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ジョジョやらジブリやら色々パロディ風短編小説【新訳『三匹の子ブタ』のようなもの】著者:椿

 『プロローグ』のようなもの




 むかし むかし えらそうなだけで まったく やくたたずの じじいが いました。
 じじいは あさから ばんまで ぐうたらして みずから うごこうと しません。
 それどころか ふたことめには「ばあさん めしは まだか!」と、まるで ぶたです。

 そんなある日のこと。
 じじいは むくりと おきあがって いいました。
「働かざる者食うべからず。しかし、働かなくても、食っていける。ニートこそ、至高なりッ!」
 じじいはそう いいのこし このよを さっていった そうな……。

 なんと そのことばに げきどした ばばあが ぶたの いきのねを とめた のでした。
       ~~めでたし めでたし~~

 《キャスト》
 ナレーション:大山 のぶ夫
 じじい(ぶた):野澤 雅子

 《絵・コンテ》
 剛田 ジャイ子

 《監督・総編集》
 新海 真琴
 細田 マモル

 ………………(以下省略)

「『日本むかし話X』終わっちゃったね。達也兄さん」
「そうだなー和也。イマイチよくわからん話だったけどなー」
「兄者! そんなことはなかったじゃないか? じじいは命を賭して俺たちにニートの素晴らしさを説いてくれたじゃないか?」
「まーた、そうやって丈太郎はマジレスするー。興ざめだよー。興ざめー!」
「……やれやれ。兄者は俺にぶっ飛ばされたいようだな!」
「「そんなキレるところ⁉」」
 いまどきでは珍しい純和室の一室で、一方的な兄弟喧嘩が始まった。
 三兄弟の仲で一番身長が高く、ガタイがいい三男の丈太郎がキレて暴れ回る。部屋の中央に置かれた小さな円形のちゃぶ台をひっくり返し、兄貴たちをぶん殴る。
 なぜか、その場に居合わせただけの二男・和也も巻き込まれ、四畳半の一室は血に染まった。
 テレビのBGMソングが軽快なリズムを刻み、拳の炸裂音がビートを叩いた。


『クズニート三兄弟の歌』
 上杉家はと~っても仲良し三人兄弟♪(ドスッ)
 長男・達也は何をやってもセンスもやる気もない。ロリコンのクズ♪(ガシュッ)
 二男・和也は太くて丸いカービィボーイ♪ 他力本願のクズ♪(ドゴッ)
 三男・丈太郎は短気・短足・包茎のチェリーボーイ♪ 真面目系のクズ(グチャッ)
 それゆけ ワンパク、ニート三兄弟♪
 チャチャラチャーチャー・ドンドン♪(ジュシャッ)


「やれやれ。我が家じゃあゆっくりNHK番組も見れないのか……」
((いや、オメーがキレたせいだろ!))
 身動きが取れなくなった兄たちは同時に思った。と、その時、ふすまが怒号を立てて開かれた。
「おいクソニート共! アラサ―になっても喧嘩とか、いい加減にしやがれ!」
 鬼の形相で上杉家最高権力者の謙信ネエさんが現れた。
 髪はくりくりピンク一色の縦ロール。眉は付けまつ毛でピンッと立っており、瞳にはブルーホワイトのカラーコンタクト。口には真っ赤なルージュの口紅。
 豪快かつ派手な虎柄のワンピースにバイオレットのミニスカートを着こなしたネエさんは続けた。
「てめぇ等の生活費を誰が支払ってると思ってるんだい⁉ 迷惑ばっか掛けて、我慢の限界や‼ 三人まとめて出ていきやがれ!」
 ネエさんはカンカンに怒っていた。もはや取りつくシマもなさそうであったが、三兄弟は三者三様に猫なで声で甘えた。
「そ、そんなぁー。待ってくれよーパパ。やる気はねーけど、なんか。なんか頑張るからさー」
「そりゃあないぜ……頼むぜ、ファザー。次は必ず、コンビニで履歴書を買ってくるぜ」
「おし。ごっどふぁざーの説得は二人に任せたぜ……」
「「なんでお前(和也)はこんな時でも他力本願なんだよ!」」
 二人の拳が和也の顔面に突き刺さった。そして、再び醜い兄弟の争いが始まった。

