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2月9日志位発言の問題点など

読んだ直後に離党届を提出

 2023年2月9日に、日本共産党(以下共産党と表記)の志位和夫委員長が記者会見を行いました(志位氏の会見全文)。内容は、「シン・日本共産党宣言」を出版したことなどを「党攻撃」として除名した松竹伸幸氏に関することと、その除名を批判した朝日新聞社説に対する反論でした。
 読み終わったあと、愕然としました。
 自分は、3ヶ月半前である2022年10月末に6年10ヶ月続けた日本共産党勤務員を辞職しました。その間に経験したいろいろなことから、親しい党員に離党も相談したものでした。しかしながら、その党員から受けた説得に納得したこともあり、引き続き党員として活動しつづけるつもりでした。
 それもあって、1月には6月までの党費を前納しました。
 しかしその後発生した、千葉県書記長除名問題、さらにはこの松竹伸幸氏除名問題、さらにはその間に発表された党中央の文書を読んだ結果などで、かなり心は揺らいでいました。
 それでも、何とか4月の統一地方選は、党員として、お世話になった千葉市議・候補の方々への勝利のために、できる範囲内で頑張りたいと踏みとどまっていました。
 しかし、職場に行く電車の中で、この記事を読んだときは、もう無理だと覚悟しました。
 そして、帰宅後に再度読み直し、その直後に、所属していた共産党千葉県中部地区委員会に離党届をメールしました。

朝日新聞に批判の権利はない?

全体的に賛同できない発言でしたが、特に驚いたのは以下の部分でした。

 私たちは、いまのやり方が、一番民主的で合理的だと思っております。そういう問題について、「朝日」社説に指図されるいわれはないんです。また、そういう指図をする権利もないんです。

 もちろん「朝日」社説が自由な言論活動をやることを、私たちは否定するものではありません。言論の自由は断固として擁護します。ですから私たちは言論で応じています。

しんぶん赤旗2023年2月10日付

 要は「党首の選定方法について批判する権利を朝日新聞は持っていない」と言っているわけです。
 直後に「朝日新聞の言論の自由は擁護します」と言っていますが、前段がある以上、これでは「志位氏が権利があると認めた範囲内で、朝日新聞の言論の自由を擁護します」という事になってしまいます。
 もちろん、そのような権利を認めたり制限する権限は志位氏にはありません。
 それどころか、志位氏は憲法擁護義務を持つ国会議員です。
 憲法21条には「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。」とあります。
 したがって、共産党の内部ルールを批判するという朝日新聞の言論・出版の自由に対して、反論するのはともかく、「指図する権利はない」と言うのは憲法99条「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」に反しているのではないでしょうか。
 他の部分はともかく、この「『朝日』社説に指図されるいわれはないんです。また、そういう指図をする権利もないんです。」という発言に関しては志位氏は撤回をすべきだと思いました。
 なお、加えて言えば、冒頭の「今のやりかた(党指導部選出方法)が一番民主的で合理的」という発言にもかなり驚きました。それについては、また後日書きます。

党員の基本的人権について

 また、志位氏は、

彼(松竹氏)は、「言論の自由」「出版の自由」といいますけれども、この最高裁判示にあるように、自分の自由な意思で党に参加した以上、「自己の権利や自由に一定の制約を受けることがあることもまた当然」なのです。

しんぶん赤旗2023年2月10日付

と、かつて共産党を除名された袴田里見氏が党を訴えた裁判における最高裁判決を引用して「権利や自由に一定の制約を受けることがある」ことを当然だと言っています。
 確かに、党規約には「党の決定に反する意見を、勝手に発表することはしない」とあり、自分も党員だったときは、それを遵守することを意識していました。
 しかし、あくまでも「一定の制約」です。今回の除名処分やそのやり方は、その「制約」が「一定」の範囲を超えていると認識しているから、マスコミも、これまで共産党に好意的な立場だった人々も、さらには一部の共産党地方議員も批判しているわけです。(参考・東京新聞2月8日付け
 実際、これを読んだときは「そうか、約10年前に入党して以来、自分の基本的人権は制約されていたのか…」と驚いたものでした。
 そこで、離党届を出して、自らの人権を回復したというわけです。
 同時に、10年ちょっと前に入党を勧められた時のことを思い出しました。
 もしその時に渡されたパンフレットに「入党したあとは、権利や自由に一定の制約を受けます。最高裁もそれを認めています」と書いてあったら、自分は絶対に入党しなかっただろうな、とも思いました。

