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山にもらったこと 「身の程を知ることは、すごく痛い!」 〜米子沢編〜

今ならわかります。
「沢登り」は濡れた岩を登ること、つまり通常の登山より高い身体能力と、クライミングの技術が必要だということ。
今ならわかります。
米子沢(こめこざわ)は沢初体験者が登れるような所ではない、ということ。

「大丈夫だよ、米子沢なら俺、その辺歩いてるおばさんでも上げられる」
秘境系のガイドを得意とするその人が言った言葉に、すっかり安易な気持ちになってしまったおばさん1。ガイドのせいじゃない、何の知識もないのに軽い気持ちで乗ってしまった自分が悪い。

今ならわかります。
「上げられる」は文字通り、引っ張り上げられるんだと言うこと・・!

浅はかな初の沢登りを経験したのは、2020年10月のこと。
新潟県は巻機山のバリエーションルート、米子沢。参加者は私ともう一人同年代の男性(沢経験者)の二人。
前日は登山口近くの民宿に泊まって、大広間にロープを張ってカラビナをかけて取っての練習を繰り返し・・その時点でさえ私はまだ、膝くらいまでの水の中をパシャパシャ散歩するくらいにしか思っていなかった・・(だってそう言われてたから。いやガイドのせいじゃないっ。ほんと自分がダサい)

翌早朝。登山口に掲げられた看板は、肝心な赤文字箇所が薄くなっていて、
かえって不穏な匂い。それでも、まだ不安感もなく・・・

「わー思ってたよりおおきな沢、けどこれくらいなら楽しそう!」なんて能天気すぎる。巻機山の標高は1967m、ずっとこんな傾斜のわけがないのに。

程なくして様相を変えだす米子沢。
けどこの辺まではまだ良かった。

ものの30分しないうちに、私は自分の愚かさにおののき始める・・。流水脇の岩を登っていくのだけれど、底面がフエルトの沢靴に慣れなくて、滑りそうで怖くて足に力が入らない・・


ほぼ垂直の岩壁には、ガイドがハーケンを打ち込んでロープを固定するフックを作る。さあ来て、と言われても、どうやって進んでいけばいいのかわからない、どんなに必死によじ登ろうとしても、上がることができない。そんな私をガイドがロープで引っぱり上げる。もちろん全力で登ってはいる、けど50%はガイドの力。岩で手足を打ちながら、私は引き上げられていく。

途中、ナメ滝では滑って転び、数メートル流されてしまう。(スマホ水没)

やがて、どうにもこうにも私には無理な滝にでくわし、ガイドが「高巻きしよう」と言う。高巻き・・聞いたことはある言葉だけれど・・
今ならわかります。直登できない滝が出てきたときに、左右の山肌斜面を上がって行く高難度な登山技術。当時の私には全く届かない力(今でも多分無理)。60度はあろうかに見える藪斜面を、ガイドは忍者のように上がり、ロープを垂らす。目の前のロープと笹にしがみつき、ずるずると何度も滑り落ちそうになりながら、死に物狂いで上がって行く。「ここで少し休憩」と言われた場所は、急斜面で立っているのがやっとで・・。

その日は幸いにも晴天で風もなく、紅葉も美しく。笹藪の隙間から、彩られた向かいの山肌を見ながら「どうしてこんな所で、紅葉を見なければならないの」と泣きそうになってしまう。一体私は、ここから脱出できるんだろうか??

しかもどうやら、高巻きは上手くいかったようで、そこらを周回し始める。これがまた恐ろしい。もう本当に蒼白になりながら、ただただついて行くしかない。ようやく元の沢沿いの岩道に降り立った時、ガイドが偶然会ったらしい知り合いに「やー、安易に高巻きしたら降りれなくなっちゃたよー」などと雑談している。安易に?!安易に、こんな恐ろしい目に私は遭わされたのか?!身の程を知らずに、そして依りによってこのガイドについてきた自分に、絶望的な気持ちになる。

それでも、終盤は訪れた。
あと少しで一般登山道との分岐(ここで沢登りは終わり)、という地点で沢は急激に緩やかになり、「ここからは自由に歩いていいよ」と言われてザイルが外される。釈放。まさにそんな気持ち。けれど歩みは恐る恐る・・

下山は、ニセ巻機山(巻機山9合目あたり)から、一般登山道を。
沢靴から普通の登山靴に履き替えて、歩く。登山道が心地よい。一歩一歩が嬉しい。山道を踏みしめながら思う。私はただ山が好きなだけの、レジャーハイカー。怖い思いなんてしたくない。けど、どんな山にも様々なリスクがある。そのことをちゃんと知って、身の丈にあった行動を心がけながらも、体力磨き・技術磨きも目指していかなくちゃならないんだ。ずっと登山を続けたいから。ずっと登山を続けるために・・!

よく打ち身くらいの怪我で帰ってこれたもんだと、あらためて思い入っていた数日後、件のガイドから連絡がある。
「星穴岳に行かない? ほら、この間は怖い思いさせちゃったから(笑)
ガイドは楽しませるのが仕事なのにさ。星穴なら、俺、誰でも降ろせるから!」

降ろせる? 誰でも上げられる、の次は、降ろせる??
星穴岳をググってみると、こんな写真が出てきて・・・

空中懸垂下降の名所・・、冗談じゃないっ・・!!
身の程を、もう痛いくらい知っている私は、もちろん、丁重にお断りいたしました。^^;

@2020/10/10-11







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