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クルマのEV化時代、ガソリン車に対する最大の誤解

人々が新しい技術や製品に直面した際に、自分がそれを受け入れたり適応したりするのが難しい時、いつも自分に言い訳をし、自分は老いたのだと言う。

しかし本質的には、テクノロジーは人のために使われるべきものであり、もし技術があっても、人々に利用されていないのであれば、技術の提示された形はまだ十分ではない、としか言えるだろう。

思考の惰性はどれくらい恐ろしいのか。

私たちが新しいものを受け入れにくいのは、思考の惰性にも大きな原因があある。私たちは小さな頃から多くのことを学び、受け入れてきており、成長後には生活のほとんどは条件反射的にこなすことができる。

デザイナーも人間であり、彼らは成長の過程で、それまでのデザイナーが提供してきた製品や体験を受け入れてきた。

自働車業界の発展の百年に渡る歴史の中で、2020年代から、電動化によるいくつかの新しい潮流が発展し始めてている。幾多の新車種が誕生し、いわゆる伝統的なガソリン車企業と新型EV車企業の間の境界が次第にはっきりし、電動化とスマート化の2つの概念の結びつきもますます密接になっている。しかし、ガソリン車はいわゆる新エネルギーとの対立関係から、スマート化にすら手が回っていないように見える。

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実際には、1台の車の駆動方法の違いと、人と車とのインタラクションの関係が必然的につながっているわけではない。最大の問題は、伝統的な自働車メーカーに就職した人が、慣性思考を守って変革しようとしないことだ。その結果、必然的にガソリン車メーカーが淘汰されてゆくであろう。このような話は、自働車業界の過去100年の歴史の中で珍しくない。

慣性に逆らうのは難しいが、誰かが率先して変えなければならない。

今年の上海モーターショーでは、新型ハイエンド中大型SUV「フォードEVOS」が世界初公開された。最大の目玉は、これまでガソリン車分野全体ではあまり見られなかったセンターコントロールが採用され、かつ内装全体を貫く次世代スマートキャビンを使用したことだ。

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具体的には、12.3インチの高精細メーター画面と27インチの4K高精細センターコントロール大画面からなるセンターコントロールシステムがキャビンに搭載されている。

従来、多数のボタンがついていたセンターコントロールを大型タッチスクリーンに変えるメリットは明らかだ。そして、高解像度かつ占有率の高い大画面は、より多くのコンテンツを表示し、より多くの情報を伝えることが可能となる。

タッチスクリーンでサポートされているポインティング、スライド、ズームなどの一連のジェスチャーで実現できる操作ロジックも、従来のボタンを押すだけの操作と比べ、より豊かで直感的な操作が可能となる。

スマートフォンが長年普及してきた現在、大型スクリーンの利点を知らない人はいないであろう。しかし大画面車載ディスプレイを搭載することの困難さは、従来の車とは全く異なるロジックで車載スマートシステムのインターフェイスと操作性の構築が必要となる点だ。車載スマートシステムを構築する際の問題は、スマートフォンのように操作する必要があるが、スマートフォンのシステムをそのまま利用することはできないという点にある。

デジタル化は目的ではなく、手段だ

「デザイン心理学」の著者で、元アップルのUXデザインを担当した経営者であるDon Norman氏には、「時流に逆らう」という表現がある。

「私は『デジタル化』という言葉が好きではありません。それは無意味です。すべてのテクノロジーがデザインを変えるのです」

新しいテクノロジーは、人々がテクノロジーをよりよく使い、それによってワクワクできるように設計される必要がある。新しい技術が登場すると、デザインはその有用性を掘り起こし、その難点や不可解な点を隠すのだ。

今回、フォードは、インテリアを前衛的に見せるためにデザインを変えたのではなく、綿密な調査と工夫を重ねてきた。

一つの例として、アメリカやヨーロッパの一部の国では、家族で複数台の車を所有するケースが多く、ドライバーを中心としたインテリアデザインとなっている。しかし中国では、多くの家庭において家族で車を1台しか所有していないため、その車は乗車する家族のそれぞれのニーズを満たす必要がある。

