【シナリオ】おじさんはケービーン 6(完)

最初:おじさんはケービーン 1

前話:おじさんはケービーン 5

○ショッピングモール駐車場・警備室(日替わり)

   鶴川、室内に入ってくる。
   秦と栗平、何やら話している。

秦「もうそんな時期ですか」

栗平「今年もよろしくな」

鶴川「何ですか?」

秦「大凧祭りの臨警だよ」

鶴川「えー、センパイって臨時警備やるんっすね」

栗平「大体は嫌がるけどな。エビちゃん、これだけは文句言わないよな」

秦「イイじゃないですか、大凧。俺、あれが空高く上がってんの見るの好きなんですよ。ツルも参加してみれば?」

栗平「おお、そうだよ、はるひちゃんも参加しな!」

鶴川「大凧祭りですかぁ。子供の頃、見に行ったことありますけど、屋台に夢中で。あんまり覚えてないんですよね」

栗平「俺が毎年撮ってる写真、あるぞ」

秦「隊長、カメラが趣味なんだよ」

鶴川「へえー、見たいです!」

   栗平、棚からアルバムを持ってくる。

鶴川「たくさんありますねえ」

秦「けっこう懐かしいのもあるなあ」

大和「あっ、ママだ!」

秦「えっ?」

   大和、一枚の写真を指さす。
   写真には、秦たち警備員の後ろに、ベビーカーを押す帽子をかぶった女性が写りこんでいる。

秦「隊長! この写真、借ります!」

   秦、写真を持って警備室を飛び出す。


○同・ベンチ

   秦、手にした写真を見つめる。

秦「まさか……俺たち、こんな近くにいたことがあるなんて。このベビーカーに乗ってるの、大和だろ? 5年前くらいか?」

   大和、秦の写真を持っている手に触れる。
   秦の目の前に大和の記憶の映像が映し出される。

秦「これは……大和の記憶?」

大和「しゃしんみたらね、あたまのなかにうかんできたの」


○大凧祭り会場(回想)

   澄み渡る青空。
   川沿いの広い空き地は家族連れで賑わっている。
   蛍(30)、喧騒から少し離れて、気持ちよさそうにベビーカーを押して歩いている。
   突然強い風が吹き、蛍のかぶっていた帽子が飛ばされる。
   蛍、慌ててベビーカーのタイヤにロックをかけ、帽子を追いかける。
   ボールが転がってくる。
   ボール、ベビーカーに軽く当たり、止まる。
   秦(30)、ベビーカーまで走ってくる。
   秦、ボールを拾い、ベビーカーを覗き込んでニカッと笑う。

秦「ボール止めてくれてサンキューな!」

   秦、振り返って大声で叫ぶ。

秦「おーい! ちゃんと周り見て気をつけて遊べよー!」

   秦、ボール遊びをしていた子供の元へ走って戻っていく。
   蛍、帽子を持って戻ってくる。

蛍「ごめんねえ、お待たせ。あら、なーに、大和。ずいぶんご機嫌じゃない」

   大和(1)、ベビーカーの中でキャッキャッと笑っている。

   (回想終わり)


○ショッピングモール駐車場・ベンチ

   秦と大和、手を触れ合わせたまま座っている。

大和「ボクとおじさん、まえにあったことあるんだね」

   秦、目を潤ませている。

秦「ありがとうな、見せてくれて」

大和「おじさん、またないてるの? なきむしだなあ」

秦「うるせ。年とると涙もろくなるんだよ」

大和「ホントにおじさんは、ボクがいないとダメダメだね」

   大和、腕を伸ばして秦の頭を撫でる。
   穏やかな日差しが二人に降り注いでいる。

大和N「だから、ママにはそっちでもうすこし、まっててもらおうとおもいます。ごめんね」


○アパート・蛍と大和の部屋(回想)

   部屋の中を西日が照らしている。
   大和、真っ白でとても小さなジグソーパズルの最後の一つをはめる。

大和「できたあ」

   蛍(35)、大和の頭を撫でる。

蛍「すごーい! またこんなに速く完成しちゃったの? 大和は本当に記憶力がいいわね。あなたの力はね、きっと誰かの役に立つ時がくるわ。どこかで大和のことを必要としてくれる人が待ってるの」

