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「今日の生き物」の下書き的ブレスト vol.2

酵母 ―代謝を学習したあとで―

ーーはじめにーー
・2021年度以降の授業の小ネタを整理するのが目的ですが,2021年度内に終わるとは思ってません。
・どのみち「分類」の単元でいろんな生き物を学習するなら,普段の授業の中で少しずつ,身の回りの生き物を取り上げておくのがいいんじゃないのという仮説のもとでやります。
・画像はいらすとやさんから拝借します。
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代謝の単元では,「酵母」という生物について学習します。酵母は真核生物―つまりミトコンドリアをもつ生物であり,我々と同じように二酸化炭素を吐いて酸素を吸って生活しています。酵母はいわゆる菌類であり,高校課程の生物で登場する酵母は,菌界の,子嚢菌類(しのうきんるい)に属します。同じ子嚢菌類には,ブルーチーズに独特の風味をもたらすアオカビや,日本酒作りでお米を糖に分解するコウジカビなどが含まれます。私達の生活に密接に結びついていますね。

せっかくなので,少し代謝の話もしましょう。我々ヒトと酵母は,炭素Cと酸素Oと水素Hからできている炭水化物を分解し,その産物として炭素Cと酸素Oからなる二酸化炭素を吐き出します。残った水素Hは体内でいろいろされてATP(体内でエネルギー源として使われる超便利な物質)の合成に関与したあと,外から吸い込んだ酸素と結びついて水になります。ふだん何気なく「酸素を吸って二酸化炭素を吐く」って言っちゃいますけど,学習の流れとしては「二酸化炭素を吐いて酸素を吸う」という順番でやってますよね。ただ,酸素を吸うのを止めると,いろいろあって二酸化炭素の放出も止まるので,どちらが先かという議論は誰も幸せにならないかもしれません。

さて,酵母が我々と違うのは,酵母は酸素がなくてもなんだかんだやっていけるということ。すごい。そして,酸素がないと,炭水化物の分解は中途半端にしか進みません。その結果何が生じるかというと,二酸化炭素と,エタノール。

そう,アオカビやコウジカビと同様,酵母も私達の生活に密接に結びついています。そう,お酒です。

日本酒(お米),ビール(麦類),ワイン(ブドウ)といった醸造酒は,いずれも植物の果実や種子などに含まれる炭水化物を酵母によって発酵させ,味を整えたもの。言ってしまえばエタノールは酵母の排泄物みたいなもので,あまりエタノールの濃度が上がってしまうと酵母にとってもよろしくありません(醸造酒のアルコール度数がせいぜい15度程度なのは,酵母の耐えられるエタノール濃度がそれくらいということです。それ以上の度数を求めるなら,蒸留しないといけません)。とはいえ,お酒は世界各地で様々な形でありがたがられていて,嗜好品としての酒類の多様性はいつも私を楽しませてくれます。酵母はこの地球上の色んなところにいるので,例えば木から落ちた果物が酵母によって発酵し,芳香を放っていることもあります(そういうの,「腐りかけ」って言いがちですけどね)。

 ところで,「発酵」とはそもそも何でしょう。これには2通りの意味があります。

 ① 「呼吸」に対する「発酵」
高校課程の生物で「発酵」という言葉を使う場合は,「呼吸」と対をなす言葉として使います。呼吸は,酸素を使って有機物(食べたもの)を分解し,エネルギーを得ること。発酵は,酸素を使わずに有機物を分解し,エネルギーを得ること。
我々ヒトは,生きるために必要なエネルギーをほぼほぼ呼吸で賄っています。呼吸のほうが発酵よりも効率よくエネルギーが得られるので,酵母に比べて身体が大きく,エネルギーをたくさん要求する我々ヒトは,エネルギーの獲得方法をほぼ呼吸に依存するしかありません。一方の酵母は単細胞性で,ヒトに比べて生きていくのに必要なエネルギー量は少なく,発酵でもなんとかやっていけるのです。

 ② 「腐敗」に対する「発酵」
日常で「発酵」という言葉を使う場合は,「腐敗」と対をなす言葉として使っているのではないでしょうか。腐敗も発酵も,微生物が繁殖しているという点では同じです。違うのは,ニンゲン様にとって都合がよければ発酵,都合が悪ければ腐敗ということ。まぁ,勝手なもんですよねぇ。

ここからは主観的な話。微生物など肉眼で見えない生物の「発酵」には,何かと生命の神秘というか,超自然的なsomethingを見いだされがちなのではないか…?と思っています。我々ヒトの目の分解能はたかだか0.1mmしかなく,肉眼で見えないだけのものに対する想像力が,あらぬ方向にそのベクトルを強めることが,ひょっとしたらあるのかもしれません。そんな我々に,確かにそこに小さき生き物がいて,それが確かに普遍的な物理法則のもとで生活していることを教えてくれる「生化学」の入り口として,代謝の単元を捉えてもらえれば嬉しく思います。

それでは,また次回。

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