「俺のことは”ママ”って呼べって言ってんだろう‼」
 次の瞬間、三匹の醜い兄弟(豚)をワンパンで昏倒させ、一気に持ち上げた。和室に存在する唯一の窓をぶち破り、斜め四五度の角度でどこか遠くへ投げ捨てた。

 こうして、彼らの健闘虚しく、約三〇年生まれ育った家を追い出されたのであった。

『共通パート』のようなもの

 空はまだ薄暗く、国道を走る車も片手で数えられるぐらいであった。それもそのはず、西の方角に太陽がちらりと顔を覗かせたばかりだからだ。
 先日、環境省が全国で梅雨明けを発表したばかりの某日の早朝の空気は水気を多く含み、じめっとしていた。
 そして、都内某所の公園に設置されたトンネル遊具の中では、更にジメジメとねちっこい空気をはらんでいた。
「おいー、丈太郎ー。一人で新聞紙取り過ぎなんだよー」
「そう言う達也兄さんも、だろ?」
「……やれやれだぜ」
「あっ! テメェ丈太郎、さりげなくボクたちの分を全部取るんじゃねーよ!」
 その時、日本に優しい光が差し込み、全国各地に爽やかな朝を向かい入れた。ジメっとした空気を払拭し、大地に活力を与えていく。
「いい加減にしないと例え弟達といえども、殺るぞー?」
「やれやれ。望むところだぜ」
「ならボクはお前等のどっちかが勝った瞬間に勝者の背後からブスって刺すから、よろしく」
「「まじ、お前(和也)外道だな!」」
 ……一部を除いて。

              ***

「――で、兄者。これからどうするんだ?」 
「知らなねー。俺ら三兄弟捨てられてホームレスの仲間入りしちまったしなー」
「おいおい、達也兄さんがそんなんでどうするんだよ!? ボクの生活と安全は兄さんと丈太郎にかかってるんだからさ!」
「……現状、最優先すべきは衣・食・住の内、“住“だな。衣服は最悪無くてもいいだろうし、食事はスーパーの試食品コーナーに入り浸ればなんとかなる」
 ※従業員、他の客の迷惑になるので良い子のみんなは真似しないでね。
「さすがは丈太郎ー! 冴えてるー」
「ねぇボクを無視しないで!」
 和也が抗議するも、兄弟たちはスルーした。臭いものには蓋ということである。いや、おそらく用法に誤りがあるが、モノの例えとして使わせてもらう。
「新しい住み家を手に入れるまでは、協力関係を結ぶのが得策か……」
「そうだなー。こればかりはやる気ないとか言ってらんないしねー。まずは三人でアイデア出して決めていこうか―。『三人合わされば門下の知恵』っていうしねー」
「それを言うなら『文殊(もんじゅ)の知恵』だぜ兄者。――ところで、あの馬鹿(和也)はどこにいった?」
 二人はその場で辺りを見渡したが、そこには和也の姿はなかった。
「まさかー。大事な大事な弟がふてくされて、どっか行ってしまうなんてー。なんてこったいー(棒)」
「……やれやれ。早速、協力するのは断念しざるえないってことか。あと兄者。口調からして感情が全くこもっていないのが駄々漏れだぜ?」
「えー。そんなことないよー。ひどいなー丈太郎はー」
「……やれやれだぜ」
 公園すぐそばのゴミ置き場を漁っていた数羽のカラスが、昨夜からたむろするアラサーホームレスのオッサン二人を睨みつけた。
 そして、カーカーと、一声鳴くと大空へ飛翔した。朝日が差し込む、西の大空へ向けて。

(『長男・達也パート』のようなもの)


