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あぁ...これだから好き。

私が愛してやまない小説家、村山由佳さんの「放蕩記」を読んでいた時のこと。

私が人に対して感じてきた興奮や好意が言語化されていて「まさにそう、その通り」と鳥肌が立ってしまった。きっと自分だけにしかわからないと思っていた感情や考えが、鏡のようにぴったり同じ形をしたものを見つけた時こんなにも胸高鳴るものかと、声にならない声がため息みたいに漏れ出ていた。

 たとえるなら、二人で即興の芝居を演じているかのような興奮や昂揚が、夏帆の恋愛には不可欠なのだった。安らいでいる時ですら、頭の隅のどこかで次のセリフや仕草を考えている。
 そういったナルシシズムを、わざとらしいとか煩わしいなどと考える相手とでは、最初からうまくいかなかった。恋とは所詮、ごっこ遊びなのだ。真剣なごっこ遊びがどれほど楽しいか、その醍醐味を知らない相手との付き合いなど時間の無駄だ、と夏帆は思う。

「放蕩記」より

多少本文より省いているが、上記の文章を読んだ時は脳内を覗かれているのかと思ったほど驚いた。「ほんとにその通りだわ」と何度も心の中で呟くほど。

書かれている「ナルシシズム」ももちろんその通りだけれど、これに共感できる人はロマンチストであるように思う。自分の中の思い描く舞台がそこにあり、あえてこの言葉を用いて、あえてここで間を空ける、などの一番気持ちいい人物で息をすることが何より自由だと知っている人たち。

そんな同じようなロマンチストに出会ってしまえば時は止まってしまうでしょうね。恋に落ちる、なんて言わない。恋を創っていく。だからあなたの恋の舞台も魅せて?とダブル主演で始まる。

「恋人にまた新しい一面を食らわせてやる。そうでないとお互いの恋に対する張り合いがなくなってしまう」こんなふうに思い合える人と会話を楽しみたい。

今時はSNSでどこにいても共通の趣味の方と繋がれますから、同じように物書きさんと繋がることも多々ある中で、やはり言葉を扱う方との会話は面白くて、こちらが自分の理想を演じて投げかけてみても同じ舞台に登ってきてくれる方が多いんですね。時にはお互いそれぞれの扱う言葉にうっとりして、それこそロマンチックな気分に酔いしれたり。

人前で「素の自分」でいれないなんて疲れる、という声ももちろんあるでしょうけど、それで見せなくていい部分を露わにしてしまうと一面、また一面と剥がれてしまうものだと思っていて、常に自分は何者かであることが色香を放ち、ミステリアスな魅力を消さない大事なことだと思います。

それでも誰に対してもそうあれるわけではない、からこそ同種と思う人の匂いはとてつもなく甘く焦がれるんでしょうね。

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