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「今日の生き物」の下書き的ブレスト vol.6

コムギ ―植物の環境応答を学習したあとで―

 

ーーはじめにーー
・2021年度以降の授業の小ネタを整理するのが目的ですが,2021年度内に終わるとは思ってません。
・どのみち「分類」の単元でいろんな生き物を学習するなら,普段の授業の中で少しずつ,身の回りの生き物を取り上げておくのがいいんじゃないのという仮説のもとでやります。
・画像はいらすとやさんから拝借します。
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食用になる生き物の話が続いてしまい恐縮ですが,今回もその路線で話を進めたいと思います。今回はコムギ。小麦粉のコムギです。小麦粉は生き物だったんですよというと違和感をもたれるかもしれませんが,小麦粉はコムギという植物の種子をすり潰して粉にしたものですから,あれはやはり生き物だったものなんです。
小麦粉はパンを作るのに使われますね。小麦粉を水で練って,イースト(=酵母:本シリーズvol.2を参照。イーストも生き物ですよ…!)を加えます。小麦粉に含まれる糖分が酵母によって発酵されて,二酸化炭素とエタノールに分解されます。二酸化炭素はパン生地の中で小さな気泡を作り,生地をふくらませることで,あのふわふわした食感に貢献します。

さてこのコムギ,日本での収穫時期はいつだと思いますか?秋?それはイネですよ。コムギの収穫期は初夏です。「麦秋」は初夏のことでしたよね。
イネは栽培に多くの雨を要しますが,コムギはどちらかと言えば水はけのいい土を好む作物。しかも,もしコムギの収穫前に梅雨入りしてしまうと,雨の当たったコムギの穂―つまりコムギの種子には,穂についたまま発芽してしまう「穂発芽」と呼ばれる現象が起こります(穂発芽が起こりにくい品種もあります)。種子の発芽は,種子に含まれる炭水化物をエネルギーとして消費してしまうため,品質が下がってしまいます。
人類は,多くの植物を品種改良し,作物として栽培してきました。コムギのようなイネの仲間の植物は,熟した種子が穂からぱらりと勝手に落ちてしまう「脱粒性」という性質をもっていることが多いです。種子はふつう土から芽吹くものですから,これは理にかなった性質です。しかし,その植物をヒトが利用するとなると話は別で,収穫という行為の前に脱粒性は邪魔でしかありません。ヒトは,栽培に適した植物を選抜する中で,なるべく脱粒性の乏しく,熟した種子が穂から離れない性質をもった個体を選んできたということです。
品種改良とは,端的に言い換えれば,人が人のために起こす生物の進化です。チャールズ・ダーウィンが,当時ロンドンで盛んだったハトの品種改良を熱心に観察していたのは,有名な話…でしょうか。

また,日本でコムギ畑以外でコムギが生えているのはどこでしょう。それは,例えば食品を扱う輸入港であったりします。
つい先日,兵庫県神戸市の港のある埋立地で,外来のバッタが国内初確認されたニュースがありましたね。港というのは外来生物の侵入口になりやすいところで,それはバッタやヒアリなどの昆虫類に限った話ではなく,植物も同様です。輸入されたコムギの種子を運搬する途中で,どうしても何粒かはぽろぽろ落ちてしまうようです。また,コムギと一緒に収穫された,海外のコムギ畑に生えていた雑草の種子も,コムギと一緒にこぼれ落ちることがあります。
輸入港付近を歩いていると,歩道脇のツツジの植え込みにコムギが生えていたり,コムギらしき袋を運搬するフォークリフトの後ろをハトが付け回していたりします。なんだかいろいろ察することができて興味深いのですが,港をめぐる防疫の問題は,いやはや,難しいものです。

植物の環境応答の単元では,コムギは種子の発芽におけるジベレリンの発生や,麦踏みによるエチレンの発生,伸長成長におけるオーキシンのはたらきに,開花における春化とFTタンパク質のはたらきなど,生育ステージごとに関わりの深い植物ホルモンを列挙できるいいモデルだと思っています。そう思っているんですが,高校生物の学習参考書では,何なのかよく分からない「植物」をモデルに説明がなされています。コムギの一生をモデルケースにしたこの単元の授業展開を,一つ形にしてみるのもいいんじゃないかと思う昨今です。

それでは,また次回。

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