シャウエッセン丼

急にどうしたかと思われましょうが別にいつも通りです。思い付きでパッと動く非慎重派です。慎重になるべきことは慎重にやりますがそれ以外は軽薄です。日本ハムのシャウエッセンがどうしても食べたくなって買ってきました。

今はコンビニだとこんなパッケージで売っているんですね。存じ上げませんでした。なぜシャウエッセンでなければならないか。伊藤ハムのアルトバイエルンではいけないのか。他にもリーズナブルで美味しそうなのがいっぱいあるけれどそれではいけないのか。その答えはただ一つ。以前やっていたご長寿の方々が出演するテレビ番組で、とある女性の方が「自分の人生色々大変だったが、年を取ってからとても美味しいモノに巡り会った。だからそれを励みにがんばれよと若い頃の自分に云ってあげたい。その美味しいモノとは、シャウエッセン」と云うモノローグだか何かが紹介されていたのを観た。苦難の人生の帰結がそれかと云う呆気なさに思わず笑ってしまったが、僕はその女性に大いに共感したのだった。自分にピッタリとフィットする幸せに大きいも小さいもない。それを見つけられたのならそれ以上のことはない。誰が何と云おうと、皆に笑われようと、それでいいのだ。そうした僕の考え方のセンターにシャウエッセンと云う言葉が刻まれたのだった。だからこの場合はウインナーソーセージが食べたいのではなく、シャウエッセンが食べたいのだと明確にお答えが出来る。納得して戴けただろうか。

シャウエッセンは1985年に発売された本格的ウインナーソーセージのパイオニア。それまでの赤ウインナーやら魚肉ソーセージやらのあの感じを一気に超越して粗挽き肉の食感の妙を全国津々浦々に浸透させた先駆者だ。若かった頃の僕もこれを食べてこんなに本格的な味が家で食べられるかと感動した。フライパンで焼かずに茹でて食べると云うのも新鮮だった。でもご飯のおかずにするなら焼いた方が良いと云うのが当時の我が家の見解だった。その前にウインナーソーセージがご飯のおかずになるかどうかの問題もあるが、我が家の回答は「なる」で完全合意を締結しており、朝などはとにかく大量のシャウエッセン、またはそれに準じたウインナーがフライパンで焼かれて大皿に盛られている光景が頻繁に見られた。他にも多種多彩なおかずが大量に並んでいた中でもシャウエッセンの売れ行きはずば抜けて優秀な成績で、僕の食卓への到着が少しでも遅れるとそれらは容赦なく霧消していた（弟二名の圧倒的なパフォーマンス・僕は長男）。そんなことを思い出していたら僕はシャウエッセンが食べたくなった。それも朝に、ご飯と一緒に。

面倒だからと云うわけではないが、シャウエッセンをご飯に載せてシャウエッセン丼と洒落込んでみた。ご飯の上におかずを載せると、それは丼と云う新たなステージに達することとなる。池田満寿夫『男の手料理』に登場するコロンブスの卵丼よろしく、あまりにも呆気なく進化して深化するのである。以前ならフルサイズの丼にご飯をたっぷり盛って、シャウエッセン一袋全部オンの仕様にするところだけれど、今は朝にそんなに食べられなくなったのでミニ丼となってしまったことを深くお詫びする。朝からすき焼きでもとんかつでもステーキでも食べられると云うのが僕のアドバンテージだと思っていた。いや、待てよ。そう云うスタイルに変えて行っても良いのか。以前加山雄三さんとお話しさせて戴いた時に、朝からヒレステーキ食べるんだよと仰っていたのを思い出した。それでもう午後からは食べないとも。そうかそうか。世界が驚愕する事実としては僕もあと一年半で生誕60周年となる。いつまでも20代30代の頃の食べっぷりを誇ると云うわけにいかない。自分に合った自分のスタイルを見つけないといけないフェイズに差し掛かってきた。ギタリストの自分としてはフェイズと云えばフェイザーと云うエフェクターを即想起してしまうがすみません関係ありません。とにかくここからは技巧派に転じなければならない。120kmのストレートを如何に速く見せられるか。いやそんなに直球の速度はない。そもそも直球すら投げられない。どうしよう。そこはそれで悩むところではない。物の例えだ、例え。準えているのだ。読めますか。なぞらえている、ですよ。いやちょっと待て、話はどこへ行った。と云うよりどこから来た。

ウマウマウー。ご飯が好きなのでご飯のある生活をする自分でありたいと思う。自分に合ったサイズ感ボリューム感もそのうち見つかるだろう。ふとシャウエッセンを囓るとこんなに塩気があったかと驚く。昔はこれに塩コショウして更にソースやらケチャップやらを付けて食べていた。今はもうそんなのはトゥーマッチだ。ほら、もう随分と変わってきているのだよ。それを減退だとか衰退だとかとは僕は考えない。考えようもない。進め進め、前へ進め。シャウエッセンの塩気や脂気をご飯の仄かな甘みで拭うようにして食べていると、今日の新しい世界が見えてくるような気がした。それ行けやれ行け。現世を楽しめ。楽しみ尽くせ。お楽しみはこれからだ。よしやるぞダイエット。どの口が云う。野菜も食べないとね。まとまらないな。まあいいか。