【シナリオ】おじさんはケービーン 2

前話:おじさんはケービーン 1

○警察署・ロビー(夜)

   栗平、入口から秦と渋沢の姿を確認し、やってくる。

栗平「どーも、どーも。ご迷惑おかけしましたぁ。好奇心旺盛なんですよぉ、この子。もう35なんですけど。童顔でしょ?」

渋沢「私より年上じゃないか。おい、二度と勝手に現場に入るな……入らないでくださいよ」

   秦、ぼーっとした表情で黙っている。
   大和、秦の後ろにずっとついている。

大和「やっぱりおじさんじゃん」

   大和の後ろの壁に、ポスターが貼ってある。


○同・駐車場・車内(夜)

栗平「何があったんだ?」

秦「殺されたの……俺の昔の知り合いなんです。息子が一人いて……その子も一緒に殺されたらしくて。アイツとは高校の同級生で、でも俺が卒業前に引っ越していって、それっきりだったんですけど。アイツ、シングルマザーだったらしくて。俺にはもう、何が何だか」

   栗平、運転席から静かに助手席の秦を見つめ、やがて車を発進させる。
   大和、後部座席に座って両足をブラブラさせている。


○ショッピングモール駐車場・ベンチ(朝)(日替わり)

   秦、制服姿で缶コーヒーを片手にぼーっと座っている。
   大和、隣に座り両足をブラブラさせている。

秦「おい、お前、いつまでくっついてくるんだよ? ひょっとして俺、とりつかれちゃったの?」

大和「ボクのことみえるの、おじさんだけなんだもん」

秦「だから俺はおじさんじゃない。お前のママと同い年だよ」

大和「ふーん」

秦「お前、名前は?」

大和「いくたやまと」

秦「大和か。かっこいいな」

大和「そーでしょ、そーでしょ!」

   大和、ニコニコして秦を見上げる。
   秦、苦笑いをうかべる。

秦「褒められるとすぐ調子乗るとこ、そっくりだなアイツに」

   大和、遠くを見て何かに気づいたような顔をし、指をさす。

大和「あっ! わるいひと!」

秦「は? 悪い人?」

大和「ケーサツでしゃしんみた! おじさんもケーサツでしょ? つかまえなきゃ」

秦「俺は警察じゃなくて警備員。そしておじさんでもない。写真って……まさか指名手配犯?」

大和「ケービーン?」

秦「似てるやつがいたってだけだろ。そんなちょっと見ただけのポスターの顔写真なんて、覚えられるわけないだろ」

大和「ボク、おぼえられるもん! いちどみたらねえ、わすれないの」

秦「うそつけ……いや、そういえばあのアパートにあったパズル……まさか本当にお前が? 瞬間記憶能力ってやつ?」

大和「おじさん、はやくおいかけないと、にげられちゃうよ」

秦「おじさんじゃ……おい! ちょっと待て、待てって……うわあっ!?」

   大和、秦の体に乗り移る。
   秦、体が勝手に走り出す。

秦(大和)「いそいで、おじさん!」

秦の心の声「うそだろぉーっ!?」


○ショッピングモール・屋内

   男、向かってくる秦と目が合った瞬間、走り出す。

秦の心の声「げっ、何で逃げるんだよ、本物じゃねーか!」

   秦(大和)、慌てて男の後を追いかける。

秦(大和)「ダメだ、おいつけないよぉ……」

秦の心の声「あーもう! しょうがねえな! 分かったよ! 分かったから、俺から出てくれ! 俺が追いかける。警備員なめんなよ!」

   大和、秦の体から離れる。
   秦、物凄いスピードで走り出す。
   男、階段を駆け下りていく。
   秦、階段脇の手すりの上を足で滑り降りる。
   開けた空間に複数の不思議な形をしたモニュメントが存在している。
   秦、モニュメントと床の間にできた空間をスライディングしてくぐり抜ける。
   男、店先のワゴンを秦に向けてひっくり返す。
   秦、ワゴンをひらりと飛び越える。

大和「おじさん、すごーい!」

   秦、男に追いつく。

男「くそっ!」

   男、立ち止まって振り返り、ポケットからナイフを取り出しカバーを投げ捨て、向かってくる。
   秦、男に突進する。
   男、予想外の動きに怯みながらナイフを突き出す。
   秦、男のナイフを持った手を掴んで自分の後ろに向かって引く。
   男、バランスを崩し、秦にもたれかかる。
   秦、男のナイフを持った手に膝を思い切り叩きつける。
   男の持っていたナイフが吹っ飛び、床を滑っていく。
   秦、男の腕を掴んだまま更に引き、男の背中を掴み、床にねじ伏せる。
   男の背中に膝から乗り上げ、男の腕をねじりあげて固定する。

秦「確保ぉ! 応援呼んでくれ! あと警察!」

   と秦、遠巻きに見ている人々に叫ぶ。

   ×   ×   ×

   秦、人込みから離れて床に座り込む。
   激しく息を切らしている。

秦「いやー、まだまだいけるもんだな……ゴホッゲホッ、ウエッホォッ!」

大和「おじさん、だいじょうぶ? おみずのむ?」

秦「だから俺はおじさんじゃなくて……まあいいか、もう」

   秦、手足を広げて床に寝転がる。

秦「あー、俺も年とったなあ……」

大和「おじさん、すごくかっこよかったよ!」

秦「そりゃどーも。しっかし、お前の記憶力、確かだったな。すごいよ」

   大和、満面の笑みでピースサインをする。

次話:おじさんはケービーン 3

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?