論理的に破綻している共産党政治部長の文書

 なお、この会見での主張の前提として、前日である2023年2月9日の赤旗に掲載された、共産党の中祖政治部長による「『結社の自由』に対する乱暴な攻撃――『朝日』社説に答える」(全文)がありました。
 この文書がまた、驚くべきものでした。
 前段の要旨は除名処分の正当性を訴えるこれまでの主張をなぞったものでした。
 そこまでは、内容には一切賛同しませんが、まだ普通の主張でした。しかし、後段を読んだときはこれまた愕然としました。

 日本国憲法と民主主義に対する乱暴な攻撃
 強い憂慮とともに指摘しなければならないのは、「大手新聞」をなのる全国紙が、その社説で、公党に対してこのような攻撃を行うということは、日本国憲法第21条が保障した「結社の自由」に対する乱暴な侵害であり、攻撃であるということです。

しんぶん赤旗2023年2月9日付

 見出しは「日本国憲法と民主主義に対する乱暴な攻撃」となっています。続いて、「社説で、公党に対してこのような攻撃を行うということは、日本国憲法第21条が保障した「結社の自由」に対する乱暴な侵害であり、攻撃」と書いています。
 「政党の内部ルールとその運用方法を攻撃(実際には批判)=結社の自由への攻撃=日本国憲法と民主主義への攻撃」と主張しているわけです。 ここまで論理的に破綻している文書はなかなか見ることができません。
 これが成り立つなら、自分が持っている「自民党や維新は重大な問題を起こした議員を離党で済ませたが、除名すべきだ」という主張も「れいわ新選組は『議員ローテーション制度』を実施すべきでない」という主張も、「日本国憲法と民主主義への乱暴な攻撃」になってしまいます。
 繰り返しになりますが「政党が内部ルールを行使したことへの批判」=「結社の自由への攻撃」などという論理は成り立ちません。この二つは全く別のものです。

そもそも憲法を理解しているのか

 後段部分を読んで思ったのは、憲法によって保証されている「結社の自由」を守る義務があるのは誰なのかを、これを書いた人は理解しているのだろうか、でした。
 確かに、共産党が除名処分を行うことを裁判によって撤回させる事は結社の自由に反する、という判例はでています。
 しかし、これは、あくまでも、国が共産党に除名処分の撤回を命令・強制はできない、という話です。
 基本中の基本ですが、憲法によってその行動が制約されるのは国や政治権力です。先述したように、憲法の遵守義務があるのは「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員」です。
 だから、自公維の議員が国会で改憲を主張すると憲法99条違反だと批判されるのです。
 一方、朝日新聞を含むマスコミには、憲法遵守義務はありません。
 したがって、読売新聞や産経新聞が紙上で改憲を主張しても「憲法違反」にも「憲法への乱暴な攻撃」にもならないのです(なお、自分は両社の改憲論には何一つ賛成しません。念のため)。
 同様に、過去にどんな判例があろうとも、政党が行った処分を朝日新聞が批判することは「結社の自由への攻撃」にも「憲法への乱暴な攻撃」にも「民主主義への乱暴な攻撃」にもなりえないのです。
 本記事の冒頭で批判した志位氏の「朝日新聞に指図する権利はない」発言とあわせ、憲法に対する理解が欠けていると言わざるを得ません。

 自分は共産党に入る前から、自民党による改憲を許さず、日本国憲法を守るという立場でした。離党した今も同様です。
 また、自分が昔から重視していることに「論理」があります。それもあって、非論理的な言動を行わないよう、日々心がけていました。
 それだけに、政治部長という肩書を持つ人が、赤旗にこのような非論理的かつ、憲法の基本を理解できていないとしか思えない文書を発表したのは、かなり衝撃でした。
 もちろん、以前から朝日新聞をはじめとする各商業マスコミが共産党に関して書く記事は、批判を通り越して悪意だな、と党員だった自分も思った事はありました。
 しかし、やはり批判に対しては論理と道理を用いて反論すべきです。このような感情的で非論理的、さらには憲法への理解を疑われる文書では逆効果です。
 実際、一連の「反論」により、共産党へのマイナスイメージはさらに拡がってしまいました。
 そして、この時点で、自分と共産党を繋ぎ止めていた糸は残り一本となり、翌日の志位会見を読んで、その糸も切れたわけです。
 なお、離党に至る理由はもちろん他にあります。それについては、後日書く予定です。

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