「――こうなったら仕方ない。俺ら三人、別々の道を歩むしかないな」
「そうだなー。二男の和也は先にどっかいっちまったしなー」
「じゃあ、達者でな。兄者」
「丈太郎も元気でなー」

               ***

 そんなやりとりがあったのは、今は昔。平安の世にママのようなパパ(天人)が襲来し、仲良し三兄弟は晴れてアラサーホームレスになってしまった。
 そういうことで長男のオレは平日の昼間からプラプラと歩いていた。
「あー、だりぃー。腹減ったなー」
「ねー、ママ。あのおじさん、なんでパパみたいに『かいしゃ』にいってないの?」
「しーっ! しおり見ちゃだめよ!」
 保育園だか幼稚園やら知らないが、親子がオレを蔑(さげす)む目を向けている。
(どうでもいい……。いっそ、地球滅びないかなー。あとしおりちゃんペロペロしたい。ロリっ子ぺろぺろ)
 などと、腐った思考を巡らせていると川が見えた。同時に、三〇メートルほどの橋も目に付いた。車やチャリに乗ったあんちゃん。元気ハツラツ婆が無駄に歩いていた。要は土手である。
 川辺には緑生い茂る雑草と、黄土色の開けたグランドには白い白球を追いかけるおっさん達が戯れている。その隅っこでは愛犬とじゃれあうツインテール美少女がいた。
(おー、ロリっ子発見ー! お持ち帰りー)
 オレは唯一激情を燃やすことができるロリっ子を求めて、土手を下った。そして、猛烈な勢いでロリっ子めがけて疾走した。邪魔な母親がいなければこっちのもんだ!
 目は張り裂けそうなほど見開き、風を感じる。日頃の運動不足で若干腹周りが気になり始めたメタボ体系とは思えないキレのある動きで手足を動かす。泉のように全身の穴という穴から汁がぶっしゃーっと噴き出る。
「おまんの身体はオレのもんじゃああああ!」
「ひぃぃー! こ、こわいよ。ダレカタスケテ」
 少女と一匹はこちらに気付き、恐怖で引きつった顔を向ける。その表情でオレはさらに興奮した。もちろん犬の方ではなく、ロリっ子の方に、である。オレは獣に欲情するほど落ちぶれちゃいない。
 それはともかく、いつもなら弟(丈太郎)が止めに入るが今はいない。つまり、チャンスだ。
 ここぞとばかりに己の欲望に従って、彼女の細い二の腕を掴みかかり、匂いをくんかくんかと嗅いだ。甘くて少し酸っぱい柑橘系のフルーティな香りだった。
 そして、そのまま肌をなめまわそうとした時、
「あぶない!」
 どこからかおっさんのひしゃげた声が聞こえたかと思えば、頭上に何かが激突し、脳が震えた。
「無念ー……」
 オレの意識は遠のき、ふらりと倒れた。
「ちょ、この人倒れちゃったけど、どうする?」
「しらね。それより、早くしないとランナーがホームにかえっちゃうよ!」
「それもそっか。あんたも強く生きろよ」
 それはムリぽ。
 オレの意識を繋ぐ糸はそこで途絶えた。

(『次男・和也パート』のようなもの)

「あ~、すっきりした。あれ、達也兄さんと丈太郎は?」
 トイレから戻ってくると、先程まで立っていた個所に兄弟の姿がない。
 頭上に疑問符を浮かべながら遊具と遊具の間や土管の中など探してみるが、見つからなかった。
 まさかの事態に、脳内に警鐘(けいしょう)が鳴った。
「ちょっと丈太郎! 達也兄さん! かくれんぼなんてしてないで、出てきてくれよ!」
 精一杯声を張り上げて見たが、返事はなかった。それどころか、
「ねー、ママ。あのおじさんも、土手で見たおじさんもなんで『かいしゃ』にいってないの?」
「しーっ! しおり見ちゃだめよ!」
 ボクを蔑む、とある親子が反応を示しただけだった。てか、ボクみたいな豚野郎が他にもいたことに驚きである。
(もしかしたら達也兄さんか丈太郎かもしれない。まったく、置き去りにするなんて……。一人じゃ何もできないボクは一体どうやって生きていけばいいのかわからないじゃないか!)
 親子を横切り、土手へ向けてのそのそと歩き出した。

