2LDK part2 【短編小説】
part1を読んでからお読みください
4.呪い
「お前ら付き合ってんの?」
同じ学科の友達に言われた。一緒に授業に行って一緒に帰る。Twitterの内容も夜ご飯も一緒だ。そう思われるに違わない。事前に奈々さんとそう言われた時の対応を考えていた。
「私、大学の女の子と絶対付き合うって決めてるから。だから、邪魔しないでね。絶対に私たちが同棲してることは言わないで。」
同棲して1日目の夜にそう言われた。
もやもやが溜まっていく。僕のことがそういった目で見られないのだとしても、僕がこの人の大切な存在でいられれば。そう思うように何度も心に言い聞かせた。これ以上欲を出してはダメだ。この人には幸せになって欲しいと。
「え、別に付き合ってないよ?仲良くなっただけだし。」
だからそう答えるしかなかった。同棲していることも隠して。そう話していたら、教室の後ろから女子たちが話しているのを聞いた。
「あの子、イケメンじゃない?塩顔的な?」
「え〜、私はソース顔派かな」
「奈々はどう思う?」
言葉に詰まっている奈々さん。
「えー、、、と、、、。私がかっこいいからさ、私以上にかっこいい人なんて居ないでしょ笑」
冗談ぽく震えた声でそう言っていた。心が痛くなる。
「確かに奈々はかっこいいからね〜。奈々が男だったら惚れてた〜笑」
「私も奈々が男の子だったら付き合いたい!」
「はは、、、なにそれ、、、笑」
完全に涙を堪えている顔をしていた。
奈々さんに僕はなにか出来ないか、でも今奈々さんと一緒に逃げ出したら変に疑われてしまうだろう。葛藤しながらも、その場に留まることしか出来なかった。
その夜、家で奈々さんは泣いていた。
「もう聞き飽きたんだけどね、奈々が男だったら付き合ってたって。いつもそう言われるから我慢できてたんだけどね。躁鬱になってからは、自分を否定されたような気がして急に死にたくなっちゃうの。私がちゃんと男の子で生まれてきてたらっておもう。でも性格は女の子なんだもん。男の子になんかなれない。中途半端に生まれてきちゃった。こんなの呪いだよ。性別を2つで区切ってしまう世界なんか、私は生きたくない。」
そういいながらウィスキーをロックで5杯も飲んでいた。
「奈々さんは奈々さんでいいんですよ、きっと理解してくれる人が現れます。」そう答えるしかなかった。いや、そう言ってあげる自分に酔っていたのかもしれない。彼女の髪をそっと触れた。自分には到底分からないことだ。男として生まれ、体つきも男で性格も男、好きな物も男の子ぽいものを好きになって女性を好きになっていくことに抵抗を抱かなかった自分だ。奈々さんに寄り添うこと、理解することにはもっと自分の考えを変えていかないと行けないのかもしれない。そう思った。ベロベロに酔った奈々さんは色気が増していった。酔っ払いの声でこう言ってきた。
「私、本当は小さい頃は男の子が好きだったの。でも今は女の子が好きだからレズビアンって言ってるんだけど、本当はバイセクシュアルかもしれないね。今は女の子を求めてるだけで。」
そう言って奈々さんは自分の唇を僕の唇にあてた。
「これは私の愚痴を聞いてくれたお礼ね、私明日になったら忘れてると思うけど。おやすみ。」
そう言って奈々さんは自分の部屋に戻って行った。今鏡を見たら顔面が真っ赤になってるだろうか。心臓の音が早いほどドクドクしている。今は女の子を求めてるだけってことは僕に振り向いてくれる日があるのだろうか。そう思う自分に少し嫌だちを覚えた。これは呪いのキスだ。期待しては行けない。
5.堕落
入学してから半年後、奈々さんは大学から近いスナックではたらくことにした。オンナとして見られるけどいいのか?という僕の問に、
「私心は女の子だから。それでいいの。恋愛対象とやってみたいバイトとは違うでしょ!」
そう答えた。レズビアンとは今まで、気持ちも男の子であって、女の子に好かれたい人なのかと思っていた。それはトランスジェンダーにしか過ぎない。奈々さんはか弱くて、自分の恋に必死な女の子なのだ。自分の理解の無い発言が恥ずかしくなった。シストランスジェンダーの僕は性別とは何かについて考える必要がある。そう思った。
それから週3日は20:00〜25:00まで奈々さんは帰ってこなかった。僕も奈々さんのシフトに合わせて居酒屋のシフトを組んだ。なるべく2人が一緒に居られるように。奈々さんが鬱になって発作を起こしたりオーバードーズをしたりしないように。奈々さんの家事は僕が全部やった。しかし負担だとは思わなかった。奈々さんがそれで楽に生きていけるならそれでいい。奈々さんは、お客さんから可愛がられたりお気に入りに思われているのが嬉しかったらしい。中性的な顔立ちでかわいい服を来ている奈々さんがとても魅力的だった。しかし、それから奈々さんはおかしくなって行った。お客さんと連絡先を交換して、お客さんの家に行ったりしていた。帰ってこない夜が多くなった。それから色々なブランド品を身につけるようになった。声がかけられなかった。2人の家が、僕と奈々さんの休憩場所になってるような感じだった。勿論奈々さんは薬を持ち歩いていない。病気を治す気が無くなったのかと問い詰める訳では無いが、奈々さんは酒と性欲と金に溺れて行ったのだ。それから奈々さんは突如帰らなくなった。姿を消したのだ。
続きます
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