【シナリオ】おじさんはケービーン 5

最初:おじさんはケービーン 1

前話:おじさんはケービーン 4

○同・警備室(日替わり)

鶴川「隊長。今日のシフト、海老名さん日勤で入ってませんでしたっけ」

栗平「ああ、エビちゃんなら、自転車泥棒を捕まえたんで、警察まで状況説明に行ってるよ」

鶴川「またですか! 何なんですか、最近のセンパイは」

栗平「今日も、『あれぇ? あのじてんしゃ、さっきとちがうひとがのってるよぉ』ってさ」

鶴川「でた、必殺・子供返り」

栗平「見た目は大人、中身は子供ってか?」

鶴川「最悪っすね、それ」

   警備室に二人の笑い声が響く。


○警察署・ロビー

秦「ぶええっくしょおおおい! ああー」

大和「うわあ、おじさんのくしゃみだ」

秦「おじさんだからな」

   秦、手持ち無沙汰に署内を観察している。
   渋沢、秦の姿を見て歩いてくる。

渋沢「またあなたか。最近ご活躍のようで」

   秦、小鼻をふくらませる。

秦「ちょっと特殊能力に目覚めてしまって」

   渋沢、秦をうさんくさそうな目で見る。

秦「渋沢刑事、そうやって眉間に皺寄せてると老けて見られますよ」

渋沢「老けっ……」

   渋沢、眉間を指で押さえる。

秦「ここだけの話なんですけど」

   秦、声を潜める。
   渋沢、つられて耳を傾ける。

秦「実は、俺、幽霊にとりつかれてるんです」

渋沢「…………は、はあっ?」

   渋沢、動揺する素振りを見せる。
   秦、顎に手を当てて面白そうに渋沢の様子を見る。

秦「おやあ、渋沢くんはオバケが苦手なのかな?」

渋沢「ななな何を。非現実的にも程がある! 私は目に見えないものは信じない質なんです! 何で急に馴れ馴れしくなったんですか!」

   大和、頬をふくらませる。

大和「ボク、怖いユーレイじゃないよ」

   秦のそばを、警察官に連れられた女が通り過ぎる。
   大和、女をじっと見ている。

大和「おじさん、あいつ」

秦「(小声で)ん? あいつ? あの人がどうかしたのか?」

大和「あいつのて、ボクのくびギューッてしたのとおんなじだよ」

秦「なっ……!」

   女は派手なネイルをしている。

秦「渋沢くん、あの女、殺人事件の犯人!」

渋沢「急に何ですか。何を根拠に?」

秦「俺にとりついた幽霊、その事件の被害者なんだ」

   渋沢、顔を激しく引きつらせる。

秦(大和)「ホントだよ! つめ! つめみて!」

   渋沢、後ずさる。

渋沢「どっ、どうしたんですか。からかうのやめてください」

秦(大和)「ボク、あいつにころされた!」

秦(大和)、渋沢の腕に縋りつく。

渋沢「わわわ、分かりましたから! ちょっと離れてください! 担当の警察官に話を聞いてみます」


○公園・ベンチ(日替わり)

   秦、放心したように空を見上げて座っている。

秦「ドラマと違って現実なんてあっけないもんだな。強盗目的、か。あんなアパートに。そんなことでお前たちは……」

   秦、涙を流す。

秦「俺が、もしあの時アイツに、蛍に気持ちを伝えていたら、こんなことになってなかったのかな。それでなくとも、こんなことになる前に、連絡できていたら。シングルマザーやってるアイツの助けになれていたかもしれない。もし……」

   秦、俯いて頭を抱える。

秦「今更、後悔したってもう遅いんだ。俺はいつもそうだ。また遅刻だ……」

   大和、しばらく黙った後、ポツリと喋り出す。

大和「ボクもね、いまはもうできないこと、あるんだ」

   秦、顔を上げて隣に座る大和を見る。

大和「ママとケンカして、ママのこと、キライっていっちゃった。ホントは、だいすきなのに。だから、キライはウソだよ、ごめんね、って、いいたかった……のにっ……」

   大和、しゃくりあげながら涙をボロボロ流す。

大和「でもっ、ボクも、ママも、しんじゃった。ママ、ボクのこと、イヤなこだとおもってるかなぁ……」

秦「……親ってのは、そんなことで自分の子供を嫌いになんてなれるわけねーんだよ。まあ、俺子供いないけど」

大和「じゃあわかんないじゃん、おじさん」

秦「でも、お前よりずっと長く生きてるからな、分かるんだよ。そういうもんだ。安心しろ」

大和「うええええうううううー」

   大和、大声で泣き出す。
   秦、思わず吹き出す。

秦「あっはっは。おっまえ、ママより泣き顔ヒドイなぁ。ずっと笑っとけよ。笑った顔はそっくりなんだから。……つっても、俺はもう、アイツがどんな顔で笑ってたか、どんな声で俺を呼んでいたか、思い出せなくなってきてるんだ。だから、お前の能力、イイよな。ママの笑顔、ずっと覚えていられるもんな」

大和N「いままで、そんなふうにかんがえたこと、なかった。そのことばのおかげで、ボクはじぶんのこと、まえよりすきになれるきがした。でもそれをおじさんにいうのは、なんだかはずかしかったので、ボクはいっぱいないた」


○警察署・廊下

   警察官、歩いている渋沢の後ろから声をかける。

警察官「渋沢さん、聞きましたよ! 例の事件の犯人、捕まえたそうじゃないですか。それにしても覚せい剤所持容疑で任意同行の女が殺人犯だったなんて、何で分かったんですか」

   渋沢、思い出し笑いをする。

渋沢「……幽霊のお告げだ」

警察官「(笑いながら)何ですか、それ。渋沢さんでも冗談とか言うんですね! でも、そっちの方がイイですよ、いつもみたいにしかめっ面してるより。老けて見えますもん」

渋沢「老けっ……」

   渋沢、顔を両手でペタペタと触り、首をかしげる。

次話:おじさんはケービーン 6(完)

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