見出し画像

その20 エンゲージメント

 その19でジョブ・クラフティングのお話をしましたので今回は関係性の深いエンゲージメントについて書きます。構造的には、エンゲージメントの要素の一つがジョブ・クラフティングとなります。
 まずは言葉なのですが、そもそも「キャリア」の主たる理論が西欧から発信されている事もあって英語圏の文化背景で語られることが多くあります。エンゲージメントも例外ではなく著者編者はカナダ、オランダの研究者です。ビジネスパーソンであれば契約書面で馴染みの語句でも、キャリア理論となるとお手上げかと思います。
 キャリア理論でのエンゲージメントは、どれだけ仕事に没頭しているか、没頭出来るかという少なくとも二つ面から語られます。

組織は選ばれる立場でもある
 私は人事ではないのですが、しばらく事業部門内で中途採用も担当していました。その時に考えていたのはこの組織が応募者にとってどのように映るかでした。以前お話した通り、応募者の皆さんは、勤務地や勤務条件、報酬、社会保障制度などを選択の基準にされています。カジュアル面談や面接試験の中で、「自分自身が成長できる仕組みはありますか」と質問されることが何度かありました。応募者の皆さんの関心は、外的キャリア(または外的報酬)である「地位」や「報酬」もさることながら、「自己成長」という内的キャリア(または内的報酬)にもあるのです。

 大企業(有価証券を発行している企業のうち約4千社が対象)では2023年3月以降から、市場における開示義務が生じる人的資本経営の指標には、人材育成(研修時間、費用、研修参加率など)というものが含まれています。市場からのメッセージは「組織の成長には人の成長が不可欠なので人に対する投資を行って継続的な事業運営を行っていますか」となります。
また、「青少年の雇用の促進等に関する法律」では、離職者数、男女比、平均勤続年数の情報を開示する義務があります。

 選んでいると思っていたら、組織は市場からも求職者からも選ばれる立場でもあったということです。

エンゲージメントが人的資本経営の指標となるわけ
 人的資本経営の指標には「エンゲージメント」というものがあり、代表的なものとしては「エンゲージメント・サーベイ」という従業員の意識調査が行われます。

 組織の中で個々人が仕事や組織のありように満足しているか、その源泉となる帰属意識や貢献実感の程度などを質問事項としています。
 つまり、組織と個人の関係性(結びつきではなく関係性です。)の中で働く私たちが組織をどのように捉え、それが個々人の価値観に適合しているかを計測しているということです。

 たとえ話をします。(あまり上手ではないですが、ご容赦ください。)
“AIの技術が大好きな私は、そのお勉強であれば何の苦もなく誰から指示されるわけでもなく没頭していきます。一方でお客様の課題解決をしてお客様に感謝されるのも好きなので、課題解決のためにAI技術を駆使します。その結果その革新的な視点は多くの事例の先駆的なリファレンスとなって、多くのお客様に取り入れてもらえるようになります。当然のことながらお客様も会社の売上も増えます。”

このたとえ話の中で「私」は“好きなこと“をやっても許してくれる環境がありがたいと感謝しますし、その成果が会社の望むものと一致していることで組織から認められ貢献していることを実感できます。
このような働く私たちの意識が、経営に深く関連していると考えているのが、人的資本経営においてエンゲージメントを指標の一つとしている理由です。

蛇足ですが、人事評価の制度が必要な理由は、組織として個々人の思いを受け止めて、その良し悪しを伝える必要があるからです。賞与や給料が決まるのは、その結果でしかありません。
 
ジョブ・エンゲージメント
  これからが今回の本題になります。
 ジョブ・エンゲージメントとは、仕事に対する没頭している状態をいいます。自分が主体となって仕事に取り組む、その仕事が自身の興味や関心の対象となっているという状態で仕事にのめりこんでいる、没頭している状態のことを言います。先ほどのたとえ話で「私」は好きな技術とお客様からの「感謝」という内的報酬を得て仕事をしていました。ご参考ですが、外的報酬(または外的キャリア)とは職位や給料など目に見えるもの、これまでの世間一般で評価基準になっていたものです。しかし、その価値観は徐々に変容しており、内的報酬(または内的キャリア)を大切にするという価値観も一般的になっています。
 その19でお話したジョブ・クラフティングは、やらされている仕事でも考え方、視点、方法、関係性を変えることで有意義なものにしていこうということでした。
 つまり、ジョブ・エンゲージメントを高める手段の一つとしてあるのが、ジョブ・クラフティングということになります。「ジョブ」が大量に発生しており大変申し訳ありません。言葉の定義なので許してください。

エンプロイー・エンゲージメント
 冒頭に「少なくとも二つの面」と申し上げたのは、このことです。ジョブ・エンゲージメントが個人の仕事(職務・業務)への没頭であるのに対して、エンプロイー・エンゲージメントは組織への没頭となります。
人によりますが、有名な大企業で働くことがモチベーションになる人もいらっしゃいます。これもある意味でのエンプロイー・エンゲージメントと言えなくはありません。どちらかというと、働く仲間や上司、個人が活用できる資源や企業風土を意味します。 職場内での風通しの良さや話を聴いてくれる上司存在は、その職場に居ること所属することの安寧の要素になっているのではないでしょうか。こういったものはその環境が失われたときにはじめて気づくこともあるので、ある意味空気のようなものかもしれません。また、「私はバリキャリの職場が好き」とか「協働して成長できる職場がいい」といった人もいらっしゃるので、人によって千差万別ですね。
要はご自身が力を発揮できる職場があるとエンゲージメントが高まっていくということになります。 

そしてエンゲージメント
これまで見てきた通り、エンゲージメントの主人公はそこで働く人です。組織ではありません。働いている人がどのように感じているかが重要です。組織はエンゲージメントを高めるための努力をしなければなりません。
代表的な言葉でいうと「働きやすい職場」これを腑分けしていくと、働く場所であったり時間であったり、上司や仲間との関係といったもう少し具体的な内容が出てくると思います。また、「職務・職責」を腑分けしていくと皆さんご自身の興味、関心、価値観といった言葉につながっていきます。
 
いかがでしたでしょうか。今回も少々長めのお話になってしまいました。ここのところよくわからない、もっと知りたいといったことがありましたら、ぜひお声がけください。

参考文献:川上真史、種市康太郎、齋藤亮三共著 2021年 人事のためのジョブ・クラフティング入門 株式会社弘文堂


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?