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お寺様での労働問題を生じさせないために

今回は記事からの引用ではありません。
実は、私は他の弁護士や税理士等の士業の先生方と一緒に「お寺士業協会」というお寺様関係の法律に関するような問題をフォローさせていただくというグループを作っています。
その中で、お寺様に関する労働問題が増えているというお話をお聞きしました。今回は、それについてのお話をいたします。

まず最初に御理解いただきたいことですが、私の資格である社会保険労務士は経営者(お寺様)か労働者(役僧さん等)かの「どちらか片方の味方」をするという仕事ではありません。それは弁護士さんの仕事となります。社会保険労務士の仕事は、双方のお話をお聞きして、トラブルが生じないように労働環境を整えることです。そのために就業規則をはじめ社内規定を作り、内部の状態を良くすることを仕事としています。
実際に裁判になるようなトラブルとなってしまったら、それは弁護士さんに御依頼いただくことになります。社会保険労務士では対応できません。しかし、特にお寺様の場合は実際にトラブルが生じてしまうと、そのデメリットがとても大きなものとなります。そうならないように、できる限りお寺様への悪影響を小さくしたいのであれば、事前の整備は必須となります。

残念ながら、今の世の中の流れとしてはお寺様での活動も「労働」として判断されてしまうということが多発しています。本来、お寺様での活動は宗教としての活動であり修行ですので、活動時間が何時から何時までであるかや、その内容が厳しいかどうか等は問題になることではありませんでした。
しかし、現在、役僧さん等の御住職様やその御家族ではない方々については、お寺様が「雇っている人」という扱いとなり、もしもその方が労働基準監督署(労基署)へ駈け込めば、御住職様が雇用主としての対応をキチンと行っていたかどうかが問題となります。そして、例えば「残業代を正しく支払っていなかった」として高額な支払いを求められることも生じてきます。これが裁判となりましたら、残業代以外にもハラスメント(パワハラ等)があったとしての請求が行われるケースもあります。
その他にも、労災や社会保険に加入していなかったとして遡っての保険料支払いを求められたり、ペナルティを課せられたりすることもあります。
このような事態に対して、宗教者として適切なことであるかどうかは仏教界の皆様で御検討いただくことかとは思いますが、それとは別に、そういった不名誉で予想外の出費が生じるような事態が起きないように事前に対策をしておくことは無駄なことではなく、緊急課題として御検討いただく必要がある事態となっています。それが好ましいことかどうかとは別の問題として、不名誉なことが生じないように事前に対策しなければならない時代になっているということを知っていただいた方が良いのではないかと思います。

残念ながら、この対策は雇用する側(御住職様)の好き勝手にすることはできません。日本の法律に従い、雇用されている人(役僧さん等)からも一応は納得される内容である必要があります。「師匠だから言うことを聞け」だけでは難しい部分もあります。
しかしそうであったとしても、なんらの対策もしなかった場合に比べて、トラブルに対する防御率は大幅に上がることとなります。「防御」が必要であることは上に述べましたとおりです。そして、対策すれば可能な限り今までと同じか近い形を盛り込むことも不可能ではありません。事前の対策をしていなかった場合は今までのやり方が全て否定されてしまう可能性もあることを考えれば、対策をするかどうかは大きな違いとなります。

具体的には「労働時間」をどのように設定するのか?や、「給与額」をどのように規定するのか、日常のお勤め等で行わなければならないことを「ハラスメント」にしないようにどのように規定するのか、そしてそれらをどのように就業規則に盛り込むのか、というような検討をする事になります。
同様のことは一般企業でも検討をするものですが、お寺様で有効な就業規則を作成するのであれば、労働法だけではなく、裁判になった時にそれらの規定がどのように作用するのか、そしてお寺様の「常識」にどれだけ近づけることができるか?がポイントとなります。残念ながら、どの社会保険労務士でもそれらに配慮した就業規則が作成可能というものでもありません。キチンとお寺業界にも裁判にも通じている社会保険労務士に御依頼されることが望ましいです。

では、そのような就業規則は、どのようなお寺様で作成されるのが望ましいのでしょうか?
法律上、就業規則は10人以上の人を雇用している会社に義務付けられています。しかし、お寺様の場合は1人でも役僧さん等がいらっしゃるのであれば、その1人の方とトラブルになる可能性も十分にあります。もちろん、その方と上手く関係が築けているのであれば問題ありませんが、いつ何が生じるかもわからないのが人の世です。もしも1人でも家族ではない人がいらっしゃって、その方とのトラブル回避を考えられるのでしたら就業規則を作成された方が望ましいです。

不名誉なトラブルを生じさせないためにも、お寺様でもキチンとした就業規則を作っておかれることをお勧めいたします。
なお、本当にトラブルとなられることがありましたら「お寺士業協会」の弁護士が対応いたしますので、その必要が生じた場合は、いつでもお問い合わせください。

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