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ファーウェイの報酬哲学

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どのような価値を分配するか

ファーウェイでは、価値とは持続的かつ効果的な成長を指すため、分配される価値は主に経済価値となる。価値分配とは利益に対する分配であり、賃金、福利厚生、賞与、持分、安全退職金などの形で表現される。

しかし、ファーウェイはまた、機会、権力などを分配可能な価値とすることも同時に強調しており、それを経済価値よりも更に重要な、企業が分配可能な第一の価値資源と見なしている。だから、機会、地位、問題を処理するための権力と責任、およびそれに応じた職務と責任の引き受けなどはファーウェイが分配しなければならない価値であり、仕事自体も仕事の報酬としている。

会社は一方で絶えず新しい事業を始めることを通じて、従業員に成長と発展の機会を提供する。もう一方で公平な競争の仕組みを通じて、会社の機会資源を合理的に分配し、人材の成長のために良好な環境と条件を創造すべきである。

価値を分配する基準

ファーウェイが価値を分配する根拠は、単純な労働に応じた分配ではなく、「奉仕」と「貢献」だ。

任正非氏は、社員が会社で運命を変える道として、奮闘と貢献の2つを挙げた。従業員の価値は、企業価値のために奮闘する過程と結果がもたらす貢献によってのみ評価される。奮闘の過程は奉仕であり、奮闘の結果は貢献である。

ファーウェイの労働に応じた分配の根拠は依然として「労働に応じた分配」と見なすことができる。なぜならファーウェイのいう「労働に応じた分配」の根拠は能力、責任、貢献と仕事に対する態度であり、そのうち、仕事に対する態度は貢献に帰着し、能力と責任は貢献の基礎であり、貢献は結果であるからだ。

1.奮闘は奉仕である

ファーウェイでは、奮闘することは顧客のために価値創造を目指すことであるが、価値を創造したことは貢献に反映されるとは限らない。そこで任正非氏は、従業員個人の奮闘は私心のないことであり、企業は雷鋒(*かつての人民解放軍の戦闘員)に損をさせるべきではないと主張した。では誰が雷鋒かというと、雷鋒とは「使命感があり、自発的に貢献しようと奮闘している人」であり、報酬を得られなくても奮闘する人のことだ。

また、なぜ奮闘者が奉仕者であるかというと、彼らは一部の権利、たとえば残業代などを放棄しなければならないからである。

2.「奉仕」と「貢献」に基づく配分

任正非氏は、価値分配体系を奮闘者、貢献者に傾斜させ、機関車の燃料を満タンにしなければならないと提起した。

高いパフォーマンスを発揮し使命感のある人を探しに行き、確かに能力があれば小刻みに早く走らせる。これは「奮闘」と「貢献」を同時に強調し、「使命感」と「高いパフォーマンス」を強化するものだ。

任正非はまた奨励と機会を成功者、努力者、業績優秀者に傾け、かつ大胆に傾け、差をつけることを提案した。これも「奮闘」と「貢献」を同時に強調するものだ。

ファーウェイでは、長期的な貢献能力と貢献の実現度合いにより報酬を決め、短期的な貢献により奨励金を決める。貢献は当期に現金化され、奉仕は長期に現金化される。遡及激励は「奉仕」に対する一種の長期的な現金化であり、華為が言う「雷鋒が損をしないように、奉仕者は必ず合理的な見返りを得なければならない」ことを実現している。

3.奉仕に基づく分配

ファーウェイは個人での奮闘とチームでの奮闘で報酬と機会を分配している。奮闘はファーウェイの企業精神であり、任正非氏は報酬は奮闘と努力に頼らなければ得られないとし、奉仕精神のない人は幹部にはなれず、奮闘する意志ややる気のない幹部は調整する必要があると主張した。ファーウェイの「オオカミ性」はまた、チームでの奮闘を強調しており、チームでの奮闘を続けられない人は、いずれファーウェイから淘汰される。

ファーウェイの配分は努力者を基本とし、チームの奮闘と突撃に導くことを強調している。インセンティブ政策に反映されているのは、職務上、待遇上、昇進の機会で前に出ることだ。第一線の作戦実行部隊の昇進・昇給速度を第一線の作戦立案プラットフォームより速くする、第一線の作戦立案プラットフォームの昇進・昇給のスピードを、第二線の管理プラットフォームより早く上回るようにしなければならない。

ファーウェイはまた、雷鋒が損をしないよう、奉仕者は必ず合理的な見返りを得なければならないと提案した。任正非は、もしあなたたちが扁鵲の長兄(*古書《鶡冠子》「扁鵲三兄弟」の故事)のように、表舞台に立つことができず、しばらくはお金が要らなくても大丈夫だ、最終的には損をすることはない、これからきっと台頭するだろうからと言い出した。具体的な政策として、奮闘者はファーウェイの割当株を持つことができ、年間の収益を分け合うことができる。彼らの収入は変動し、利益が高ければ彼らの報酬は高く、逆に利益が悪ければ彼らの報酬は一般の労働者より低い。しかし彼らは必ず報われる。

