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【詩】 ここにいないみたいに

まるで私はここにいないみたいに
 賑やかないちの通りを歩いていたい
  他人事のように歩いていたい

 目を閉じて歩く十歩先に
  知らない街が広がっている
   わちゃわちゃした街並みに

  人は各々の生業なりわいに身を投じ
   私はそれを他人事みたいに眺めて
    何にも触れずに歩いていく

鉄板で油のはじける音
 人混みをかきわけるスクーター
  かぼそく投げ出される歌声

 いくら視線が重なっても
  誰とも目が合うことのない
   ひとりきりの、形のない心持ちで

  私が吸う空気だけじゃない
   空気を吸うこの体さえ
    きっと今は借りものに過ぎなくて

目を閉じて耳を澄ませば
 付かず離れず多くの音が鳴っている
  私の在り処ありかは定位されないまま




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