 川。そして、整地されたグラウンドと草野球のおっさん達。紛れもなく土手だ。
「あれぇ? 兄弟(アホ共)がいないや……」
 と、そこへ一匹と一人のツインテール少女が横切った。
「こわいよママー! 変なおじさんが――……」
 小さい女の子は泣きながらどこかへ走り去ってしまった。
 どうでもいいが、ワンコが少女とは違う方向に逃げていく件。ほんと、どうでもいい。
 ※大事なことなので二回言いました。
 さて、少女が語った『変なおじさん』というキーワードと彼女が『幼女』であったことからボクは近くに豚(達也)野郎(兄さん)がいることを確信した。もしも『変なおじさん』だけであったのならば、志村○んの線も疑ったのだろうが、『幼女』が加わったことによって断定的となったのだ。
 奴は幼子の女の子を見ると豹変し、土佐弁のようなものとなって襲いかかる。と、いう変態性癖持ちだ。
 彼女が来た方向へ、のそのそと歩いていくと、大変太ましく、汗と油が混じった汁でベトベトになった汚らしい物体が仰向けで倒れこんでいた。
 達也兄さんだった。
 その頭には大きなタンコブ。きっと、天から鉄拳制裁されたものだろうと思われた。
 じーっと兄を見降ろしているとパッと目が見開いた。そして、目があってしまった。
「……おはよう。達也兄さん」
「和也か……。お前は甲子園準決勝前で車に跳ねられて、ほにゃらら総合病院で息を引き取ったんじゃ……?」
「しっかりしてよ達也兄さん! ここは土手。ボクは生きてるよ!」
「あぁー……南。……綺麗な顔してるだろ? これ、死んでるんだぜ……」
「兄さーん!」
 ボクは愛込めて、拳を振るった。むしろ、人を指差して『死んでいるんだぜ』と勝手に殺されたことに対してイラっとしたのだった。
「痛いよ。南……」
「兄さんしっかり!」
「南……」
「兄さん!」
「みな……」
「死ね! 豚野郎!」
「え? 今、死ねって……、しかも豚野郎って……」
「黙れ。死ね!」
 何度もうわごとのように「南……」とぼやく兄の顔面を、殴打し続けた。愛故に殴る。決して、憎くて殴っているわけじゃないのだ。
 ※大事なことなので(以下略)

 数分後。
「愛しているよ達也兄さん」
「あぁー弟よ。オレも愛している。うっかりお前を絞め殺してしまいそうなぐらいにな!」
「いたた、いででで。達也兄さんギブギブギブ!」
 正気に戻った兄さんとあついハグを交わしていた。
「――で、お前は一体どこいっていたんだよー?」
「それはボクのセリフだよ! トイレから戻ってきたら誰もいないし、新手のいぢめだよ! ウサギは寂しいと死ぬんだからね?」
「はぁー? お前はウサギじゃなくて豚野郎だろー?」
「……せやね」
「……」
「……」
 沈黙がボク等を襲った。
 と、ぐぅ~っと、ボクと達也兄さんのお腹が同時に鳴った。
「腹ごしらえでもするー?」
「……せやな」
 ぽっちゃり系デブ(達也兄さん)とまんまるデブ(ボク)は土手を後にし、近所のスーパーマーケット【豚(トン)豚(トン)】に向かった。

