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【詩】 声

届かなかった声が
かすかな空気の波になって
ずっとどこかをさまよっている

行き先のないその声は
公園の池の面を揺らして
薄く静かな波を起こしたり
手すりにもたれる人の
首すじの脈をさすったり
遠くに散らばるおぼろげな
街の明かりを揺らしたり

どこにも辿り着かずに
声は空中をさまよいつづけ
通り過ぎる車のエンジンと
風を切る音に撥ねられて
空の遠くへ飛んでいく

届かなかった声は
空じゅうを漂い
町じゅうを漂う

…………

   大きな耳のうさぎが
   風船の紐につかまって飛んでいる
   誰にも届かなかった声たちを
   集めて集めて飛んでいる
   集めて集めて、飛んでいる




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