ジェンダー不平等な政党が「ジェンダー平等の党」を僭称した結末
日本共産党埼玉県議団の申し入れでイベントが中止となり、損害が発生
日本共産党(以下、共産党と表記)埼玉県議団が、県営公園での水着撮影会を中止に追い込んだ、という事例がありました。
2023年6月8日に、6月23・24日に県営公園で行われる予定の水着撮影イベントを中止すべき、という申し入れを行いました。
すると、県営公園を運営する指定管理業者は、そのイベントのみならず、全ての水着撮影イベントを中止しました。
前県議であり、衆院小選挙区予定候補者である秋山もえ氏は、自身のツイートで、この件について論じています。
その結果、6月10日に開催する予定のイベントも中止となり、主催企業は1,000万円以上の損害が発生しました。
このイベントにあわせてキッチンカーを出す予定だった業者など、主催者以外でも多大な損害が発生しています。
なお、この主催企業は、共産党埼玉県議団が申し入れをした問題点を全てクリアして水着撮影会を運営していました。
それだけに、運営者・出場予定だった方々などの怒りと悲しみが多数発信されています。
その批判に対し、共産党埼玉県議団はなんら反論していません。
既にネットでは、共産党埼玉県県議団の申し入れに文書に関する法律的な問題や、水着撮影会を批判する論拠の矛盾点などについて、経済的被害を受けた当事者の方々のみならず、大学教授や弁護士をはじめ、専門的知識を持った多くの人が発信しています。
それらを読めば共産党埼玉県議団の「申し入れ」がいかに不当であるかは明白になります。
ただ、今回、筆者はそれとは違う視点でこの問題を論じます。
それは、表題に書いたように、党内にジェンダー不平等がはびこっている共産党が、「ジェンダー平等の党」などと僭称して政治活動を行った結果、このような最悪の形で、権力を使って多くの人の命と暮らしに損害を与えた、ということです。
まず、共産党の「ジェンダー不平等ぶり」を明らかにし、その上で、「ジェンダー平等の党」などと僭称し、それを誇示するために今回のような酷い事を行った経緯を論じています。
自称「男女平等」「ジェンダー平等」だが、党内の実態は正反対
共産党は101年前である1922年に「男女平等」を政策の一つに掲げて誕生しました。
さらに、2020年には綱領(政党の基本的立場や目標、実現の方法、基本政策、当面の要求、組織などを定めた文書)に「ジェンダー平等社会をつくる」と新たに書き込みました。
これだけ見ると、筋金入りのジェンダー平等政党だと思う人もいるかもしれません。
しかし、現実は正反対です。
101年という日本最長の歴史を誇る政党ですが、その間、党の代表者は常に男性でした。
現在の機構と人事を見ても、委員長・書記長・筆頭副委員長の「三役」は全て男性です。
副委員長には女性もいるのですが、6人中4人が男性と、男女比は2対1です。
党運営の重要文書を発信する常任幹部会を見ても、男性18人に女性は8人と、男女比は9:4です。
他にも幹部会は、男性52人女性12人で男女比13:3、書記局は男性17人女性2人です。
また、都道府県委員長は、男性44人、女性3人です。
この分析は、名前だけで行ったので、もしかしたら、一般的には男性名だが実は女性、という人もいるかもしれません。
しかし、その数人を調整しても、男尊女卑度は圧倒的です。
また、2021年の衆院選比例では、当選者は男性7人女性2人でした。
衆院比例は、政党が名簿に順位を設定します。他の政党はたいてい、同じ順位の候補を複数設定し、小選挙区の惜敗率で当落が決まる仕組みにしています。
しかし、共産党はこの仕組は使わず、上から順位を割り振ります。その結果がこれですから、男性に有利な順位付けをしている事は明白です。
さらにこの選挙では「比例候補者の女性比率が50%を超えた」などと「ジェンダー平等の党」を宣伝していました。
しかし、この当落からわかるように、当選する可能性がある順位には7割以上を男性で固めて、絶対当選できない「泡沫枠」に多くの女性を入れていたわけです。
ジェンダー不平等・男尊女卑な実態を糊塗するために、このような姑息な事を行うのは「グリーンウォッシュ」のような「ジェンダーウォッシュ」であると言わざるを得ません。
地方議員だと、全国政党ではかなり女性比率は高くなります。
しかし、それは「ジェンダー平等が実現している」からではありません。
もちろん、自民党に比べればマシですが、要は「ガラスの天井」がちょっと高いだけの話です。本質的に男尊女卑である事に違いはありません。
地方議員においては、「ガラスの天井」がちょっと高いおかげで多くの女性議員がいます。
だからといって、地方組織ではジェンダー平等が実現している、などということはありません。男尊女卑であり、ハラスメントは常態化し、加害者が守られ、被害者は諦めを強いられます。
