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地球のはなし 歳月

 昨年の4月に施設長を辞めたら、京都に行くのが月に1度ぐらいで済むようになった。たいていは夜行列車で行って、翌日最終便に近い新幹線で帰ってくる。だから、京都の町を見ることはほとんどないのだが、先日空き時間ができたので、大学のまわりをちょっと歩いてみた。

 かれこれ40年ぶりの小道もあった。いや、何度かは通ったに違いない。しかし、その記憶は薄く、町並みを見ながらゆっくり歩いたのは、学生のとき以来である。驚いたことに、ほとんど変化していない。

 曲がり角のたばこ屋は、あのころは無かった自動販売機が備えられてはいるものの、陳列棚は昔のままだし、2、3分ほどの所には見覚えのある喫茶店があって、入り口に掲げてある手書きのメニューも、値段は変わっているはずなのに、同じように見える。

 その小道は百万遍につながり、そこから東に銀閣寺の方へ向かうと理学部がある。この大通り(今出川通り)は、上洛のたびに通るおなじみの街路であるが、不変の小道を抜けた後であらためて眺めると、本屋・パチンコ屋・喫茶店・学生食堂のほとんどが昔のままで、ここもまたあまり変わっていない。

 この40年は一体何だったのか。いろんな出来事を思い返せば、決して短くはない。しかし、そぎ落とせるだけそぎ落とすと、人間だけが老いたにすぎなかった歳月のようでもある。

 学生時代の仲間の幾人かが定年退職を迎え、私自身にもそれが近づいてくると、こんなことを思ったりする。
                                                                                               (2002.2.25)

別府温泉地球博物館理事長の由佐悠紀が執筆し、新聞・雑誌などに掲載されたものを順次ご紹介しています。


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