河童丼
ずっとああしようこうしようと考えていても実現にまで至らないことはよくある。と云うか、至らないことばかりである。大体の事が机上の空論であったり捕らぬ狸の皮算用だったりする。実行しても即座に企画倒れになることも多い。アイディアは出ることは出るが大半が使えないものばかり。それなのに、ふと思い付いたことを即座に実行してみたらそれが大当たりすることもある。それならばあまり考えたりせずに思い付いたことをどんどんやれば良いではないのかと思われようが、それは十中八九、いやほぼ全弾命中せずに終わる。大当たりのタイミングは突然巡ってくる。そのタイミングを逃さないようにするしかない。そのためには日々何を心掛けてどう暮らしていたら良いのかと、そう云う自己啓発的な文章を書くつもりではない。
簡単に美味しいものを作って食べたいといつも考えている。そのアイディアがふと浮かんだので、それを作って食べたら美味しかったのだ。一応、そのアイディアが浮かぶ前に、色々と考え続けていたのではある。簡単に申し上げるとキュウリ丼はどうやったら出来るかと考えていたのだ。それも池田満寿夫先生の『男の手料理』よろしく、ほんの数行のレシピで簡単に美味しく出来ないものかと模索していた。なるべく調理工程を経ずに、材料などの要素も少なく、なんだそんなものかと呆れられるくらいに明確なもの。それをご紹介する。もしこれがよくあるものであったら、自分の不明を恥じるのみ。先に謝っておこう。申し訳ありません。
キュウリを用意する。冷蔵庫にキュウリがなければ買ってくる。それくらいの手間はかける。このところ暑いのであまり出かけたくないが、仕方がない。
キュウリを切る。切るくらいはなんとかやる。下味を付ける。いや、もうそんな下味なんて面倒だ。面倒なので付けない。キュウリの切り方は雑にこんな感じ。いや、この形状には意味があるのだ。輪切りにも千切りにも乱切りにもしなかった。再現したかったのは、寿司のかっぱ巻の中にあるキュウリの形状である。かっぱ巻の一切れの中にこれくらいの形状でこれくらいの長さで入っているはずだ。キュウリは切り方によって食感も味わいも変わる。これは何かの本で読んだ受け売りだが、確かにそう思う。なのでこの切り方を採用した。ここまで読んで見当の付いた方もいらっしゃるだろうが、その通り、巻かないかっぱ巻を作ってみたらどうなのかと思い付いたのだ。かっぱ巻ならぬ、河童丼である。他にも省略可能な要素は出来るだけ省略したいと考える。キュウリの下拵えはここまで。
ご飯を丼によそう。酢飯にしようなんてそんな大それたことは考えない。海苔も予め刻んであるのを使う。自分で海苔を切ったり千切ったりするのも面倒に思う。
そこに先程切ったキュウリを載せる。もうほぼ完成に近い。ゴールまであと少しだ。
どんなにずぼらでもワサビを忘れてはいけない。ワサビがあるかないかで世界観は大きく変わる。ワサビがあるだけで、既に寿司に何歩も近付いている気持ちにならないだろうか。
更に海苔もある。最小限の要素ながら強い印象のものが二つもある。これで良いのではないか。完全に確信したわけではないが、このルックスが何となく正解に向かっているように思えたのだ。このまま進もう。前進あるのみ。
さあ醤油だ。以前茨城県ひたちなか市に行った時に入手した、黒澤醤油店の醤蔵(ひしおぐら)と云うお醤油である。以前、醤油ご飯の記事を書いた時に、醤油を色々と入手して試したこともあって、醤油は多く揃っている。その中で、この醤蔵が何となくピンと来たのだ。きっとこの取り合わせに合うと閃いたのだ。閃きは大事にしたい。人生で何度も何度も自分の閃きに裏切られて来たが、いや自分の閃きなんてほぼ的外れだと思い知っているが、それでも閃きは魅力的で中毒性があるのだ。それはいいか。先に進む。
醤油をかけて河童丼の完成である。レシピをまとめれば、ご飯を丼によそい刻み海苔をかける。切ったキュウリを載せて、ワサビを添えて醤油をかける。これだけだ。簡単でしょう。自画自賛。自らを褒めよ。自分ブラボー。
さあ食べてみよう。祝福の時は近い。
ウマウマウー。過不足ない。これでイイじゃないか。河童丼サイコーだ。ウマイ。簡単に出来てこれなら本当に文句なし。更にはスーパーとかで買ったかっぱ巻の酢飯が甘すぎたり塩っぱすぎたりと云ったことに心乱されることもない。醤油とワサビだけで整う。そして海苔だ。海苔が偉い。天才だと思う。海苔と醤油とご飯だけで成立するのだが、こうしてキュウリを加えるとちゃんとご飯とキュウリの関係性の橋渡しを海苔が担当してくれるのだ。何て健気なのだ海苔は。海苔ありがとう。ありがとう海苔。
ウマウマウー。本当にウマイのだよ、これが。今年の夏は河童丼を食べて暮らそうかとも思う。少し白胡麻をふりかけても美味しそうだ。そしてキュウリをアボカドに置き換えても河童は許してくれるのではないかとも思う。僕は今、とても晴れ晴れとした気分だ。河童と歓びを分かち合おうと思う。この辺りに河童がいれば、だが。
ウルトラセブン第41話「水中からの挑戦」放映から54周年。ここで出逢った河童ちゃん(正確にはテペト星人)との付き合いも随分と長い。これからも河童を大事にして生きて行こうと思う。最近世の中はまたえらいこっちゃになっているが、やはり前進あるのみ。注意を怠らずに、この夏を楽しみましょう。
末永くがんばりますのでご支援よろしくお願い致します♫