《タンパク質Yの》阻害によって起こるかどうかは分かっていない―ということでした。ここで,「タンパク質Yと結合するが利尿作用のない薬剤Z」を作用させても,当然利尿作用は起こりません。そして,Na+濃度の変化に対する効果もないということであれば,《タンパク質Yを介した》NaCl再吸収阻害と利尿作用との間に関係があることが示唆されますね。
 ④ ①と近い考え方ができると思います。働きを失ったタンパク質Yを,タンパク質Y’としましょうか。遺伝子を組み換えた培養細胞は,その表面にタンパク質Y’を発現します。働きを失っているので,能動輸送は起こりません。そもそも能動輸送が起こらないので,①と同様にもし利尿剤Xがタンパク質Yの阻害を行うと仮定すれば,利尿剤Xがあろうとなかろうと,Na+濃度の変化は起こりません。逆に,もしタンパク質Yの遺伝子を組み換えても,利尿剤Xを加えてNa+濃度の変化が起こるのであれば,利尿剤Xはタンパク質Yではない何か別の要素に作用していると考えることができます。

問3 「能動輸送」ということなので,最も注目すべきは能動輸送のためのATPを高効率に生産するミトコンドリアの数でしょう。この時点で,(c)っぽいし,Ⅰっぽいですね。また,「再吸収」は細尿管内の液体と細尿管上皮細胞とが触れている面積が多いほうが効率が良さそうです。これは,小腸の内側のひだが,その表面積の拡大に貢献しているのと同じ理屈です。そもそも小腸も細尿管も,体外の出た物質を体内に取り込む点では共通していますからね。その点では,(b)や(c)のように,上部にひだのような構造のある細胞が適当でしょう。(a)は丸い細胞ですが,球は同体積の立体の中で最も表面積が小さいので,吸収を担う細胞としては不適当です。また,Ⅱの「小胞体とゴルジ体が発達」はエキソサイトーシスを行うような,分泌細胞に見られる特徴です。Ⅲの「細胞が扁平」は,表皮など体を覆う役割を担う部分の細胞に見られる特徴で,むしろ物質を透過しません。
 さて,Ⅰ,Ⅱ,Ⅲはいずれも「上皮細胞」と呼ばれる細胞の特徴です。上皮細胞には,吸収を担うもの,分泌を担うもの,被覆を担うもの,管をなして物質の輸送を促すものがあります。Ⅰ,Ⅱ,Ⅲの選択肢を,一歩引いて統合するような見方も,この問題を通じて身につけておきましょう。

問4 [ア]と[イ]は言うまでもないですね,図を見ましょう図を。アクチンフィラメントを分解する薬剤でアクアポリンの輸送が阻害されたということは,アクアポリンの輸送に関わるモータータンパク質はミオシンだと分かります。アクアポリンは水チャネルの名のごとく,水の透過性を上げるものですね。


第5問 節足動物の足の問題。試行調査にも似たような出題がありましたね。

問1 ショウジョウバエでは,Xはムネとハラで発現しますが,Yはハラでしか発現しないようです。Xが脚を生やし,YがXを抑制します。
 Yをショウジョウバエの全身で発現させると,ムネで発現しているXも抑制されるので,ムネに脚が生えません。②が妥当でしょう。

問2 ①,② ショウジョウバエおよびアルテミアのタンパク質YのA領域のはたらきは,変異タンパク質a,bの結果を見れば明らかです。
 ④ アルテミアの正常タンパク質Yと変異タンパク質cでは,ともに脚形成が抑制されません。アルテミアの正常タンパク質Yと変異タンパク質に共通していることは,アルテミアの領域Bをもつことです。ということは,アルテミアの領域Bが,①,②で脚形成を抑制すると分かる領域Aを阻害すると考えられます。
 ③は④と同じ考え方をすれば誤りと分かりますね。

