【シナリオ】おじさんはケービーン 1

○公園・入口(夢)

   海老名秦(16)、遊歩道を歩いている。
   生田蛍(16)、モニュメントの前で、ふてくされた表情。

秦「おーい、蛍! お待たせ」

蛍「遅いよ! また遅刻!」

秦「そんなに怒るなよ、いつものことだろ?」

蛍「だから怒ってるの。ううん、呆れてるよ、もう」

   秦と蛍、言い合いながら歩き出す。
   周りには色とりどりの花が咲いている。

   (夢終わり)


○ショッピングモール駐車場・ベンチ

   秦(35)、木陰のベンチに横たわり、制帽を顔にかぶせて眠っている。
   鶴川はるひ(22)、秦のそばまで小走りでやってくる。

鶴川「センパーイ、休憩終わりっすよぉ。起きてくださーい」

   秦、体を起こし、手にした制帽をかぶる。

秦「夢か」


○同・入口付近

   秦と鶴川、車を誘導している。

秦「ツル、髪切った?」

鶴川「……三週間前に」

   鶴川、秦を不満そうな顔で睨む。

秦「マジ? いやあ、俺の平凡な日常を揺るがす程の変化じゃないからさあ。坊主にするぐらいしてくれないと」

鶴川「怒りますよ」

   駐車場向かいの住宅街から喧騒が聞こえる。

秦「なんか向こうの方、騒がしくないか?」

   鶴川、秦に近寄って声を潜める。

鶴川「殺人事件があったらしいっすよ。パトカー何台か停まってるって聞きました」

秦「へえ! ちょっと見に行ってみようかな。ここ頼むよ」

   秦、鶴川に誘導棒を強引に渡し、駐車場を出ていく。

鶴川「えっ、ちょっと! センパイ! また隊長に言いつけますよ!」


○同・警備室

   栗平(45)、猫に話しかけながらエサをあげている。

栗平「お前、また美人さんになったんじゃないかぁ?」

   鶴川、大きな足音をたてて入ってくる。

鶴川「栗平隊長! 海老名さんがまた勝手にサボりに行っちゃったんですけど! あたしに仕事押し付けて!」

栗平「まったく、しょーがねえな、アイツは」

鶴川「何であの人辞めさせないんです? 他の隊員に示しがつかないじゃないっすか」

栗平「エビちゃんはなぁ、まあ、普段はあんなだけど。アイツはやるやつだ。なんか、そう思う。俺は信じてる」

   鶴川、自信に満ちた表情の栗平を疑わしげな目で見る。

栗平「まあまあ、はるひちゃん。エビちゃんの分も頑張ってきてよ。後で美味しいお菓子あげるからさあ」

鶴川「やったー! はるひ頑張りまーす! ってなりませんよ! あたし幾つだと思ってるんですか!」

栗平「えー、23、だっけ?」

鶴川「まだ今月は22です! ていうか女性に年齢の話するなんてサイテーっすよ!」

   鶴川、怒って警備室を出ていく。
   栗平、もの言いたげな目を出入り口に向ける。

栗平「はるひちゃんが先に言い出したんじゃーん……ねえ?」

   栗平、猫を抱き上げる。

栗平「俺に優しいのはお前だけだよ……最近、娘も冷たくてさぁ。パパ寂しいよぉ」


○アパート・入口前

秦「うわ、野次馬けっこういるな……」

   秦、野次馬の周りをウロウロする。
   秦の制服を見て、人々が道をあける。

秦「通りまーす」

   秦、何食わぬ顔でバリケードテープをくぐり、アパートの敷地内に入る。

秦「この制服って便利だよなー、だから取り扱いが厳重なんだな。俺たちより丁寧に管理されてるもんな……」


○同・裏庭

秦「さすがに部屋ん中は入れねーしな」

   秦、窓から部屋の中を覗き、動き回っている警察官に気づかれないように観察する。
   質素な中にも、幼い子供がいたことがうかがえる室内。 
  
秦「何だアレ? すげーな」

   非常に難易度の高そうなジグソーパズルがたくさん飾られている。

大和「あれぜんぶボクがつくったんだよ」

秦「はあ? あんなん子供にできるワケねーだろ……って、うわあっ!」

   生田大和(6)、秦のすぐそばに立っている。

秦「おっ、お前、いつからそこに!?」

大和「おじさん、ボクみえるの?」

秦「俺はおじさんじゃねーよ! じゃなくて! ……あれ? お前もしかして……」

   秦、大和の姿をじっと見つめる。

秦「もしかして……幽霊?」

   大和、目を丸くして驚く。

大和「すごい! そう、ボク、ユーレイなの!」

   秦、フラッと気が遠くなる。


○ファストフード店・店内(回想)

   秦と蛍、向かい合って座っている。

蛍「えーっ、ユーレイが見えるの?」

秦「しーっ、大きな声出すなよ! そんな大げさなことじゃねーよ」

蛍「だって、ユーレイだよ? ユーレイ!」

秦「つっても、ほとんど生きてる人間と変わんねーよ。ちょっと薄い色してて、俺以外には見えてないらしい、ってだけ」

蛍「きっと秦くんは、心がキレイなんだね。他の人には見えないものが見えるんだもん」

秦「何だよ、それ」

   秦、照れくさそうに顔を背ける。

   (回想終わり)


○アパート・裏庭

   大和、秦の顔を間近で覗き込んでいる。

秦「うひょわああああああ!」

大和「おじさん、うるさくしたらメッ、なんだよ!」

   大和、人差し指を口元に当て、しーっ、とジェスチャーする。

大和「ねえ、おじさんって、ママのおともだちでしょ?」

秦「はあっ? ママ? ていうか俺はおじさんじゃない」

大和「だってママのむかしのしゃしんに、うつってたよ」

秦「ま、待ってくれ、お前のママの名前は?」

大和「いくたほたる」

秦「……生田、蛍。……蛍?」

   秦、愕然とした表情で固まる。
   渋沢(30)、窓の外にいる秦に気づく。

渋沢「おい! 何だお前は? そこで何してる?」

次話:おじさんはケービーン 2

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