見出し画像

命の循環



- ̗̀⚠︎ ̖́-この物語はフィクションです。

大学から一人暮らしを始め、大学2年生になった。サークルには入ってるけど新歓とかあまり興味がないからサボっていた。と言うより、ほぼサークルはサボってた。まあ、鬱病で大学に行けてなかっただけだけど。10月頃久しぶりにサークルに顔を出すと知らない人だらけだった。サークル後ご飯を作るのが面倒臭いから、知らない人たちとご飯を食べた。あまり興味がなかった記憶がある。私が全員分払って後からみんなから徴収した。その時にお金を持ち合わせていなかったのが彼である。彼は1年生だけれど、私と同い年だった。

「桜さん、いますか?」彼はお金を返しに私の家に会いに来た。その時は鬱がとても酷く、電子レンジのボタンも押せなかった。もちろんご飯も食べれてない。その時、彼は「何か買ってきましょうか?」と言ってスポーツドリンクと小さなおにぎり弁当のようなものを買ってきてくれた。それから、睡眠剤が効いて眠れるまでそばにいてくれた。朝、起きたら彼はいなかった。彼から置き手紙があった。
「何かあったら連絡してください」
これが彼と私の関係の始まりである。

彼には同居人がいたから、彼の家に行くことはなかった。鬱でしんどい時は彼に電話をかけたりした。ほぼ電話には出なかったけれど。彼がいるというだけで少しずつ生きるのが苦じゃなくなる気がした。私はリストカットはもちろん、オーバードーズを繰り返していた。それも少しずつ減ってきた。時には身体を重ね合った。それか幸せで、生きていこうと思えた。そんな時だ。

「桜さん、同居人と別れました。この人の為に生きていたのに。これからどうしたらいいでしょうか。生きる価値がなくなりました。」
泣きながら彼から連絡が来た。同居人が女だということ、付き合っていたこと、全て初めて知った瞬間だった。
「大丈夫、落ち着いて。いつかその経験が君の力になる日が来るから。生きて。」
それを言いながら私は過呼吸を抑えてた。彼の電話を切った時私は確信した。私たちは友達でも恋人でもない関係だったのだと。それからも私は彼と身体を交わし続けた。その瞬間だけは幸せだから、そう自分に言い続けて。これはただの片思いだ。でも私を求めてくれるのが嬉しくて毎回応えてしまった。そんな時だ。

やってしまった。流れで。中に流れた彼の分身は、まるで私を縛り付けるようだった。今日は金曜日。夜にやってる病院なんかない。土日にやってる産婦人科なんか知らなかった。調べても出てこない。そして厄介なことに月曜日は祝日だった。結局病院でアフターピルを貰ったのは火曜日、72時間を超えた日だった。2週間生理が来なければ妊娠の可能性がある、そう告げられた。病院に行ったことをLINEで告げたら
「お疲れ様です。大変申し訳ございません。」
とだけ彼から帰ってきた。他に言うことがあるのではないか。私の身体は心配してくれないのか。そう思ってイライラしたかこの気持ちの行き場をどこにすればいいか分からず、泣いてしまった。

それからの2週間は地獄の日々だった。生理が来るか来ないか不安で眠れず、考えすぎて鼻血を出す事もあった。気持ちが悪く、何度も吐いた。早く生理が来てくれと思うこの苛立ちや苦しさは男性には伝わらないだろう。辛い。ひとりぼっち。いや、お腹に赤ちゃんがいるかもしれない。苦しい。助けて。誰か。彼からの連絡はない。Twitterを覗いたら、彼は元同居人のことで病んでいた。なんで私じゃないの?何度も泣いた。

最初は煙草の匂いが無理になった。次に風呂の匂いも無理になって食べれないものも増えて行った。その時に確信した。検査薬を買って、やっぱりと思った。地方に住んでる家族に連絡をすることが怖く、1人でどうしたらいいか悩んだ。しかし私は鬱病だ。薬を何種類も飲んでいる。そんな私が出産なんかしたら、、、。鬱病の薬を処方されたときにも、妊娠したい時には言ってね。薬飲んだままだといけないから。と念押されていた。中絶するしかない。そう思った。

 親に、周囲に、バレないように中絶するにはどうしたら良いだろうか。彼と、私と、半分ずつ手術代を貯金と奨学金から出し合った。妊娠11週での初期中絶だった。麻酔が効いていて、中絶中の記憶はあまりない。妊娠12週以内だから死亡届は出さなくて良いとの事だった。私の赤ちゃんは、火葬もされないままこの世から消えていった。

中絶してからというもの、出血と痛みが酷かった。手術後の残った内膜や溜まった出血が、中絶手術後の子宮収縮により排出されることにより起こるらしい。生理も重なり、1ヶ月出血が続いた。辛くて辛くて毎日彼に電話した。しかし、彼はほとんど出なかった。たまに出た時に話すのが唯一の幸せだった。周りの友達には「ただ逃げてるだけじゃん。」「リスクを桜に押しかけてるだけだよ」と言われるが、そんなことは思えなかった。彼は私を愛してはいなくても、元彼女さんが好きだとしても、ちゃんと私のことを見てくれる、とそう信じてやまなかった。

それから数日、スっと急に元気になった。その時母から電話があった。祖母がなくなったとの事だった。血の気が引けるような感じがした。長崎へ向かって私は東京から旅立った。


「あなたが私を殺した。」
「あなたが私をゴミにした。」
産まれるはずだった命が火葬されずにゴミとなって死んでいった。
あなたのせいで、あなたのせいで、あなたのせいで。誰かが私に囁く。
「お母さん、私だよ。名前もつけられずごみとして処理された私。産まれて来たかった。生きたかった生きたかった生きたかった。なのに生かしてもくれなかった。お母さんのせいで。」
「それは.....」
「お母さん、いやあなたのせいで私は命を循環出来なかったよ。産まれてくるはずだったのに。」
赤ちゃんが私を指さして鋭い目付きで睨んでいる。その赤ちゃんは私に似てて、そしてものすごく祖母に似ていた。

ふと、目を覚ました。飛行機の中で寝ていたらしい。自分で自分を責めたかった。だけどそれすら怖くて私は自分を肯定していた。その間違いに気付いた。私は人殺しだ。しかも、自分の赤ちゃんを。

空港に着き、父と母に会った。その時には勇気を振り絞れなかった。葬式が始まり、祖母に「ごめんなさい」と何故か謝った。

「次の命は私の妹ね」

祖母の声がそう聞こえたきがした。

「大丈夫よ、あなたは自慢の孫だから、ゆっくり生きなさい。」
と。
産まれそうな命があって、消した命があって、消えた命がそこにある。
それから、父と母に中絶の話をした。母は泣きながら、よく1人で頑張ったね、これからは相談してね、と優しい言葉をかけてくれた。父は何も言わなかった。


ああ、私はとんでもない罪を背負ったな。一生償って生きていくだろう。どこかにいる私の赤ちゃんへ、ごめんなさい。私は最低な人間です。それでも、願うことかできるなら、貴方を産みたかった。愛したかった。ごめんね、ダメなお母さんで。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?