問3 系統樹の描き方の問題ですね。問題文より,ムカデとアルテミアの脚形成に関する遺伝子のはたらきは似たようなものであり,ショウジョウバエでのみYがXを阻害している(=脚形成を阻害している)ことが分かります。したがって,遺伝子Yの働きが変化したのは点Qだと分かります。さらに,点Qで変化したのなら,点Pの時点では遺伝子Yの働きはまだ変化していませんから,遺伝子YはXを阻害しませんね。
 系統樹を描くときは,遺伝子の働きが変化する回数をなるべく少なくするというのが前提にあります。遺伝子の変化…特にその遺伝子がコードするタンパク質の働きが変わるような変化は,往々にしてロクなことになりません。
 ひょっとしたら,節足動物の祖先ではもともと遺伝子YがXを阻害していたけれど,点Pでその働きを失い,点Qで再び働きを取り戻した可能性もありますよね。その場合,節足動物の祖先からムカデに至る系統のどこかでも,点Pと同様に遺伝子Yの働きが失われたと考えることができます。しかし,これでは節足動物の祖先からショウジョウバエ・アルテミア・ムカデにいたる過程で,複数の系統で独立した遺伝子の変化が,合計して複数回起こらねばなりません。問題文に「遺伝子Yの働きが一回だけ変化したと考えたとき」とあるのは,それが系統樹を描くときの妥当性をある程度担保するからですね。
 …なお,ある形質が複数の系統で独立して進化すること自体は,“稀によくあること”です。これがまた面白いんですよ大学でやりましょうね。


第6問 最後の最後に,大した計算ではないにせよ計算問題を持ってくることに嫌らしさを感じます。嫌いじゃないですけどね。

問1 基本的な知識問題です。音の高低は,うずまき管内のどこの基底膜が振動するかで変わります。基底膜は,うずまき管内の奥へ行くほど幅が広くなっており,幅が広い基底膜ほど低い音で振動します。ちょうど,木琴の鍵盤が,長いほど低い音が出るのと同じことだと考えるのがいいでしょう。

問2 算数ですね。正三角形について,ある点を通り,かつその点を含まない辺と垂直になるような線で折ると,内角が30°・90°・60°の直角三角形ができます。このような三角形では,斜辺と最短辺の長さの比が2:1になります。ということは,左耳と右耳の距離が5cmだということから,右耳に音が届いてから左耳に音が届くまでに,2.5cmぶんのラグが発生するということが分かります。音速は340m/秒ということなので,音が2.5cm進むのに係る時間は0.074ミリ秒。
 生物の計算問題が苦手というそこの貴方。煽りでもなんでもなく,その原因は算数を疎かにしたことかもしれません。算数はできたんだけど…というのであれば,生物の計算問題を算数の文章題とみなす練習をしましょう。算数は苦手だったな…というのであれば,むやみに生物の計算問題ばかり練習してもあまり意味はないように思います。まずは,理科でよく問われる水溶液の濃度計算や速さの計算などが,基本的にぜんぶ比の計算で処理できるということから始めてみましょう。

問3 図2で描かれた神経細胞は,内側上オリーブ核細胞と呼ばれる,音源定位に特殊化した細胞です。2016年の獨協医大でも同様の問題が出題されていましたね。
 で,これも算数ですね。問題文に,軸索上の興奮の伝導速度が4.0mm/ミリ秒と与えられているので,0.1mm伝導するのにかかる時間は0.025ミリ秒。ということは,0.050ミリ秒あると,点Xにあった興奮は0.2mm先のニューロン(c)直上まで到達します。ニューロン(c)直上と点Y(=ニューロン(g)直下)にある興奮がどこで合流するかといえば,(c)と(g)の中間にあるニューロン(e)が妥当でしょう。

 
感 想

 生物基礎と同様,第一日程よりも僕好みの問題でした。いずれにせよ,覚えてないとどうしようもない問題の数はもう少し増やしてもいいようには思いますが,そこは平均点との兼ね合いの中でバランスを見出してもらえると信じています。

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