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国家としての日本の性質のルーツについてー小室直樹著『日本人のための憲法原論』

長年読みたい本リストに入っていたが、やっと読めた。憲法・民主主義・資本主義について、近代の歴史からさかのぼって体系的に、明快に解説されている。日頃流れてくるニュースやそれに対する反応をみて、もやっと日本人の空洞を感じている自分にとって、目からうろこだった。

日本を国家、公的な政治体制の視点からとらえると空洞と言えるだろう。無宗教故の共通の価値観がなかったり、契約の効力の薄さだったり。良く言えば柔軟、だからこそ数千年も大きな対立や分裂がなく、神仏習合が続いてきたとも言えるが、グローバル化が急激に入ってくると「あいまいさ」の良さが、江戸時代以前に比べると感じられない。

世界史の前半では、中国・イスラム世界など商業や文化が栄えていたのに資本主義が当時後進地域だったヨーロッパ地域から急激に進出しグローバル社会の価値観となった発端、議会はそもそも使用者(王)ー被雇用者(騎士など)がお互いにとって不利なことがないように抑止力を持つ機能が第一で皆の意見を聴いて合意形成するという民主主義的な意味からは程遠かったことなど、世界の歴史から丁寧に解説されている。Amazonレビューも熱意あるものが多いため参照いただきたい。(一部詳細ネタバレ注意)

特に私が根深い問題だなと感じたのは戦後から今に至る「結果の平等」についての記述だ(P480~481)。一時期当事者になったこともあるからか、誰もが同じことをできなければいけない、一度留年や定職に就けずにブランクが空いたりするとなかなか就職が難しかったり、やり直しが効かない現状が例えば思い浮ぶ。本当にどこからどこまでキリスト教など確固たる価値観が根底にない日本という国が不思議な存在に思えてくる。それを国家として存続させているのが「空気」ではないだろうか。

足掛け3年近くが経過する、新型コロナウイルスに対しての医療・保健体制に対して、他国と比較して各々の自衛(周りに人が疎らでもマスクを付けて外を歩く等)している率が高い・そうせざるを得ないのも公的な体制をどのような根拠を持って敷くべきか、本質的な議論があまり見られないのは、我々の歴史的な蓄積が薄いからではないだろうかと思う。
もちろん、日々奮闘してくださっている医療関係者・保健所・自治体・そしてスーパー・ドラッグストアなどで働かれている皆さまには感謝しかないが、本著にある民主主義や契約に対する捉え方について考えてみると今の状況に対しても理解が進むと思うので、この本はおすすめする。

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