見出し画像

ドラマ版「The Last of Us」雑にレビュー

はじめに

Netflix、Prime Video、Disney+といった複数のストリーミングサービスに登録しているが、それでも見たい海外ドラマ全てはカバーしきれず、とうとうU-NEXTにまで手を付けてしまった。アメリカ本国のドル箱ドラマ放送局の一つであるHBOで展開されている作品は基本U-NEXTにしか上がらないからね、しょうがないね。さいふこわれるわ♨

そんなU-NEXT内の数ある作品の中で特に期待していたのが、今回紹介する「The Last of Us」である。(以後「ラスアス」と表記する)

菌類が元となる大規模なアウトブレイク発生により、人の血肉を食らう狂暴な感染者が蔓延るようになってから20年が経ったアメリカが舞台となる本作。アウトブレイク発生時に娘を失い、自暴自棄気味になりながらも日々を生きる中年ジョエルと、菌感染に対して唯一抗体を持っていると思われる少女エリーが共に終末世界の危機を乗り越えながら絆を深めて旅をする物語。

原作ゲームのパッケージ写真

本作品は同名のビデオゲームが原作となる実写化ドラマである。PS3で発売され、当時の水準では最高級のグラフィック・良質なゲームシステム・有象無象のポストゾンビアポカリプスものとは一線を画した重厚な人間ドラマ描写が人気を博し、その評価の高さから後継機であるPS4・PS5にてリマスター版が発売されるほどにポピュラーとなった、俺如きが多くを語るまでもない超名作である。(続編となるPart 2についてはまあ賛否両論あるけど・・・)

そんなレジェンドゲーが実写で映像化されたんなら見るしかない!

・・・といいつつも、ビデオゲームの実写映像化は基本コケる事が定められているという風潮があるので、どことなく不安な気持ちで視聴を開始した。

おおまかな感想

主要キャラのキャスティングについて

ゲームやアニメといったコンテンツを実写化する上で、主要人物のキャスティングは特に重要で、元のキャラの見た目がそっくりそのまんまじゃない場合はどれだけ脚本が優秀でもクソ作品である。

・・・と考えるまでには至らないが、ある程度イメージがマッチしている必要があると考えているので、実写化予定であると情報が出始めた頃から主人公のジョエルを演じる人は誰なのかとずっと気になっていた。

ゲーム版ジョエル
実写版ジョエル

悪くないやん!!!

我等が名俳優ペドロ・パスカル。どこか調子付いたキャラを演じている印象が強い気がするが、最近じゃ「マンダロリアン」などに出演しており、哀愁漂う親父役も様になっている。数多くの作品に携わっていてキャリアも長いので演技に関しては心配無用文句ナシ!ゲーム版のジョエルはペドロのようにヒスパニック系ではないものの、原作イメージが崩れるレベルの人種変更ではないし、それどころかそこそこ似ているのでプラスポイントである。

ゲーム版で描かれているような「感染者だろうが人間だろうが邪魔するものは情け無用で殺戮しまくる狂人無双ジジイ」ではなくなってしまったが、実写化する上でリアリティを持たせるための脚本調整だろう。これはしゃーないこととする(?)

十分強くはあるものの、あくまでも身体にガタが来ているジジイで、失敗を恐れて弱気になることもある。等身大の人間として弱い一面も見せるジョエルの描き方も人間味があってこれまたいいかもと思わされた。

さて、ジョエルと来たら次はもう一人の主要キャラであるエリー
演じる女優はベラ・ラムジーだが、彼女を一目見て若干不安を感じたのは否定しない。・・・他のみんなも思ったやろ!?(失礼)

ゲーム版エリー
実写版エリー

君、パケ絵と違くない?(ド失礼)ルッキズム全開の個人的で最低な感想であることは自覚しているが、エリーの存在はラスアスの大部分を占める要素であるため、このキャスティングは致命的ではないかと視聴前は思っていた。

杞憂でした。すみません。

見終わった今となっては、エリーを演じられるのはこの女優しかいないと確信出来るほどにしっくり来ている。

若年にしては成熟しているようで、その実、無邪気で落ち着きがない。孤独を恐れて拠り所を求める繊細な心の持ち主でありつつ、その感情の裏返しで少々荒っぽく勝気な言動で人を遠ざけてしまう。そんな不器用な思春期の少女、エリーをしっかりと演じていた。