そのため、キャビン全体を横断する大型スクリーンは、家庭生活や社会的なニーズをよりよく満たすため、多くの情報を表示することができる。フォードはこの調査研究の結果から、EVOSという車を皮切りに、将来的にはメインとサブをまたぐ横スクリーンのデザインを自社モデルに積極的に採用することを決めた。

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このように、画面は大きくなったり長くなったりと進化するが、それに伴って問題が生じる可能性もある。

例えば運転者の手では画面全体を覆うことができないタッチ、例えば、大型の画面に表示される大量のコンテンツが運転者の注意を散漫にする可能性、例えば、運転者が画面上の一部の領域に手を伸ばす際に、走行中の安全を保証した上で正確にクリックすること、等だ。

完全自動運転が現実化しない限り、人と車の相互作用は『安全』を第一前提としなければならない。

そこでフォードはメーター横の27インチの大画面に3つのパーティションを作った。

1.Core Control Area(最も左部分。これはマスターのコア操作エリアで、このエリア内はマスターが操作するのに非常に便利)

2.Available Control Area(真ん中部分。このエリアではマスターが操作するのに少し面倒)

3.Immersion Display Area(右側部分。このエリアはマスターは一般的に見るだけで操作できない。主にサブが操作エリア)

となっている。

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そして、このようなパーティションロジックに基づいて、運転シーンに合わせて、Solo Mode、Co-pilot Mode、Individual Modeの3つのシステムモードを設計した。

このインタラクションロジックは文字の上から見るとややこしく感じるが、すべての操作は、ユーザーの直感的な習慣に合っておりスムーズだ。

例えば、自分が運転していて助手席の人間がいない場合、すべての操作エリアは画面の左側に集中し、情報表示の優先度は左から右へと順次下がっていき、地図を表示する場合も地図のコアルートを左側に置いている。

座席が助手席に乗客がいることを認識すると、システムは自動的に分割画面モードまたはCo-pilotモードに切り替わり、助手席がドライバーのナビ設定をサポートし、ドライバー側もすぐにナビ情報を同期して運転できる。

また現在多くの車に搭載されている動画視聴機能にも、EVOSには2セットの安全機構が設けられている。

まず物理的な面から言えば、画面のコアエリアに応じて区分されており、マスタードライバーが動画コンテンツを見にくくなっている。

次に、速度が5km/hより大きい場合、ビデオは助手席エリアでしか再生できない。サブドライバーが誤ってドライバー側にビデオをスライドさせても、ビデオはすぐに停止する。

最後に、車速が5km/h未満の場合は、メインドライバーとサブドライバーは分割画面で映像を再生することができる。

これらすべてのインタラクションは、従来の自動車・機械およびスマートフォンのインタラクションの習慣を結びつけ、ユーザーの学習コストを削減している。大型スクリーンのハードウェアをベースとしながらも比較的フラットなUIの設計は、調査研究と繰り返し検証されたキーレイアウトに基づいており、運転者と助手のどちらもが車両の走行中にスクリーンを操作することをスムーズにしてくれる。

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本質的に、ユーザーが当然だと思っている合理的なインタラクションには、エンジニアたちの多くの工夫が費やされている。

伝統的な車載コントロール機器の設計の中では、一般的にエアコン機能を実体ボタンにする傾向がある。エアコンが最もよく使われているため、実体としてボタンは最も直感的なフィードバックを与えることができ、使っていて最も便利である。しかし、これを画面でインプットに切り替えたからといって、エアコン制御が必ずしも使いにくい方向に向かうわけではない。

フォードのエンジニアは、中国標準とユーザーの調査研究を結びつけ、ユーザーが最もよく使う核心機能をセンター画面の一番上に配置した。ユーザーはコア機能を直接画面に触れて操作することができる。同時に三角形のエアコンパネルを設置した。ユーザーは三角形をクリックすると、エアコンパネルの詳細設定(内側と外側の循環切り替えなど)が展開される。