 二五台ほど停車できる駐車場に車が片手で数えられるほど並び、チャリ置き場にはママチャリがまばらに駐輪されていた。
 ガラス張りのオートドアを潜り抜けると野菜、肉、魚などの生鮮食品がずらりと陳列されており、そこかしこに「いらっしゃいブヒッ」と店員さんの掛け声(?)とポップで軽快なリズムのBGMが店の雰囲気を彩る。ここは先に述べたスーパー【豚豚】
 なぜトントンなのかは不明。噂では、店長が本物の豚なのだか、そうじゃないのだか……。現に壁際に貼られた店長から客当てに向けられたメッセージには『飛べない豚はただの豚だ』と意味不明すぎるメッセージが張り出されている。……ポルコが経営してんの、ここ。
 それはともかく、ここには食事しにきたのである。加工食品が陳列された列と列の間をすいすい抜け、お目当ての試食コーナーに辿りつく。
「おぉ! 達也兄さんやったよ!」
「弟よー。オレたちはついてるなー」
 ボクたちの視線の先にはお茶やお菓子。はたまた、惣菜肉といった食物が白くて小さい発泡スチロール小皿や紙コップに入れられ置かれていた。
 それらの試食品の数々はさながら、ホテルのコース料理のようにきらきらと輝かしいものに見えた。
「ねー、これ食べていいんだよねー? お金取らないんだよねー?」
 と、達也兄さんがよだれをベトベトに垂らしながらマネキンさんに聞いた。
「もちろん、全部タダ。じゃんじゃん食べて太ってくださいブヒッ」 
「「ブヒッ!(いただきます)」」
 店の了承を得てボク達は餌を目にした豚のように試食を食らいついた。カウンターに置かれた皿をかっさり、両隣の主婦が手を伸ばした小皿までも強奪し、咀嚼しながらドヤ顔を決める。
 達也兄さんも似たようなモノで『幼女が杏仁豆腐を口に入れるまで待ってから、彼女の初めて(意味深)と唾液と混じり合った『杏仁豆腐のようなもの』を全て奪い去る』という高等な強盗テクニックまで披露した。
 ……いっそ、このド変態(兄)を逮捕しちゃってください。まじ、世に出しちゃいけない人種だと思うので。
「……やれやれ、こんなイカれた豚の店で買い物とはな。ここの食材を口にしたら豚になっちまったりしないんだろうな?」
「おいおい、ここはお湯屋じゃあないんだぜ? 仮に魔法使いのクソババアがしゃしゃり出てきたとしても無駄無駄無駄」
 とても、聞き覚えがある声と妙に男前なボイスが背後からボクの胸に突き刺さった。
 思わず振り返ると、丈太郎。それと、金髪にセクシーな熱い胸板と分厚い唇のマッチョな体系の男がいた。
 急に胸が高鳴り、心臓の動悸が速くなる。顔中が熱い。おそらく、鏡で見れば、頬から耳まで熟れたトマトのように真っ赤に染まっていることだろう。
 この気持ちの高鳴りは一体何なんだ。そして、股下が特に熱く、脈を打つ。三〇年間抜かれることがなかった宝剣が「ヌけ」と囁く。はち切れんばかりに股間部が腫れあがる。
 これは一体何なんだ。あの金髪を見ていると、イケナイ感情が芽生えてくるのが自覚できる。
 ボクがホモに目覚めた瞬間だった。
「――……おいー、和也ー和也ー?」
「うるさい黙れ性犯罪者!」
 外野がうるさい。ボクの中で生まれた激情を止めるものは誰であろうと容赦はしない。
 あぁー……。あのセクシーな声で「愛しているぞ。和也」と、耳元で囁かれたい。それはとても甘美で至福の時であるに違いない。
「……オレは逃げるからなー。強く生きろよー」
 もちろんその時はお互い衣類の類は一切身に付けず、日が暮れ朝日が射すまで愛を語り合うのだ。グヘヘヘ。
 と、その時、
「おい、そこのお前だな! 貴様を児童ポルノ保護条例違反。並びに、精神的公然わいせつ罪の容疑で現行犯逮捕する!」
「ほえ? なんでボクが? てか、精神的公然わいせつ罪ってなに?」
 我に返ったボクの両腕には鉄の鎖で繋がれ、有無を言わせず真っ黒のポリスマンに連行されていく。
 店の外に待機されていた白と黒のパトカーに乗せられ、赤いランプが点灯する。うるさいサイレン音が街にこだまし、平日の午後の時間に溶けていった。