主役二人。最後まで見れば如何にしてこの二人が適任であったかがよくわかる。

上記二人以外にも重要なキャラは当然いて、一人一人紹介するわけにもいかないが、とにかく出演するキャストほぼ全員の演技は完璧だったと思う。

「元ネタでは白人キャラだったのに黒人・ヒスパニック・ラテンにすり替えられている!」とか「元ネタでは健常者キャラだったのに障がい者設定付与されてる!」とかいうポリコレを意識し過ぎた大幅な変更点もあるが、今の時代じゃ最早ありがち過ぎる事なのでさほど気にしないことに。

ドラマオリジナルの設定・展開について


(これ以降はネタバレ含むので、初見でネタバレされたくない方は今すぐにドラマを視聴するかゲームをプレイして、どうぞ)


「実写化されるというのであれば、ゲームの内容を忠実に再現してほしい」と思う一方で、原作で既に表現し切ったことをそっくりそのまんまなぞるだけならゲームをプレイすればいいだけの話なので、ドラマというメディア形態を活かしたオリジナリティのある変化もあって欲しいとも思う。本ドラマはそんなワガママな視聴者にも応えてくれる場面をいくつか用意してくれた。

特にドラマオリジナル要素としての良さが見られたのは第3話。この話では原作ゲームの中盤で登場する「ビル」というキャラクターの話がクローズアップされた。粗暴で他者を寄せ付けない性格だが、サバイバル能力に長けており、感染者の蔓延るマサチューセッツの郊外部、リンカーンを生き抜いてきた。物語中、移動手段の車を求めて訪ねてきたジョエルとエリーを不本意ながら手助けすることに。

ゲーム版「ビル」としっかりそっくり

ジョエルとエリーが現れる少し前、ビルにはフランクという同性のパートナーが居たが、喧嘩別れした後別のパートナーを見つけ、その後自殺してしまったことが明らかとなる。なお、原作ゲームではフランクについてはあまり深掘りはされず、そもそも生きた姿で登場しない為「なんか知らんがあまり良好な関係とは言えず、最後には破局してしまったジョエルと知り合いだったゲイカップル」といった印象の二人であった。

ドラマ版ではビルとフランクが如何にして終末世界を共に生き、如何にして関係が悪化して、その後ジョエルと再会して彼らを手助けするのかが描かれると踏んでいたが・・・「もしビルとフランクが最後まで仲違いせずに何方も生き延びていたら」という if ストーリーが描かれるとは思わなかった。

1話分の枠をまるまる利用し、髭面の男性同士が濃厚な愛を育むという場面が続くので、抵抗を感じる人も少なからずいるかもしれない。捉え方は人それぞれだが、性別関係なしに愛し合う者同士の物語として観ると、ゾンビ(?)アポカリプスものでこれほど儚くも美しい愛の物語がかつてあっただろうかと考えさせられる。

本ドラマ初登場となるビルのパートナー「フランク」

原作ゲームにおけるリンカーンでのビルとの再会は多数の感染者を駆逐するアクション要素満載の楽しいシークエンスだったが、ドラマ版では残念ながらそもそもビルとジョエルが相見えることはない。しんみりとしたゲイカップルのラブストーリー回顧録に変わっていて少々残念に思う気持ちもあるが、ヒューマンドラマこそラスアスの醍醐味だし、これに関してはとても良い改変だったと思った。ベストエピソードと評する人が多いのも納得できる。

ほかにも1話をまるまる使うほどではないにしろ、原作ゲームでは語られなかったアウトブレイク発生前の様子や、一部登場人物のエピソードなど、既プレイ層もドラマを見るメリットがしっかりある。

全9話という物語構成について


ある程度褒めた後、貶すのがおんりスタイル(?)


ドラマというメディア形態になったことで付随していたゲームシステム部分を気にせず、じっくりラスアスの世界観を描いてくれると期待を膨らませて視聴を開始したが
・・・余りにも短すぎる。

ゲームの実写化というコンセプトそのものへの期待値が低くて上層部から十分な予算が下りなかったのかなあと、製作を行う上での裏側を変に気にしてしまう。(実写版HALOの件とかもあるし、超有名ビッグタイトルでも実写化するとコケる印象がまあ強い)

前項では「ドラマオリジナル要素があって良い」と言ったが、ただでさえ尺が足りない本筋の物語に更にねじ込むような形で挿入されている為、消化不良なまま物語が進んでいき、気が付いたら終わってしまったというような印象がある。