今年になって明らかになった富田林市議団でのパワハラ・モラハラ事件並びに、その後の共産党の対応はそれを象徴しています。
筆者も関わった例として、2022年参院選において千葉県で発生したセクハラ事件を紹介します。
ある日の会議で、「選挙ボランティアに来た方が、幹部党員にセクハラを受けたと訴えた」という報告がされました。
しかし、その幹部党員を批判する意見は出ませんでした。
それどころか、あるベテラン女性幹部は「その選挙ボランティアの人が我慢すればよかったのに」とまで言いました。
男性はもちろん、女性にも、このようなハラスメントを容認する考えが染み付いているのです。
そして、千葉県委員会は加害者を処分せず、被害者には謝らないどころか、二次加害すら行う、という結末になりました。
もちろん、このような言動を批判する党幹部もいます。しかしながら、それは「少数派」でしかありません。
これが自称「ジェンダー平等の党」の実態です。
ちなみに、2023年6月に行われた、共産党の「第8回中央委員会総会(8中総)」で、志位委員長が
と発言しました。
富田林市で、パワハラ被害者が議員引退に追い込まれたこと(ちなみに赤旗では報道ゼロ)に対する批判を受けてのことかと思われます。
しかし、ハラスメントに関する常識以前の問題ですが、こんな「心から呼びかける」などという精神論でハラスメントをなくすことは絶対に不可能です。
本気で党内ハラスメントを根絶したいのなら、まずは、大幹部である小池晃書記局長がハラスメントを行った問題について、第三者を含めた対策委員会を立ち上げて、他でもハラスメント行為をやっているかを調査することが必要最低限です。
そのうえで、共産党の機構に専門のハラスメント相談窓口と、第三者で構成されたハラスメント解決機関を作るのが当然です。
もちろん、そんな事をする気など毛頭ありません。
先述した、千葉でのセクハラ問題も同様です。
こんなセクハラ・パワハラ常習政党の中央が、「ジェンダー平等」を実現する意思も能力もないことは明白です。
なお、先に引用した六中総ですが、それから3ヶ月経っても、富田林パワハラ問題は何一つ進展していません。
さらに、共産党の地方議員がこれについてツイッターで言及したところ、中央の幹部がそれを批判ツイートをする、という事例も発生しました。
共産党にとっての「ハラスメント解決に真剣に取り組む」が、ハラスメントをなくしたり、加害者を処罰することでなく、「ハラスメントを隠蔽し、被害者の諦めを待つ」であることがよくわかる事例です。
ジェンダー差別政党が、「ジェンダー平等」を僭称して行動した結果生じた矛盾
男性優位・男女差別が党内にはびこっている政党が、「ジェンダー平等の党」と自称するのは無理がありすぎます。
しかしながら、方針が出た以上、「ジェンダー平等活動」をせざるをえなくなりました。
その結果、共産党が行ったことは、主に以下の3つです。
それは、
「痴漢撲滅」を旗印に、政府や警察・鉄道会社に申し入れをする。
「男女賃金格差是正」を旗印に、国会で「企業の男女賃金格差」を公表させる。
「性搾取撲滅」「性の商品化を許さない」を旗印に、性産業を批判し、「北欧モデル」である「買春違法化」を推進する
でした。
確かにこれなら、党内で蔓延している、男尊女卑、セクハラ・パワハラを日頃から行っている党内のハラサーを容認しつつ、「ジェンダー平等」の宣伝ができます。
しかし、これらは全て「ジェンダー平等」とはズレています。
一番目の「痴漢撲滅」ですが、たしかに犯罪者の殆どは女性を蔑視する男性です。
その取り締まりを鉄道会社や警察権力に申し入れをすれば、犯罪を減らせるかもしれません。
この行動自体は何ら批判する気はありません。
しかしながら、それをいくら行ったところで、「ジェンダー平等」が進むことはありません。
ちなみに、この運動の一環として、受験生をねらった痴漢の加害防止と被害救済の強化に関する申し入れなる文章を2023年1月13日に発表しました。
その日の夜に、千葉県委員会書記長がJR駅のトイレで盗撮行為を行った容疑で逮捕され、翌日、除名されました。(その後、裁判で有罪確定)。
政府に「鉄道会社に対策をせよ」と申し入れた直後に、いくら翌日に除名したとはいえ、犯罪実行時には党員、しかも県書記長という要職にあった人物がJR東日本の施設内で性犯罪を行った事が明らかになったわけです。
ならば、組織として党中央なり千葉県委員会がJR東日本に謝罪に行く事が「申し入れ」に適った行動のはずですが、そのような事をした、という発表は一切ありませんでした。
「痴漢防止」の「本気度」はその程度のものなのです。
次の「企業の男女賃金格差公表」ですが、これには岸田首相も前向きの答弁をしました。
しかし、それで女性の賃金が上がる事はありません。
そもそも、この問題の根源は、「女性の非正規率が高く、その結果、低賃金を強いられている」ことにあります。