4.貢献に基づく分配

一方、ファーウェイは貢献に基づいても価値を分配している。短期的な貢献はボーナスで、持続可能な貢献は就任資格で表される。報酬や待遇は、優秀な社員に傾斜して与えられる。新規株式割当は、長期的な利益が継続的に配分され、過去の貢献者、現在の貢献者、未来の貢献者の間でバランスのとれた合理的な配分構造が形成されるよう、高業績者に傾斜しなければならない。財務資源、人的資源、報酬、賞与などは、徐々に授与制から獲得共有制へと変化している。作戦部門は儲からなければ飯が食えない。労働に応じて分配する株式の配分は、コア人材と中堅層に十分に差をつけて傾斜しなければならない。

一方、ファーウェイは貢献度に基づいて機会を分配する。優勝劣敗、幹部は昇進も降格もあり、従業員は入社も退社もいとわず、報酬は高くても低くてもよい。一人一人が資本の価値に貢献することを強調し、ファーウェイは一人増えるごとに、一部の付加価値を増やすことを要求する。市場の比較、個人の需要を強調しすぎず、あなたが貢献した価値を見て、貢献によって報酬を支払う。貢献が投下コストより小さい場合には退職を勧める。そのポストに適任な従業員が勝ち残り、投下コストより貢献が大きい限り、原則として使い続けられる。

現在の職位の要求に適任ではないが、労働態度の良い従業員は、もし本人が降格して低い等級の職位で仕事をしたいと願い、かつ低い等級の職位で実現する貢献がコストよりも大きい場合は、原則上引き続き定着させることができる。コストを上回る貢献ができない従業員は、退職することになる。歴史的功労者は必ずしも高い地位にいる必要はなく、相当な福利厚生を受けることができる一方で、ボーナスや役職は責任者に与えなければならない。

価値の分配方法

1.人と資本の分配関係を適切に処理する

ファーウェイでは、労働、資本、知識、企業家はその価値創造の要素であり、労働、知識、企業家はすべて人の要素であるため、即ちファーウェイの価値分配は、善人との間における資本の分配関係の構築であると述べている。

任正非氏は、他社が過剰に考慮しているのは創業者(資本)の利益だが、ファーウェイは共同奮闘者の利益を考慮していることが多いと言う。ファーウェイでは貢献を強調した上で、労働と資本の収益分配比率を合理的に切り分けている。ファーウェイは現行の法律に合致するという前提の下で、ハイテク企業の特徴に基づき、労働、知識及び企業家の管理及びリスクを資本に転化する形を模索し、その貢献が体現され、報償となるようにすべきだと言っている。

ファーウェイの全員株式保有制度はまさにこの点における制度的な取り決めである。ファーウェイの将来のインセンティブの方向性は、長期的なリターンを下げ、短期的なリターンを増やすことだ、資本の収入を下げ、労働の収入を増やす。同時に配当を圧縮し、ボーナスを引き上げることも、労働と資本の収益の合理的な分配方法である。

2.報酬総額の決定と配分

ファーウェイにおける報酬総額の決定には、次の2つの原則がある。

1つ目は、全体的な給与水準をコントロールし、高賃金・高福利厚生を負担することによる企業の将来への脅威を防ぐことだ。個人所得の伸び率が経済成長率より低くあればこそ、企業側は持続的な成長が可能だ。今後は規範化された職位管理、職位のマッチングを通じて、部門の職位決定と給与総パッケージ管理に向けて徐々に歩調を合わせていく必要がある。

2つ目は、従業員のリターンを会社/部門の経営利益と連動させることだ。従業員のリターンが会社/部門の経営利益に連動する変動メカニズムを構築し、報酬パッケージの規模と成長が経営ベースラインに連動し、かつ、硬直的な部分を小さく、弾力的な部分を大きくする。従業員が受け取る収入は、企業の経営状況、従業員が所属する部門の業績、および従業員個人の業績貢献によって大きく異なる。

会社の経営状況、組織の業績又は個人の業績が良好な場合には、個人所得が増加する可能性がある。しかし、会社の経営状況や組織の業績、従業員個人の業績が悪い場合、その個人所得はそれに応じて減少し、所得の変動分である賞与はゼロになることもある。

報酬総額配分の場合、まず会社全体の経営状況に基づいて全社の賃金変動係数を確定し、次に部門業績考課に基づいて部門変動係数を確定し、最後に従業員業績ABC状況に基づいて個人の賃金の確定を行うが、平均化調整はできない。