 ふと、窓の外からとても見慣れた人物(達也)がこちらを見てニヤニヤしているのが目に入った。なぜか大量の段ボールが詰め込まれた荷車を引いていた。
 アイツまじで許さねぇーわ! 他力本願なボクだけど、もはや誰も信じない。信じられない。人類全員敵だ。あと地球滅びろ。
 邪悪な想いと共に、人間不信に目覚めるのであった……。

(『三男・丈太郎パート』のようなもの)



「やれやれだぜ」
 俺は、TVニュースを見て呟いた。
 内容は街にあふれたホームレス共に関しての事だった。具体的には、夜中に奇声を発する変態ホームレスと全裸で川を泳いで「獲ったどおぉぉ!」と、奇声を発して近隣の住民が迷惑しているのだとか。
(濱口ま○るでもいるのか?)
 兎に角、市が全力でホームレス撲滅に力を注いでいるらしい。
 ……まったく下らないぜ。そういえば、この前スーパーに食材を調達した時に馬鹿(兄)達を見かけたが、まさかホームレスやってるんじゃあないだろうな。
「おいおい、丈太郎どうしたんだ?」
「……いやなに、兄者がホームレスの仲間入りしたんじゃあないかって思ってな」
 金髪のムキムキマッチョな男が生まればかりの格好でリビングに入って来た。
「ふんッ。こんな蛙のしょんべんよりも下種で貧弱な生き物のことなんて、どうでもいいじゃあないか」
 男は鼻を鳴らして、ふんぞり返った。この男は俺の古い友人で、名前は『スピードワゴン=子安』といい、イタリア系の欧米人と日本人のハーフらしい。
「俺も似たようなものになるところだったのだが……?」
「いやいやいや、丈太郎は俺様のマイハニー(フレンド)だろ? いくらでも家に居て貰ってもかまわんさ」
「……悪いな」
「いいってことよ。俺様はおせっかいやきのスピードワゴン子安だぜ?」
 子安は若干照れながらドヤ顔だった。
『URYYYY(ウリィィィ)』
 奇妙な音だが、誰かが訪問したことを告げるチャイムだ。
「俺が出よう」
「あぁ、よろしく頼む。俺様はこれからベットメイクしてくるぜ。この後、二人で熱い午後のひと時を過ごそうじゃあないか?」
 子安は頬を赤らめて照れたように部屋の奥に消えた。
 やれやれ。年がら年中、発情期の奴はこれだから困る。
 重い腰を持ち上げるようにマイクに近づいた。
『……誰だ』
『おー、丈太郎かー? 子安と一緒にいたのを思い出してさー。ちょっと入れてくれよー』
 スピーカーからは兄者(達也)のものだった。
『……誰だお前は。帰れ』
『えー、オレだよーオレー』
 俺はスピーカーとマイクをオフにした。そして、今のやり取りをなかったことにしたのだった。
「さて、俺もベットにいくとするか。早くしないと子安がうるさいからな」
『URYYYY』『URYYYY』『URYYYY』『URYYYY』『URYYYY』『URYYYY』
 うるさいぐらいにチャイムが連呼される。
『URYYYY』『URYYYY』『URYYYY』『URYYYY』『URYYYY』『URYYYY』
 …………
 ……
『……兄者さっきからなんなんだ?』
『やっと繋がったー。実は土手に家をこしらえたんだけどねー。茶色い服の奴等がやってきて、マイホームを吹き飛ばしていったんだー。だから、入れてー♪』
『いやいや、話が見えないんだが?』
 それから兄者の話を聞くこと数分。掻い摘むと、まるで狼の如く市の職員に段ボールの家を撤去させられて困っているらしい。
『……悪いな兄者。この家は二人乗りまでなんだ。諦めてくれ』
 そう言って、俺はスピーカーとマイクをぶん殴って破壊し、チャイムが鳴らないようにした。
「やれやれだぜ」
「……どうした丈太郎? なんでチャイムが壊されているんだ?」
「……新手の超能力者が襲来してきて、備品が壊されてしまったが、たった今撃退したところだ。問題ない」
 かくしてスピードワゴン子安家に訪れた『狼のようなモノ(兄者)』は去った。
 後日、郵便ポストに血文字で『果たし状』と書かれた物体が入っていたが、俺は封を開けることなく焼却口に滅却するのだった。