だから、企業としては、それを公表して仮に問題視されても「主婦パートなど非正規が多いから当たり前」と答えればいいだけです。
政府や財界にとって、こんな数字公表は痛くも痒くもありませんし、引き続き、低賃金で利益を上げ続けるでしょう。
つまり、この「賃金差公表運動」も「ジェンダー平等実現」には何の役にも立たないのです。
そして、最後の「性産業批判」は、今回の主題である「埼玉県水着撮影会妨害」の本質ともいえる「男女差別政党である共産党による、歪んだ『ジェンダー平等政策』」の酷さを象徴しています。
共産党のセックスワーカー観
2020年に党綱領を改定し「ジェンダー平等社会を作る」と記載して以降、党機関紙である「赤旗」や、党政治理論誌である「前衛」に、買春者を処罰する「北欧モデル」を推奨する論文が多数出るようになりました。
「赤旗」や「前衛」だけを読むと、最も優れた制度であるかのように見えますが、様々な問題点が指摘されています。
世界最大の国際人権NGOであるアムネスティは、この「北欧モデル」の問題点を指摘した論考を発表しています。
しかし、その主張が「赤旗」や「前衛」に紹介されることはありません。
2022年の参院選政策でも、以下のように性産業敵視を明言しています。
一応、「性産業に従事する女性の健康と安全を守る」と一言書いていますが、それに続けて、その働き場所をなくし、転職を促す、という事を延々と述べています。
他の部分を読んでも、「性産業」を撲滅させたいという意思が各所に滲み出てきます。
この文章には、では自ら望んでセックスワーカーになった方はどうなるのか、という視点はいっさいありません。
「そんな人は存在しない、『貧困や虐待、障害などで困難におかれた女性』だけがこんな酷い仕事をさせられているのだ」という立場だからこうなるのでしょう。
実際、共産党の国会議員(当時)にセックスワーカーの活動家の方が面談した所、その議員は「不本意な形でセックスワーカーになった」話にしか関心がなかった、という感想を活動家の方は述べていました。
これらの事から導き出される結論は、「セックスワーカー女性を蔑視している」に他なりません。
何しろ、党内では代表は常に男性、衆院比例候補上位・中央幹部・都道府県委員長も男性が圧倒的に多く、党内セクハラでも加害男性をかばう組織です。
性産業で働く女性の方々を蔑視するのは必然でしょう。
6月に起きた埼玉県水着撮影会問題も根は同じです。
もちろん、未成年出演など、不適切な行為があるなら、それを指摘して改善させる必要はあります。
しかし、「公園を貸し出すこと自体を問題」などと難癖をつけ、県議会議員としての権力を使って、なんら問題のない多くの出演者・関係者の仕事を奪ったわけです。
性産業同様に、水着モデルという職業を蔑視しているからこそ、後先を考えずに、こんな事をやってのけたのでしょう。
なお、このような事を書くと、「ならば筆者は未成年の少女も出ている水着撮影会を容認するのか」などという意見を出す人もいるでしょう。
それに対する回答は、「未成年を出演させているとしたら問題ですので、それはやめさせるべきです。しかし、法を守って行われている水着撮影会を否定するべきではありません」です。
性風俗にに対しても同様ですが、違法なものはただすべきですが、それを理由に、法律を守って行っている人たちの営業と暮らしを侵害することは容認できません。
公党として「性の商品化は許さない」という主張をする権利は当然あります。しかし、だからと言って、合法的に運営されている撮影会を中止させていいわけがありません。
加えて言えば。圧力をかけたのは憲法遵守義務のある県議です。この行動は、表現の自由や財産権を侵害する憲法違反の行為だと言わざるを得ません。
「ジェンダー平等」の看板を即刻おろすべき
繰り返しになりますが、共産党の党内に「ジェンダー平等」など存在しません。人事は徹底的な男尊女卑で、セクハラには寛大です。
それら、自ら抱える問題とぶつからないように、社会に向けて「ジェンダー平等」を宣伝しようとした結果、性産業・水着撮影会やそれに類する仕事を槍玉にしたわけです。
その結果、多大な損害を出したわけです。そして、それに関する質問や取材からは逃げ回るという無責任な対応を続けました。
党内にジェンダー平等が存在しない組織が、「ジェンダー平等社会」など作れるわけがありません。6月に起きた事件ののように社会に迷惑をかけるのが関の山です。
だから、「ジェンダー平等の党」などという看板は即刻おろすべきです。
そして、幹部の男女比を適正にする、セクハラが起きれば加害者を処分する体制づくりをおこなう、などの党内改革が完了してから改めて「ジェンダー平等の党」という看板を掲げればいいのです。
なお、そのような党内改革が実現する可能性は極めてゼロに近いと、かつて党員・勤務員だった筆者は考えています。