3.報酬の決定と配分

(1)賃金

賃金は確固として変わることなく、勤務先によって等級を決定し、等級によって賃金を決定し、勤務先を一致させ、勤務先によって賃金決定を容易にする。従業員の賃金は、職階の責任、実際の貢献度、および継続的な貢献を達成するための在職能力に基づいて決定される。従業員の学歴、勤続年数、社会的職位などはその賃金確定の要素としない。

各職種の賃金の位置づけは、各職種会社の同業市場の賃金水准を参照して、適切に総合的に会社の戦略の実施と業務の展開に対する価値を考慮しなければならない。その中で、末端業務・技術・管理職の職級賃金水準は所在地区の同業者市場の参考水準と同等としており、中末端業務・技術・管理職の職位級賃金水準は所在地区の同業者市場水準を参考にし、市場の一定比率よりやや高く位置づけている。高級業務、技術及び管理職の職階級賃金水準は世界同業者の同類市場水準を参考にしており、会社の管理要求に基づき確定する。

新卒初任給を急速に引き上げるのではなく、入社後の小刻みなステップアップを採用することで、初任給を上げすぎてベテラン社員の給与構造を壊すことを避けることができるとともに、実際の貢献者に報酬のインセンティブが発生することを保証している。

各級の賃金のベースラインは安定を保っているが、実質賃金曲線は利益と連動して変動している。

(2)賞与

ボーナスの方向性は会社の成長を牽引すると同時に、会社が基準となる利益水準を維持することを前提とする。企業のボーナス体系は、収益指標だけでなく、利益指標にも連動しなければならない。利益から評価すると、会社の収束につながり、売上高で評価すると会社の粗放につながる。グレースケールをどのように適切に把握するかは、各級幹部の能力を考査する挑戦である。(*グレースケールとは、ファーウェイ「灰度管理」によるもの。)

賞与の額は、企業のパフォーマンス、部門のパフォーマンス、個人のパフォーマンスに応じ、特に企業のパフォーマンスの状況に応じて変動する。

ボーナスの分配は高業績者に傾斜し、従業員のやる気を引き出し、業績を向上させ、ボーナスの激励と牽引の役割を発揮する。業績が優秀な従業員と業績が一般的な従業員のボーナス格差を広げることで、従業員を活性化し、従業員が常に高い業績を追求するように牽引する。重要なプロジェクトについては、成果が出たら速やかにインセンティブを与えなければならない。沢山の事がらを一緒に評価してはいけない。そうするとボーナスはとても復雑になり、これでは公平では無くなってしまう。

ボーナスの支給はボーナスサイクルを短縮し、段階的に四半期賞に移行します。最初の3四半期は割合がやや小さく(20%ずつ)、第4四半期は最終的に支給される。

(3)給付

ファーウェイは高福利厚生に反対してきている。同社の報酬制度は福利厚生制度を導くことはなく、高賃金・高福利厚生が発生することによる企業の将来的な脅威を防ぐ必要がある。会社がすべてのサービスを提供するには将来的にお金をもらう、将来的にはわが社の多くのものを社会化していくという習慣を社員全員に身につけさせなければならない。会社は、私たちの責任は給料をあなたに支給することであり、あなたは貨幣で必要なサービスを取得しなければならない、と示す。同原則を念頭において、ファーウェイ大学は2011年に無料研修から自費研修に調整し、訓練参加者の研修期間中の給与を差し引かれることになった。

ファーウェイはまた、従業員の満足度を評価の鞭として使うことに反対している。従業員の満足度はコストに関係するので、ファーウェイはそのための過剰な投資を奨励していない。

(4)無形励起

ファーウェイは無形の激励を非常に強調している。任正非は、一生偽りの積極は真の積極であると考えており、会社としては一連の激励制度を実施し、みんなに一生偽りの積極を発揮させられれば十分だ。しかし、無形のインセンティブは系統的に計画されなければならず、褒章を配ればいいというものではない。会社は栄誉累積制度を創立しなければならなくて、戦争の英雄が得た栄誉を累積して、彼らの未来に長期的に利益があることを保証する。それ自体が、「奉仕」に対する一種の承認であり、価値の分配でもある。

この記事は、                                         微信公式アカウント:華夏基石e洞察(ID:chnstonewx)          著者:潘鵬飛(華夏基石高級パートナー、鄭州大学講師)        原文タイトル:『ファーウェイの報酬哲学:いかに合理的に価値を分配するか』  からの転載です。

<訳者メモ> 「奮闘」と「貢献」という、一風変わったしかし華為らしいワードがファーウェイの報酬の基本的考え方となっていることが読み取れました。会社、そして社会が右肩上がりの成長を続けているからこそ成り立つ制度なのかもしれません。優秀な人材を集めて競わせ、強く魅力的な技術を開発し富を再配分して更に強い技術を生む。このサイクルが華為の強みと言えそうです。


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