(『エピローグ』のようなもの)


 俺は上杉丈太郎。三一歳の日本男子で、彼氏のような男の家に同棲中の身だ。職業は自宅警備員をしている。
 そんな俺の周りで最近奇妙な出来事が立て続けであったので話しておこう。

 最初は、自宅周りの周辺警備をしている最中の出来事だった。
「ねー、ママ。あのおじさん、フクきてないし、クビにわっかつけられて、ワンちゃんみたいなかっこうしているよ? なんで?」
「しーっ! しおり見ちゃだめよ!」
 ちっちゃな女の子とその母親がある生き物について語っているのを小耳にはさみ、振り返ったんだ。
 すると、そこには『豚のような腹周りの体型のおっさんが全裸で幼女に調教されていた』んだ。
 男に衣服の類いはなく、ただただ不気味なほど真っ赤な首輪だけを身に付けられ、……いや、訂正しよう。正確にはケツにもロウソクが突っ込まれていたんだ。
 兎に角。ツインテールの小さい女の子の手に持ったリードには犬ではなく、犬のようなオッサンが連れられていたんだ。しかも、その変態オヤジ、常に欲情してやがるんだぜ? ここまで気持ち悪い生き物は見たことがないぜ。
 首輪のネームプレートには【どえむのたつやちゃん】と書かれていた。どうやらこの生き物の名前らしい。
 やれやれ、なんにしても二度と関わりたくないぜ。

 もう一つは、今さっき、自宅の郵便受けに届いていた真っ黒のコウモリを模したような封筒のことだ。住所は未記入。差出人は不明。消印もなければ、切手も貼ってない。まずどうやって、これが家に届いたのかが謎だ。そして、宛名は『スピードワゴン=丈太郎』
 待て。まだ婚姻届は提出していないから俺の姓は『上杉』だ。誰だか知らないが、勘違いしているようだぜ。
 さて、その手紙の中身についてだが……、一読して理解できたのは『獄中の魔王と名乗る人物からの招待状』ってことぐらいだ。他は『魔の眷族の君 深淵の破邪を穿ち、紅稲妻の使い手。堕天の導きにて、転生せし……――』等と、なにを言っているのか意味不明かつ無意味な単語だけが並んでいるだけで、俺には到底理解できない書物だぜ。
 しかし、今一度読んでみると、どうやら獄中の魔王(笑)さんは俺と面識があるらしい。しかも、その男。獄中で何度も暴れまわり、看守すら手中に収め、主となったとか書いてやがる。
 ……やれやれ、どんなに威張ったところでコイツはただの犯罪者だろ? 城を手に入れて満足している奴に世界をどうこうできるわけもないぜ。
 俺は『魔王からの招待状のようなもの』をその場で燃やし、何も見なかったことにした。
『拝啓 兄者よ。鉄壁の家を手に居れなかったお前等はクズで負け組。ニートこそ至高なんだぜ?』

 窓の外から小さい女の子の黄色い笑い声と犬のような変態おじさんの野太く汚らわしい呻き声がシンフォニーを奏でる。
 豚の絵柄がプリントされたビニールの買い物袋をぶら下げた親子がその隣を通り過ぎていく。
 一羽のカラスがこの街を抜け、太陽のある東の大空へ向けて飛び去っていった。

→TO BE THE End

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