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ケガをしたおじいさんからいただいた千円札

目の前で、自転車に乗っていたおじいさんが転倒した。
道路に肩から落ち、はずみで頭も打った。
うずくまるおじいさん。
近寄ると、側頭部からわずかに血がでている。

「大丈夫ですか」と声をかけると、うめき声がかえってくる。
必死で立とうとするが、かなり高齢なこともあり、身動きができない。
おじいさんの見た目は90歳くらいだろうか。
救急車を呼ぼうと思ったが、そこまでじゃないとおじいさん。
介抱を行い、まずは道路(車道)の上で安全を確保。
通行する自動車に、おじいさんの存在を知らせるようにする。

10分ほどすると、おじいさんは杖を持ち、何とか自力で立ち上がる。
元々両足が不自由で、思うように歩けないし、立つことも難しい。
歩けないから、移動は自転車を使うしかない。
ちなみに高齢のため、自動車にも乗ることができない。

「ご家族に連絡をしましょう」と提案をすると、「おれは一人暮らしだから」とのこと。
このままにしてはおけない。
ご自宅まで同行することにした。
おじいさんは自転車に乗るのも一苦労だ。
足だけではなく、手も思うように動かない。
ハンドルを持つ手に力が入らない。

ペダルをこぎ、何とか走り出す自転車。
しかし交差点にさしかかった時、違和感を覚える。
なんと、減速をしない。
ブレーキを使わないのだ。
「おじいさん、交差点の時は、スピードを落とさないと!」と声をかけると、
握力がなく、ブレーキが握れないとの返事。
なんてことだ。
これじゃ、いつ事故を起こしてもおかしくはない。

おじいさんは人にすれ違う際、「すみません、すみません、自転車通ります」と声を出す。
声を出すことで、人に自分のことを認知してもらい、事故を回避しようとされている。
手が不自由なため、走行中、自転車のベルを鳴らすこともできないのだろう。

ご自宅に到着後、おじいさんと少しお話をした。
一人暮らしの一軒家。大きな家だ。
昨年、奥さまが亡くなられたそうだ。
息子さんがいるようだが、東京に出た切り、戻ってこない。
息子さんのお嫁さんも、まったく顔を出さない。
食事は自分でつくっているが、最近は食べない日もあるという。

別れ際、おじいさんは僕に千円札を渡す。
いえいえとんでもない。いただくわけにはいかない、とお断りをすると
「いいからもらってくれ。もらってくれよ!」と口調がつよくなる。
そのようにしていただいたものが、画像に出した千円札です。

こういう方、実は日本中にたくさんいらっしゃるのかもしれないなと思う。
僕も高齢の両親が実家にいるけど、他人ごとじゃないと強く感じた。

帰宅後は市役所に電話を入れた。
民生委員さんの窓口となる福祉課に連絡をした。
そしてこのおじいさんのご自宅の場所と状況を伝えた。
「転倒時に助けて終わり」ではなく、こういう方の存在を、地域の中で共有することが大切だと、電話をしながら強く思った。

歩けない。外出ができない。食事がつくれない。
そんな一人暮らしの方の存在を、身近に感じた出来事でした。


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