俳句編7 夏の季語 黒南風(くろはえ) 慶應義塾中等部対策講座
梅雨時の南風は湿った風です。曇天の黒雲から吹くのでしょう。これを「黒南風(くろはえ)」と言い、夏の季語となっています。梅雨の闇を黒南風が吹きすさぶ情緒です。
海から吹く南風なのでしょうか、次のような句があります。
黒南風の辻いづくにも魚匂い 能村登四郎
黒南風の浪累々と盛り上がる 河野真
南風(みなみかぜ)は南風(はえ)とも読み、どちらも夏の季語です。地域によって呼び方が異なり、特に西日本では「はえ」「まぜ」「まじ」といった呼称があると言われています。
(俳句歳時記 夏 角川ソフィア文庫)
梅雨が明けると、この黒南風(くろはえ)は白南風(しろはえ)となります。梅雨の晴れ間の南風も白南風です。
白南風や砂丘へもどす靴の砂 中尾杏子
と言った句があります。
南風(みなみかぜ)は時に強く吹くと「大南風(おおみなみ)」となります。荒れてくると、「荒南風(あらなみ)」です。
日もすがら 日輪くらし 大南風(おおみなみ) 高浜虚子
荒南風や 揺るがぬ青き 島一つ 野澤節子
やはり、南風(はえ)や黒南風(くろはえ)は、海辺の風景なのかもしれません。船に乗った漁師さんの生活用語なのかもしれません。
次のような句があります。
南風に乗り 沖からの 浪頭 鈴木六林男
雨肩に 海南風(かいなんぷう)の 翼負う 山口誓子
日本はモンスーン気候の国であり、季節風が四季の変化に大きな影響与えています。和辻哲郎は『風土』の中で風土が人間の「自己了解の仕方」への影響を考え、東アジア沿岸部はモンスーン型の類型に属するとしています。
人は、「桜を散らす風に無常を感じる」文化の下で「無常を感じ」客観的な自己を了解するとしています。
雨という言葉を使わなくても、「黒南風(くろはえ)」という言葉を使えば、梅雨時の雨が降ったりやんだりする、はっきりしない黒雲と湿った風を思い起こすのが日本人の感性でしょう。雨と言わなくても雨を想起させるのが俳句の妙味と言うものでしょう。
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