ゲーム同様「テス」にとある展開が訪れるが、ドラマ版だと何とも・・・

含めるべき重要な要素の選定自体は上手に行っており、原作ゲームのエッセンスを残した上で最低限破綻しないよう話を収めてはいるが、余裕をもって2シーズン構成にして、じっくり物語を描いてくれればもっと上を目指せたかもと考えると本当に惜しい。

何よりラスアスをラスアスたらしめた以下二つの要素が大きく削減されているのがあまりにももったいない・・・。

①世界中に蔓延る狂暴な感染者達の描写
②様々な危機を乗り越える中でジョエルとエリーが絆を深める描写

まずについて
特殊メイクに使う為の金が工面できなかったのかは知らんが、感染者との遭遇シーンが少ない!ラスアスの核となるヒューマンドラマを重点的に描くのは結構なことだし、感染者がいっぱい居ればそれだけでいいってことでもないけど、ゾンビ(?)アポカリプスものだっていうのに全体通してエンカウント数が片手でも数えられるレベルなのはどうなのさ・・・。(終盤5分で雑に感染者が大群で襲い掛かるシーンぶち込んだ〇話があるけどあれはノーカンで)

ゲームでも登場した中ボス的感染者「ブローター」

ドラマ内での感染者出現数があまりにも少ない為、この世界で生きていく上での大きな脅威であるという実感が薄れてしまう。「感染に対する抗体を持つエリーを無事に病院に送り届けることが治療薬を作るために残された唯一のチャンス」というプロットが基となり物語は進んでいくけど、この様子なら別に治療薬要らねんじゃね・・・?とか思えてくるほどである。

について
これについては、このドラマが初見でゲームをやったことがない層はさほど気にしていない点なのかなあ・・・。

致命的ではないにしろ、原作を知っているとどうしても物足りなさを感じる出来。限られた時間の中でいかにゲームの内容を簡潔にまとめるか、という側面で考えればよく頑張ったほうと言えるかもしれないが、全体的に駆け足気味なペースで進んでいくので、思った以上にキャラクターに感情移入が出来ない。物語の中でキャラクターの心情に大きな変化を及ぼす場面が訪れても、重みや深みをなんとなく実感できずにあっさりと処理されてしまっている感が否めない。

ドラマに落とし込むうえで全てを再現することが出来ずに削減する箇所が出てしまうのはしょうがないとは思うが、原作ゲームをプレイした身からすると大幅に削減されてしまった「一見ドラマには不必要なゲームっぽい部分」にこそジョエルとエリーの切っても切れない絆の大部分が集約されていたと思うので非常に勿体ない。

迫り来る感染者や盗賊といった危機を協力して掻い潜る激しい「戦闘パート」と、僅かな平穏の中で物資を探りつつ何気ない会話をして心を通わせる静かな「探索パート」をジョエル・エリーとしてプレイヤー自身がゆっくり時間をかけて実際に追体験するからこそ

当初は「配達中の荷物」であったエリーに銃を持たせなかったジョエルが、物語の中盤で「共に闘う相棒」としてエリーを信用し、武器を渡したシーンに・・・

老いた身では無事に役目を果たせないと判断したジョエルが他の者にエリーの護送を任せようとし、そのことを悟ったエリーが涙ながらにそれでもジョエルと共に旅を続けたいと訴えたシーンに・・・

治療薬を作る引き換えにエリーが犠牲となってしまうのを知った途端、ジョエルが今までの努力と人類存続のチャンスを投げ捨て、娘同然となった少女たった一人の命を救うため全てを敵に回したシーンに・・・

甚く心が動かされたんだろうなあとしみじみ考える。

さいごに

ある程度の視聴者数をしっかり獲得出来たし、興行収入も悪くなかったので続編となる「The Last of Us Part 2」の物語を描くシーズン2も放映される予定となっている。しかし、こちらに関してはゲームそのもののストーリーが賛否両論となっているので、果たしてどうなることか・・・。ドラマ化で原作ゲームを上回るパターンを期待したい。

後半に不満点を語ってしまい、マイナス印象が強く残ってしまう良くないレビューとなってしまったが(いつもの)とにもかくにも本作「The Last of Us」はビデオゲーム実写化作品の中では随一の出来となっているので、U-NEXTに登録している諸君は是非とも見ていただきたい。

・・・出来れば原作はプレイしておこう。後悔はしないはずだから。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?