興味深いことに、三角形のアイコンはスマートキャビン全体の中心線にあり、展開されたエアコンパネルは視覚的に左右対称で、美しい。インタラクションでは、車両の真ん中の位置であることにより、サブドライバーの操作を容易にする。

インタラクティブ性では、ユーザーがRearやMaxをタップするとエアコンコントロールパネル全体が開き、他のボタンをタップするとmini sliderが表示され、ユーザーは大きなエアコンパネル全体を開かずに、プラス、マイナスの温度調整やスライダー(迅速な調整)でファン、エアコン温度、シート加熱温度などを調整することができる。

特に温度コントロールは、ユーザーによっては温度に対する葛藤はしばしば0.5度と1度の間で、精密な温度コントロールの需要がある。そこで温度コントロール面で、エンジニアは2つの方式を設計した。1つはユーザーがクリックしてプラス、マイナス0.5度の精密な温度調節を行うことができる方式。もう1つは、ユーザーがスライダーで素早く温度を調節できる方式だ。

上記のような考えは、実際にこの機能を使っても、それほどデザインが素晴らしいとは思わないかもしれないが、別の車に乗り換える機会があって初めて、エアコンというシンプルな機能が、インタラクションを「便利で使いやすい」ようにするのも、そう簡単ではなさそうだということに気付く。

惰性に任せてこれまでの成果を台無しにしてはいけない

冒頭に述べたように、自動車業界が発展して100年、かつて輝かしい歴史を持つブランドがあまりにも多いが、新しい波が来たときに倒れている例もある。しかし歴史を振り返ると、成功した自動車メーカーにはそれぞれ異なる成功の道筋があり、失敗した自動車メーカーの多くも轟然と倒壊するわけではないことがわかる。

その理由は、自動車業界のペースがデジタル業界よりも遅いということが表しており、その変化の多くがそれほど明らかではなく、多くの傾向が変化が予測できず、つかみどころがないということを意味しているからだ。

海の上の小さな水しぶきの、いったいどれが最後に大波になるのか、誰にもわからないであろう。ある波頭が巨大になり始めているのを見つけたら、その際には砂浜に叩きつけられることが避けられなくなっているかもしれない。自動車の使用サイクルや製品サイクルがデジタル製品よりも長いということは、一歩間違えれば、2度目のチャンスが訪れるのは数年後になる可能性があるということでもある。

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今日の自動車業界で試されているのは、不透明で変幻自在なトレンドの中で、その中で正しい方向性を見分けてしっかりと前に進むことができるかどうか、政策担当者の能力である。

フォードの成功は、世界で最初の生産方式(フォード式)の開発の成功に由来している。この新しい生産方式は、自働車を大衆製品にした。それは工業生産方式を革命しただけでなく、現代社会と文化にも大きな影響を与えた。そのため、一部の社会理論学者は、この経済と社会の歴史を「フォード主義」と呼んでいる

新時代のフォードも、EVOSのような革新的な変化をして、自分たちの歴史をつなごうとしている。

スマート化が自動車を再定義し、電気自動車だけがスマート車を代表できるとやや過激に考えるようになったこのような時代に、フォードの人々の誤解の転換と、ガソリン車のスマート化の再構築は大いに意義がある。そしてこれはフォードの中国チームが主導し、完成したものなのだ。

<訳者メモ>フォードが中国で新たに発表したモデル、EVOSを題材に、EV車とガソリン車の違いを浮かび上がらせる記事です。UI/UXの違いをメインに取り上げていますが、その裏側には新興EVメーカーと伝統ガソリン車メーカーの開発人材、歴史、そしてデザインの「惰性」が存在するのでしょう。中国ではスマホメーカーが次々にEVに参入しており、これらのデザイナーのUI/UXの考え方はスマホ開発がベースになっていることは自然な現象と言えます。今後、伝統的なガソリン車メーカーもこのような潮流を追っていくことになるのではと感じた記事でした。                 最後の一文は、Ford中国チームがこのようなデザインを作ったのだ、という自負と愛国心に溢れた(良くも悪くも)一文ですね。


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