   大和、不思議そうな表情。
   蛍、柔らかく微笑んで大和を抱きしめる。

   (回想終わり)


○ショッピングモール・屋内(日替わり)

   秦、施設内を巡回している。
   携帯している無線機に連絡が入る。

栗平の声「えー、こちら警備室。海老名隊員、取れますか、どうぞ」

   秦、胸ポケットに着けたマイクで応答する。

秦「こちら海老名です、どうぞ」

栗平の声「こちら警備室、先ほど中央広場にて、お客様のスーツケースが紛失したとの連絡がありました。周囲を警戒し、異常を発見した場合、直ちに報告してください、どうぞ」

秦「こちら海老名、了解しました。これから中央広場へ向かいます、どうぞ」

栗平の声「無茶はするなよー、以上」

   秦、急ぎ足で来た道を引き返す。

秦「置き引きか? 大和、さっき中央広場を通った時の風景、思い出せるか?」

大和「うん!」

秦「スーツケースって言ってたな……隠せるようなもんじゃないし、広場にあったのを持ってるやつがいたら、そいつが犯人だな」

大和「えっとねえ、さっきはね……はじっこのベンチのとなりに、あおいの、あったよ。あんまりおおきくないやつ」

秦「青い小さめのスーツケースだな。大和、お前も周りよく見て探してくれ」

大和「りょーかい!」

   大和、右手をビシッとこめかみに当て、敬礼のまねごとをする。
   秦、柔らかく微笑む。

秦「それは帽子かぶってる時にやんだよ」


○ショッピングモール駐車場・警備室

   鶴川、制帽を脱ぎながら入ってくる。

鶴川「まーた何か事件が起きたんですか?」

   栗平、無線機を置く。

栗平「今エビちゃんを行かせたから大丈夫だろ。前と違ってエビちゃん、生き生きしてるよなぁ。燻ってた情熱が爆発したみたいに。たまに子供みたいな時あるのは、その反動かもなあ」

鶴川「あたし、最近センパイのアレが一周まわって可愛く思えてきたんですよね。ギャップが癖になるっていうか……」

栗平「えっ!?」

鶴川「……隊長、隊内恋愛ってアリですかね?」

栗平「えええっ!? えっ、ちょっと、はるひちゃん……えっ?」

鶴川「そうだ、隊長、また美味しいお菓子くださいよ。後でセンパイにも持っていってあげて一緒に食べよーっと!」

   鶴川、機嫌よさそうに出ていく。

栗平「ええーっ……」

   猫が子猫を連れてやってくる。

栗平「おっ! お前、子供見せに来てくれたのかぁ? 聞いてくれよ、今度、俺の娘がお前たちを見てみたいってここに来るんだぞーっ、楽しみだな!」

   栗平、デレデレと猫の頭を撫でる。


○ショッピングモール・屋内

   施設内には音楽が流れている。
   秦、音楽に合わせて歌を口ずさむ。

大和「もーっ、おじさんもマジメにさがしてよ」

秦「大和だって、時々よく分かんない歌、歌ってるだろ」

大和「おじさんは、キンチョーカンがたりないとおもう」

秦「なんか最近、お前、難しい言葉使うようになってきたよなあ」

大和「ボクがいるからって、ラクしようとしてるでしょ! ホントにしょうがないなあ、おじさんは」

秦「そう言うなよ、追いかけて捕まえるのが俺の役目だろ? 役割分担だよ、適材適所ってやつ?」

大和「よくわかんない」

秦「信頼してるってことだよ、相棒!」

大和「アイボー? ……あっ!」

   大和、前方を指さす。

大和「あれ!」

秦「よしきた!」

大和「おじさん、ゆだんしないでよ」

秦「はいはい」

   秦、制帽をしっかりとかぶりなおす。

秦「俺たちから逃げられると思うなよ!」

【了】

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