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地球のはなし 南極で日食を見たこと

  先だって、日本時間の11月24日に南極で皆既日食があり、大分からも船田 工先生が観測に出かけられたことが報道されていた。すっかり忘れていたのだが、私も南極で日食を見たことがある。1972年の1月末か2月初めのことだから、もう30年以上も昔のことだ。

 目的の調査を終えて、帰国するまでの数日間を、仲間と2人で、活火山エレバスのあるロス島のロイズ岬で過ごした。ロイズ岬には、アデリーペンギンの営巣地があり、1908年にイギリスのシャックルトン隊が建てた小さな小屋が、当時のままの姿で残っている。その傍にテントを張ったのである。

 ペンギンは子育ての最中で、その鳴き声は、うるさいほどに賑やかであった。私はペンギンの研究者ではないから、憶測でしかないけれども、鳴き声は縄張りの主張や、親子の連絡や、外敵からの防御の意味などがあるのだろう。外敵とは、卵や雛を狙う大型のカモメである。

 ある日、ニュージーランドの男が1人、ふらっとテントを訪ねてきた。もうすぐ日食が始まると言う。果たして、太陽が沈まない夜の無い季節なのに、薄暗くなり、しばらくするとほとんど真っ暗になった。ペンギンたちは鳴くのを止めた。静寂とはこれか、と思うほどであった。

 南極で日食を見た、また、日食時のペンギンの行動に接した最初の日本人だったのかもしれないが、手元に残っている証拠は、真っ黒い画面の真中に太陽の小さな光が輝いている写真が2枚だけである。
                                                                                           (2003.12.24)

別府温泉地球博物館理事長の由佐悠紀が執筆し、新聞・雑誌などに掲載されたものを順次ご紹介しています。


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