【シナリオ】おじさんはケービーン 3
○ショッピングモール駐車場・警備室
栗平「いやー、エビちゃん、お手柄だったな!」
鶴川「センパイ、実はデキる人だったんっすね! それにしても、よく指名手配犯だって分かりましたね」
秦(大和)「あのね! ボクがみつけたんだよ!」
秦(大和)、ニコニコして自分の顔を指さす。
秦の心の声「あっ、おい、お前また勝手に!」
鶴川「は? え、センパイどうしちゃったんですか急に。さっきまであんなにかっこよかったのに……」
栗平「はるひちゃん、コイツ、ちょっといろいろあってさ。きっと情緒不安定なんだよ。俺たちで温かく見守っていこうな」
秦(大和)「ジョーチョフアンテーってなぁに?」
秦(大和)、可愛らしく首をかしげる。
鶴川「うわ、きっつ……」
栗平「おいおいー、エビちゃん今日はえらく可愛いじゃないか。キャラチェンジか?」
鶴川「いやいや、隊長。全然可愛くないですよ、目ぇ大丈夫ですか」
秦(大和)、猫を見つけ、近寄って嬉しそうに撫でる。
秦(大和)「うわぁっ、ニャンコだ! ニャンコ! かわいいーっ! ニャン、ニャン」
鶴川、世にも恐ろしいものを見たような表情。
秦の心の声「もうやめてくれぇーっ!」
○公園・ベンチ(夕)
秦「いいか、もう勝手に俺の体に乗り移ったりするんじゃねーぞ!」
大和「はーい」
秦「気のない返事するとこもお前のママにそっくりだな」
大和「ママとおじさんは、こいびとだったの?」
二人から少し離れたベンチで、高校生の男女が仲睦まじい様子で寄り添っている。
秦、高校生カップルを眩しそうに見つめる。
○同・同(夕)(回想)
秦と蛍、二人とも前を向いたままベンチに並んで座っている。
蛍「明日だね」
秦「そうだな」
蛍「元気でね」
秦「お前もな」
蛍「寂しくなるね」
秦「……そうだな」
秦、蛍の顔を覗き込む。
蛍、静かに泣いている。
秦、蛍の手に触れようとして、少し躊躇した後、やめる。
秦「泣き顔ブッサイクだな。……お前はずっと笑っとけよ」
(回想終わり)
○同・同(夕)
秦「俺たちは、手をつないだこともなかった」
大和「おじさん、ママのこと、すきなんだ。ボクとおんなじだね」
秦、ゆっくりと俯く。
秦「お互いの気持ちは分かってたんだ。でも、二人とも変に意地になって、相手が言うのを待ってた。最後まで。そのまま、俺は引っ越していって。社会人になってこの街に戻ってきたんだ。どこかで偶然会えたら……って期待していた気持ちはあった。俺から連絡することはできなかった。アイツにはもう他に大切な人がいるかもしれないし、幸せを邪魔することになったらいけないし。……なんてのは勇気を出せない自分への言い訳だった」
地面にポタッと雫が落ち、その部分の砂が黒くなる。
秦「(涙をごまかすように)お前、また俺の中に入ってるのか?」
大和「ううん、はいってないよ」
秦「そうか」
大和「おじさんは、こころがキレイなんだね。ボクのことみえるし、ボクがはいることもできる。ほかのひとにはできない。ほかのひととちがうってことは、こころがキレイだからなんだよって、ママがいってた」
× × ×
(フラッシュ)
蛍「秦くんは、心がキレイなんだね」
× × ×
秦「……そうか」
秦、嗚咽をこらえきれず、両手で顔を覆い、むせび泣く。
大和、そっと秦の背中に手を当てる。
○マンション・秦の部屋(夜)
秦「お前、昨日の夜はどうしてたんだ? 幽霊って寝るのか?」
大和「ねないけど……よくおぼえてない。そとにいて、きづいたらあさだった」
秦「外って……これからは俺んち来いよ」
大和「でもべつにボク、さむくないよ」
秦「お前がよくても俺が嫌なんだよ。こんな子供を冬の夜に放っておけないだろ、たとえ幽霊でも。心がギュッとするわ」
大和「じゃあ、きょうからここがボクのおうち?」
秦「そうだよ」
大和、ペコリと頭を下げる。
大和「これからよろしくおねがいします」
秦「(笑いながら)ちゃんと挨拶できて偉いな。アイツ、一人で子育てなんてできてたのかってちょっと不安だったけど、心配することなかったな」
○同・同(夜)
ワンルームの室内に、筋トレ用具がいくつか置かれている。
大和「これなぁに?」
秦「筋肉を鍛えるための道具。通販番組とか見ると、つい買っちゃうんだよな」
大和「きたえるの、すきなの?」
秦「まあ、趣味……って程でもねーけど、休みの日はやることないからさ。外走ってくるか、筋トレするか、寝てるくらいしか」
大和「だからあんなにスゴイうごきができるんだね!」
秦「確かに仕事柄役に立つし、筋肉は裏切らないからな」
大和「きんにく、えらいね」
秦「そうだぞ、筋肉は偉いんだ」
○同・同(夜)
秦、冷蔵庫を覗いている。
秦「そういや、幽霊ってメシ食うのか?」
大和「おなかすいたっておもわない」
秦「じゃあ俺の分だけでいいな」
大和「おじさん、じぶんでつくるの?」
秦「毎日じゃないけどな」
大和「おじさんのごはん、ボクもたべてみたかったなあ」
秦、バナナとリンゴを小さくカットし、ミカンの皮をむき、皿に並べる。
大和「フルーツだけ?」
秦「こっからがメインだ」
秦、大量の納豆をフルーツの上にかける。
秦「よし、完成!」
大和、唖然とした後、顔をしかめる。
大和「やっぱりボク、ユーレイでよかった」
○同・同(夜)
秦、タオルで髪を拭きつつ、バスルームから出てくる。
秦「ふー、いいお湯だった」
秦、部屋の中を見回す。
秦「あれ? 大和、どこ行った?」
秦、キョロキョロしながらクローゼットの扉を開ける。
秦「うわああっ」
大和、クローゼットの隅で膝を抱えている。
秦「な、な、何してんだよそんなとこで! 驚かすなよ! 心臓が口から飛び出るかと思ったわ! いや、ちょっと出たかも」
大和「ねむくはならないんだけど、こういうところで、こうしてたほうがおちつく」
秦「何だよそれ、幽霊の習性? ホラー映画って割とリアルなの?」
大和、目を開けたまま静止している。
秦「おい、何の前触れもなく省エネモードになるなよ。それ怖いからやめて」
大和「おじさんってユーレイこわくないんじゃないの?」
秦「俺が見たことあるのは、お前みたいにパッと見フツーの人間と変わらない姿だけだから。よーく見ないと区別つかないぐらいだし。『いかにも!』みたいなのはダメなんだよ」
大和「ふーん?」
× × ×
秦、布団で眠っている。
何かの気配を感じ、ぼんやり目を開ける。
暗闇の中、大和が秦の顔を覗き込んでいる。
秦「ひいいいいっ」
秦、驚いて飛び起きる。
秦「お、お、お前っ! 枕元に立つなよ! シャレになんねーだろーが!」
大和「だって、することなくてヒマなんだもん。だからこうやっておじさんのかおみてた」
大和、目を開けたまま静止する。
秦「だからそれやめてっ!?」
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