【シナリオ】おじさんはケービーン 4
○ショッピングモール駐車場・警備室(夜)(日替わり)
秦と栗平、コーヒーを飲みながら休憩している。
栗平、数枚の写真を秦に見せている。
学校の制服を着た女の子が写っている。
栗平「俺の娘、かーわいいだろー?」
秦「はいはい、ベリーキュートですね。でも隊長、娘さんとうまくいってないんでしょ?」
栗平「ぐうーっ、きっと今はお年頃で素直になれないだけなんだよ」
大和、写真を秦の後ろから覗き込んでいる。
秦(大和)「このひと、こうえんでラブラブだった!」
秦の心の声「大和! ダメだって言ったろ!」
栗平「(早口で)何!? 彼氏がいるってことか? エビちゃん、見たのか? いつ? どんなやつだった?」
秦「ちょ、ちょ、ちょっと落ち着いてください」
秦、体から離れた大和をこっそり睨む。
秦「(小声で)公園でラブラブって?」
大和「おじさんが、こうえんでないたとき。ベンチにすわってたよ」
× × ×
(フラッシュ)
公園のベンチで高校生の男女が仲睦まじい様子で寄り添っている。
× × ×
秦「ああー、あの高校生カップルか」
栗平「相手も高校生なのか? 健全なお付き合いだろうな?」
秦「いや、さすがにそこまでは知りませんよ……。隊長が直接、娘さんに聞いたらいいじゃないですか。親子なんだから」
栗平「今の状態でそんなこと聞いたら『パパにはカンケーないでしょ! ウザイ! キモイ! もう話しかけないで!』って言われちゃうよぉー」
栗平、机に突っ伏して泣きまねをする。
秦「(気の毒そうに)隊長……」
秦、そっと席を立ち、栗平に気づかれないように警備室を出ていく。
栗平の声「……あれ? ちょっと! エビちゃん!? おーい?」
○ショッピングモール・屋内(夜)
秦「いやー、ちょうど巡回の時間で助かった。付き合ってられるか」
大和「ニャンコ……ニャンコいなかった……」
秦「そういや、最近あの猫見ないな。もともと野良なんだよ。隊長がエサやるから居着いてるけど。今では皆に可愛がられて、いろんな名前で呼ばれてるんだ」
大和「(メロディーにのせて)ニャンコ、ニャンコ、ニャンニャン」
秦「何だその歌。…………俺に入ってそういうの歌うなよ、大和。いや、俺に入るのもダメなんだぞ、いいな?」
大和、ニャンコの歌を歌い続ける。
○同・中央広場(夜)
大きなクリスマスツリーがイルミネーションに彩られている。
男子高校生がツリーを見上げてキョロキョロしている。
秦「どうしました?」
男子高校生「あっ、警備員さん! 猫が、子猫がツリーに登っちゃったみたいで。上の方から鳴き声がするんですけど、よく見えなくて」
秦、ツリーを見上げる。
子猫の鳴き声が聞こえる。
秦「よし、登ってみるか。本物の木じゃないし、いけるだろ」
男子高校生「大丈夫ですか?」
秦「おう、任せとけ」
秦、ツリーの土台に近寄る。
真下から見上げると、中心にやや太いポールが立ち、その頂点から吊り下げられた数十本の電飾が円錐形に広がってツリーに見える作りになっている。
大和「あっ、ニャンコいた!」
足元を警備室の猫がウロウロしている。
秦「あれ? 何だ、お前こんなところにいたのか。もしかして上にいるの、お前の子供か? 待ってろよ、俺が見てきてやるから」
秦、少し離れて助走をつけ、ツリーの囲いに足をかけて飛び上がる。
ポールに飛び移り、するすると登っていく。
大和「おじさん、おサルさんみたい!」
秦、上の方まで登り、耳をすませる。
子猫の声がする方を注視すると、電飾に子猫が引っかかっている。
秦「うわー、ちっちぇなぁ。コイツは軽いから電飾を登れちゃったんだな」
秦、片手で子猫をそっと抱き上げる。
そのままポールを一気に滑り降りる。
男子高校生、走り寄ってくる。
男子高校生「ああ、よかった! 警備員さん、ありがとうございます!」
秦「君が見つけてくれたからだ。ありがとう」
と言いながら子猫を母猫の元へ帰す。
男子高校生「僕、猫飼ってるから鳴き声に敏感なんです。今日、ホントは彼女とクリスマスツリー見にくる予定だったんですけど。何故かこのショッピングモールは嫌だって断られちゃって。彼女も僕と同じで猫が大好きだから、ここにいたらきっと喜んだだろうな」
大和「ねえ、おじさん」
秦「(小声で)何だ?」
大和「あのひと、さっきのしゃしんのひとと、ラブラブのひとだよ」
秦「(小声で)隊長の娘さんの彼氏? マジかよ……噂をすれば何とやら、だな」
男子高校生「じゃあ、僕はこれで。本当にありがとうございました」
秦「あ、待って待って! 君の彼女に伝えてくれる?」
男子高校生「彼女にですか?」
秦「そう。『君のお父さんの職場の猫に、めちゃくちゃ可愛い子猫が産まれたよ』って」
男子高校生「(不思議そうに)はい、分かりました」
○ショッピングモール駐車場・ベンチ(夜)
秦「隊長と娘さん、仲直りできるといいけど」
大和「ふたりともいきてるんだから、なかよくすればいいのに」
秦「まったくだな。でも、そう簡単なもんじゃないんだよな、家族ってのはさ」
大和「……」
秦「……大和っていつまでここにいられるんだ? お前も俺を置いていっちゃうのか?」
大和「わからない。ボクはなんでここにいるんだろう。ママはいないのに」
秦「アイツより大和の方が先に殺されたらしいから、思い残すことがなかったんじゃないか。天国でお前が待ってると思って、急いで成仏したのかもな」
大和「ボクにはおもいのこすことがあるってこと?」
秦「さあな。俺に聞くなよ。お前のことはお前が一番よく分かってるんじゃないのか」
大和N「ボクがおもいのこすこと、たぶんあるけど。でもそれは、いまはもうできないことだ」
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