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第26話 均衡のスコアカード

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クレイフィッシュ、楽天、ICGから、僕らプロトレード 社への、具体的な買収提案の条件が出揃いました。簡単にスコアカード風にまとめると、こういう感じ。

会社の発展性  : 1.楽天、2.ICG、3.クレイ
株式買取評価額 : 1.クレイ、2.楽天、3.ICG
給与      : 1.ICG、2.クレイ、3.楽天

こう並べてみると、どこが明確に良いとは言えなくて、立場によって意向が変わるであろうことは、ご理解いただけると思います。

時計を今に戻し、現在の楽天の姿を知っている立場であれば、そんな選択、簡単じゃね。と思うかもしれませんが、2000年当時の楽天は、まだまだ怪しい状況。多角化経営に踏み出す前の、ショッピングモール屋さんでした。


ジョージ・パットン将軍に影響を受けていた僕は、改めてあの素晴らしい本を開きます。そこで、この二つの言葉が飛び込んできました。

統治せよ。しかし独裁するな。

やるときはキッパリと。

そうか。と膝に手を打ちましたね。

ここは勝手に一人で、独裁者のように決めてはいけない。皆の意見をちゃんと聞こう。意思決定のプロセスに巻き込むってやつだな。

でも、最後にキッパリと判断を下すのは、俺の役割なんだ。


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松涛のプロトレード ・オフィス。時計は深夜をまわっていました。

ワンフロアを、ネットエイジがインキュベートする3社でシェアするよう、ついたて壁で、間切されていました。

隣はファイン・ワインというワインポータルを作っていた会社で、時々試飲会を開いてくれたりして、楽しかったですね。

(このファイン・ワイン社は、後日シグニチャー・ジャパン傘下になり、シグニチャーは楽天に買収され、巡り巡って、佐藤さんが責任者になる。という運命を辿ります。

お酒の強い佐藤さん、そんな形で責任をとらされた。もとい。責任を全うされたということでしょうか。この世の中、悪いことはできないように出来ていますね。)

もう一社は、J-Surplus。西川さんお気に入りの、スタンフォードを出たばかりのアメリカ人、パトリックと、グレイヘアーの浪江さんが始めようとしていた、余剰在庫破棄のビジネスでした。

(こちらは、パトリックの謎の失踪というオチで、残念ながらサービスローンチに漕ぎ着けませんでした)

僕らは角部屋をゲットしていたので、窓が2面に広がっており、なかなか気持ちがよいスペースでした。

アスクルさんが当時コクヨさんと展開していた、ちょっとお洒落目ブランドの、少し大きめな机を入れていました。

ライムグリーンの低めのパーティションがあって、椅子も、青とか赤とかで、ちょっとカラフルな感じにしましてね。お金はかけてませんでしたが、シャビーになりすぎないよう、雰囲気には拘っていました。

ここのオフィスで仕事をすることも、あと僅かかもしれないなぁ。

僕は、少しの郷愁を感じつつも、「いやいや、まだ何も決まっていない。明日は、きちんと社員と向き合って、彼らの意思をちゃんと理解しなきゃ。最後まで気持ちを引き締めていかないと。」と意を新たにしたのです。

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翌朝、社員含めた、全チームメンバーと、買収提案について共有したのち、個別に、各人の意向を聞くことにしました。

まずは、佐藤さんです。
基本いつも、上下スーツ姿です。足元は勝負用のハイヒールを履くときと、ゆるいパンプスやスニーカーを履くときと、見事に使い分けていました。そのストイックな姿勢は、ここはニューヨークじゃないかという錯覚を引き起こすほどです。

彼女は、こんな複雑な状況でも、いつものようにテキパキと、帰国子女(じゃないのに)みたいなノリで、ザクザクと答えていきます。

楽天はB2Bの立ち上げができるので、マル。

ICGもプロトレード というブランドが残りそうなので、マル。

だから、どっちもどっちです。

そうしますと、給料はICGがいいから、私はそっちがよいとおもふ。(結論:ICG)



次は、岡田さん。
プロトレード のシステム開発を仕切ってくれたCTOです。しょうゆ顔で、どことなくインディーズバンドのメンバーにいそうな風情。

バンドに例えるなら、ベースプレイヤーですね。「もう疲れた」って、日に50回くらい言いながらも、長時間働くのが特徴です。会社のグルーブを支える上で、良い味を出していました。

プロトレード のサイトがオープンする直前。横浜のとあるデータセンターで、僕らのサーバーが稼働した時、クールな岡田さんの顔が、本当にキラキラしていたことが、印象に残っていました。

(ちなみに、そのサーバーは、現アカツキ社外取締役、IBM勝屋さん所属の、ベンチャー支援組織、NetGen チームから無償提供いただいたものでした。)

でも、この日は、通常運転モードの岡田さんです。朝から疲れた感じでした。口癖が「まぁ」で、ゆっくりと話します。

まぁ、俺としては、プロトレード としての発展性を考えると、技術がある楽天とやるのがいいと思うんだよね。

でも、まぁ、自分のキャリアとしては、ICGの方が、(技術だけじゃなくて)上流にいけそうだと思う。

まぁ、楽天だとさ、コマの一つになる気がするからね。(結論:ICG)


役員2名との面談は終わりました。ランチ前の集中したセッションを終え、やたらとお腹が減りました。

二人とも、消極的選択ながら、ICG推しだったのが意外でした。でも、やっぱりサラリーマンに戻るなら、ちゃんと給料は欲しいよな。という気持ちは、共感できました。


次なるセッションは、社員+アルバイト達とです。

役員は創業時に出資してもらいましたので、株も持っていますし、ある意味一蓮托生。でも、社員は違いますからね。気が重かったです。

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