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地球のはなし 南極で日食を見たこと 2 

 1972年1月に南極で日食を見たことを書いた前回の拙文に対して、船田 工先生からご丁寧な手紙をいただいた。添えてくださった当時の天文年鑑のコピーによれば、1月16日である。

 ある雑誌に書いた滞在記では、日食のことに触れていないので、写真は残っているものの、もしかしたら白昼夢だったのかもしれないと、わがことながら少しく疑ってもいたのだ。お陰さまで、事実だったことが確認できて幸せである。それにしても、何の記録も残していないとは、科学者の端くれとして気分が良くない。

 この3月の定年退官の準備もあって、古い資料を詰め込んだダンボール箱の整理を始めたら、日記を兼ねたフィールドノートが出てきた。私にしか読めないような悪筆である。

 1月16日は日曜であった。要点を記すと「17時20分、気温マイナス0.5度。非常に暖かい。21時30分から明日1時30分まで日食の由(ニュージーランド時間)。確かに欠けて来る。雲なし無風で幸運。気温も下がって来た。22時46分に最大日食」などとある。いたって簡単なものだが、記録を取るには取っていたのだ。

 「ペンギンがトウゾクカモメの巣をおそった。トウカモ異常に興奮し、近づいた人間にまでおそいかからんとす」と、面白いことも書いている。19日には、南極に来てはじめて、アメリカの基地で80日ぶりのシャワーを浴びている。あのころは、不潔なことなんか何でもなかったらしい。
                          (2004.1.26)

別府温泉地球博物館理事長の由佐悠紀が執筆し、新聞・雑誌などに掲載されたものを順次ご紹介しています。




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